元服と独立
遠江 浜松城
信勝は於義丸の元服に出席していた。
信勝の『勝』の字と、父であろう、家康の『康』の字を取り、勝康とし、松平勝康と名乗った。
信勝は最初にこの名乗りを聞いて、「気を使わなくていい」と言ったのだが、本人がそうしたいらしく、認めた。
信勝「勝康、お主には、働いて貰うし、娶って貰う」
勝康「はい」
信勝「東に、北條攻めの総司令官になって貰う。
まだ、北條攻めはしないが、ある老人が亡くなってからの話よ」
勝康は北條元庵宗哲の死を待っている信勝に、「時間をかけ、ゆっくりと準備をせよということでしょうか?」
信勝は笑って、「そういうことだ、嫁取りもその一貫だな、先に私の方が先になりそうだがな。」
最後の言葉は少しうんざりした表情を浮かべていた。
播磨 明石 羽柴の本陣
秀吉は自身の軍に、一族や家臣の家族を紛れ込ませて、長浜から出陣し、途中、蒲生氏郷と会い、その際、氏郷との会合した時のことを思い出していた。
《氏郷『羽柴殿」
秀吉「お久しぶりでござるな、氏郷殿、長宗我部攻めを命じられた故、少し立ち寄った」
氏郷は悩んでいる表情を浮かべていた。
秀吉には何に悩んでいるか、分かっていた。
秀吉「拙者はここに戻ってくることはないかもしれない。
後は、よろしくお願いする」
氏郷は「承知しました」
少し話をして秀吉は去って行った。
氏郷は秀吉の言葉を反芻して、唖然としたのはしばらく経ってのことだった。》
秀吉は主だった家臣達を集めた。
弟の秀長、軍師の黒田官兵衛、蜂須賀小六正勝、前野長康、浅野長政を集めた。
正勝「殿、長宗我部攻め、我々一手では厳しい、どうするつもりだ」
官兵衛も思案にくれている。
秀吉は深刻な表情をしていたが、「長宗我部攻めは、仙石秀久に虎、市松らに山内、堀尾に命じておいた。
淡路は大丈夫だろう。
それよりも、儂はお主らを信じて、儂の胸に収めているものを明かす。
儂は織田家より離れ、独立した大名になる。
信長様の死で機会を得たと思ったが、武田信勝が阻んだ。
織田家は信勝のせいで、混乱している。
信孝や権六めには、まだ織田家は大丈夫だろうと思っているようだが、信勝には勝てぬ。
織田家は信勝の手にかかる、近いうちに。
ならば、早い内に、独立して、武田との交渉に移る。
生き残ることを考えねばならぬ。」
官兵衛「致し方ない、ここまで盤面を崩された以上は。
天下を取れると思ったのだが」
官兵衛は嘆息しながらも「しかし、交渉と言っても大丈夫だろうか。
武田にお市様がいる以上、浅井の件が」
秀吉「その時はその時よ。
とりあえず、姫路に向かう。
独立する準備をしておかねばならぬ。」
秀吉は姫路に入り、着々と織田家からの独立を目指すことになる。




