家康の苦悩と調略
安土
家康は浜松にいる石川数正から書状を受け取り、読むやいなや、投げつけていた。
「おのれ、信勝め」
悔しさのあまり、爪を噛んでいた。
側にいた穴山梅雪も苦渋の表情を浮かべ、本多正信まで苦り切った表情だった。
駿河を得たが、武田と戦って得た成果が乏しいものになってしまったからだ。
早く浜松に帰りたいが、帰れない状況も合わせて、苛立ちを禁じえない家康だった。
上野 岩櫃城
風魔小太郎から、信長が再び東征を行なうという報告が入った。
「信忠殿を総司令官、副将が、ムッ、そうか、御坊丸か。
滝川一益、河尻秀隆らも参加、兵数は五万か。
信長殿は参加しないらしい、西方の羽柴筑前守の援軍に向かう、か。
信忠殿らの出発は七月。
他に変わったことは、徳川の接待を任されていた明智が、接待役を強制的に罷免された。
その際、明智はかなり、思い詰めていた。
貴族の句会に参加した句は、これだな」
信勝の表情が変わり、「これは。」
昌幸も読んだ。
「謀反を企んでいる、時は土岐に天が下しるとは天下を取る、皐月かな、今がその時だ」
信勝「もし、明智日向が謀反し、運良く、信長、信忠を撃てたら、中央が混乱する。
機会ではあるが、希望的観測でしかない。
小太郎、信長の動き、明智の動き、他の織田の家臣達の動き、油断することなく、監視を。
油断したら、今川の二の舞になる。」
小太郎は頷き、「織田が来るまで、準備しなければならぬ、ところで例のものは出来そうか。」
昌幸「はい、調合に時間は、かかりましたが」
信勝「火縄銃にこだわりすぎた、硝石、硫黄、焰硝など火薬を武器にする。
忍びが使う煙玉を参考にしただけよ。
上手くいけばいいなと言うもの。
もう一つは、あれは危険なものだ。
碓氷峠を火の海にしてしまうものだ。
弱点は、雨や湿気だがな」
昌幸「暑くなれば、なるほど、使いどころを間違わなければ」
信勝は頷き、「ところで、長尾、由良は何か言ってきたか、内藤に」
昌月「はい、本領安堵を。」
信勝は後は彼女の選択次第だと感じていた。
「武蔵はどうだ。調略はかけている筈だが」
昌幸「信勝様、焦りなさいますな、調略は時間がかかるもの。」
信勝「信長の動きが気になる余り焦っていたか、ところで、佐竹と上杉の同盟を仲介して良かった。」
昌幸は頷き、「北條の圧力を分散させただけでも大きい。」
小太郎「幻庵老や綱成殿が頑張ってはいますが、彼らも老齢、後はどうなるか不安を煽ってみますか。
氏政殿の器量を疑う者あたりに」
信勝は頷いた。
しばらくして、由良、長尾が武田に服属し、忍城の成田への調略が始まることになる。




