閑話
三河 矢作川
信雄勢は殆ど、討ちとられるか、逃げ散るかだったが、信雄に馬を貸さなかった武者と武田に仕える、朱槍を持った武者が一騎打ちをしていた。
何十合、百合近く、打ち合っている。
信勝はそれを見て、戦っている場所へ馬を駆った。
「双方、槍を退け」
前田慶次郎「若殿、このようなところに参るとは」
信勝「あまりに凄まじい一騎打ちだったため、追撃をかけ損ねた。
そちらも退け、追撃はせぬ」
◯◯「退けとは言われましても、某も帰るところがござらぬ故」
信勝「名を聴いておこうか」
◯◯「可児才蔵吉長」
慶次郎「そうか、通りで、某は」
才蔵「前田慶次郎利益、滝川一益殿に仕えていると思っていたが」
慶次郎は笑って、「風ゆえに」
信勝「才蔵、どうするのだ、これから」
才蔵は槍を離し、「降伏するしかありませぬな、信雄殿に馬を貸さなかったもので、馬は武士の宝の一つ、貸借りなど、もっての他ゆえ」
信勝「確かに、どうだ、私に仕えないか」
才蔵は眼を見張り、慶次郎は笑っている。
才蔵「驚きましたな、このような場所にて勧誘されるとは、信勝様に仕えましょう。
今後とも良しなに」
可児才蔵が部下に加わった瞬間だった。




