幻庵の悩みと信勝の内政計画
相模 小田原城
北條幻庵宗哲は武田の情報を集めようとしたが、風魔が去ってしまい、困難を極めていた。
幻庵『困ったのう。北條は耳目を失ってしまった。武田が何を仕掛けてくるか、わからぬ、それに不安を感じている。
軍事では武蔵が落ち着かぬようだ、忍城の成田氏長、長親らが武田に降ったのを皮切りに
武蔵の国人領主が次々と武田の調略に嵌り、
武田に降る者が相次いでおる。
そのため、下総で佐竹と戦っていた、綱成が玉縄に退いたようだ。
下手したら孤立してしまうと思ったのだろう。
綱成も儂も歳、儂らが亡くなれば、武田はこれ幸いと北條の領地を毟り取るだろう。
氏政殿や氏直殿の器量ではこの難局は乗り切れぬ。
武田との講和を考えた方がよいか。
しかし、織田家の混乱さえなければ、それにしてもまだ死ねぬ』
溜息をつきながら、ぼやいた。
しばらくして、玉縄に退いた地黄八幡こと北條綱成が病の床につき、亡くなった。
幻庵はさらに苦悩することになる。
遠江 浜松城
信勝は北條綱成が亡くなった報告を聴いた。
昌幸「地黄八幡殿が亡くなったそうで」
信勝は頷き、「まだ、幻庵老がいる。
あの老人がいるため、まだ手が出せぬわ。
まだ、時間をかけよう。
幻庵老が亡くなるまでな。
こちらは統治に時間をかけれる。
米に傾注することから、新しい作物や救荒作物の奨励して欲しいことは理解出来るはず。」
昌幸「信勝様の心配は当たる可能性がありますな。
必ず収穫出来るという保障はない。
だから稲作を行ないながら、別のものも奨励する。
売れるようにすれば、民百姓達の収益は上がるし、飢饉や天変地異にも対処出来る」
信勝は頷き、「上野のように、織物だけではない、甲斐や信濃、尾張、三河、遠江、駿河にも同じようなものもある筈だ。
尾張は信長殿の統治が行き届いている。
それを参考にする。」
昌幸は頷き、「ところで、信勝様、そろそろ後継のことを考えていただきたい。
信勝様に何かあれば、どうなされるおつもりですか」
信勝はハッとして、「考えねばならぬか。
そうだな、私に何かあれば、不安を感じているか」
昌幸「はい、お市殿や妙印尼殿から」
信勝は溜息をつき、「で、正室候補は誰か、
茶々、督か」
昌幸「はい、そうなりましょう。
妙印尼殿がしっかり育成されてますからな。
信勝様が心配されることはありますまい。
それと初、江様も同じように学んでいます。
」
信勝は笑って、「そうだな、しかし二人もか、まあ、しっかり育成しておけば、嫁がせるにせよ、無駄にはなるまい。
それより、於義丸の件だが、元服させる。
あれには、いずれ、源三郎や岡部、九鬼らに命じて北條を攻めてもらうつもりだ。
元服の要請があれば、執り行えるように」
昌幸は頷き、「では」
昌幸は部屋から退出して行った。
残された信勝は『まあ、茶々、督、しっかりとあの女丈夫から学べ、私としては安心して遠征出来るゆえ』
信勝の周りが賑やかになる日は近いのは無理からぬことだった。




