昌幸の計画
上野 岩櫃城
昌幸は報告を受けていて、瞑目しながら、『
お屋形様、さぞご無念だったことでしょう。
儂のことを信じて岩櫃城に落ち延びて下されば、捲土重来を図れたものを』
と嘆いた。
『だが、お屋形様の忘れ形見、信勝様が存命である以上、武田は滅んでいない。
お屋形様、儂は信勝様を擁し、武田家を再興して見せまする。
法性院信玄公より、学び得た兵法で持って』
昌幸は立ち上がり、密かに匿っている信勝の住む庵に向かった。
岩櫃城の中腹にある庵は目立たない場所にある。
昌幸『信勝様、いや若殿、凶報にございます』
昌幸が言いづらそうにしているのを見て、信勝は悟らざるを得なかった。
信勝「父が死んだのだな」
昌幸「はい、小山田信茂の裏切りに遭い、天目山で」
信勝「小山田は?」
昌幸「信忠殿に捉えられ、処刑されまして、ございます」
信勝は瞑目してから、「これからどうするが良い」
昌幸「信勝様の存命はまだ知られてませぬ。
知られてないことを利用し、敢えて、織田に服従し、力を蓄えながら、武田家の旧臣達を呼び集め、上野一国を切り取ります。
上野には武田家に仕えていた者もおりますれば、馳せ参じる者もいましょう。」
信勝「内藤、安中、鈴木などかな、北条に鞍替えしたと聴くが」
昌幸「武田家が滅んでしまい、大樹がいないため、不安を覚えた故にて仕方ないかと」
信勝は頷き、「力がない故な。
それに戦力も乏しい。私が生きていたとして駆けつけるとして、織田、徳川、北條、上杉も、大量に武田の旧臣が上野に来たら、怪しむ者もいるだろう。
少しずつ増やすしかあるまい。
まずは、誰を味方につけるか、まずは内藤昌月だろう。
祖父信玄が、評価していた、安中だが、安房守、口説けるかな」
昌幸「やってみましょう、某が口説き、味方するように持っていけば、ほぼ、無血で上野一国を得やすくなりましょう。
それに信勝様に謝って置かねばならないことが、某は北條と手紙のやり取りをしておりました。
武田との国交の修復を図っておりました、密かに」
信勝「そうか、どうだった」
昌幸「謙信殿の後継者争いがありました故、なかなか頑なでした」
信勝は頷きながら、「不信感を持たれたのは仕方ない。」
外の庭を見て、信勝は「昌月らとこの庵てま会うように仕向けてくれ、安房守。」
昌幸は信勝が何を考えているのか悟り、自ら口説き、味方につけたいと言う思いなのだろう、と。
昌幸「分かりました、私も手伝いますが、若殿の力量が問われます。
武田家復興の最初の試練とお思い下され。」
信勝は「出来ねば、武田家復興出来ぬ、彼らに頭を下げて請うつもりだ。」
昌幸は信勝の覚悟を見て取り、満足そうな笑みを浮かべた。
三日後、昌幸は内藤昌月に会うべく、厩橋城を尋ねて行った。




