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その女、赤狐

第一歩兵隊との行軍はしばらく続いた。

空模様は相変わらずどんよりとした黒色。湿気が多く生温い風が肌にまとわりつく。

辺り一面見通せる荒野に飽き飽きしていたころだが、次第に地面に起伏が現れてきた。

あれ、山だ。

前方にそびえ立つ山々は荒野を横断する壁のように長く連ねている。


「ジロー、あれは(ゲート)と呼ばれる山だ。危険な荒野から街を守る役割がある。言わば自然の盾だ」


ゲート。

見渡す限り山で塞がれていて、ここを越える以外に道はなさそうだ。

なるほど、門か。随分洒落たネーミングじゃないか。この世界は俺と感性が似ている。

そう思えてきた。

山を越えた先にある街がどんなものか、興味が湧いてくるよ。


「だが、守ってくれるだけではないぞ」


岩男がまた話しかけてきた。

というか、なんで俺のそばに張り付いているんだコイツは。あっち行けよ。


「この山は古来より家を失った町民達が山賊となって拠点を構えている。立ち退くよう再三要請してきたが、むしろその数は増えるばかり。我が国の貧困を象徴しているな」

「要請なんて生温いこと言ってないで、鎮圧しちまえばいいんじゃないの?」

「山賊とは言えど元は町民だ。あまり手荒な真似はしたくないのが心情だな」

「なるほど。素性も知れない奴に対しては、こっちの話も聞かないで、いきなり馬で引きずるわけだな。良く分かるよ」


俺は目一杯皮肉を混じえて返答した。当然この件は蔑ろに出来ない。


「む、エドガーが謝罪をしたはずだ」

「あんたから聞いた覚えはないね」

「小僧、口の利き方に気をつけるんだな。また痛い目を見るぞ」

「部隊が保護している人間に手をだそうってのかよ」

「俺はそんなこと一言も言ってないぞ」

「屁理屈ばっか言ってんじゃねえよ、この岩男」

「クソガキがぁ」


お互い熱くなってきているのが分かる。

次第にその距離は近くなり額がくっつく程であった。


「過ぎたことをいつまでも言いおって。女みたいに陰湿な奴だな」

「女みたいな名前なのはあんただろうが!」

「なにをぉ!」

「このぉ!」


いつの間にか馬上で取っ組み合いになっていた。

我ながら器用である。


「二人共、いい加減にしないか!馬が暴れるぞ」


見かねたエドガーが仲裁に入った。


「喧嘩はそこまでだ。山賊門に入るぞ」


エドガーの背中から顔を出すと、木々が複雑に絡み合い、天然の扉のようなものが視界に入った。


「エドガー、山賊門ってなに?」

「関所のような物だ。あそこで山賊共に通行料を払わねばならない」

「山賊に通行料って、こっちは軍隊だろ?」

「小僧、奴らを甘く見るなよ。鎮圧しない理由は他にもある。その細い目を開けてよく見てみろ」


歩兵が松明で照らしているものの、周囲は薄暗く視界は非常に悪い。よく目を凝らすと木々の間で蠢く影の存在に気付いた。やがて周囲の至る所で影を散見するようになった。

なんだ?動物か?


「よーし、そこで止まれ!」


突如山の全てに響き渡るような声が上がった。威勢の良い声だが、どこか丸みを帯びた声色。

女の声だ。

部隊が足を止めた瞬間、草木が擦れる音が幾つも重なりだした。


「な、なんだ?」


静かな森の中、木々の間、または地面から、次々と人間が出現したのだ。何人も何人も、まるでゾンビや妖怪の如く現れ、あっという間に部隊を包囲した。


「これが山賊…?」


身なりが汚く、無精髭を生やした屈強な男達。この目で確認出来た人間、その全てが何かしらの武器を携えている。統率のとれた迅速な動き、一人足りとも逃げることが叶わない網目のような配置。

何よりこの数だろう。

取り囲んでいる人間は100人を超えている。

これは山賊なんてもんじゃない。強大な武装勢力、または軍隊だ。


「どうした小僧、驚いたか?」

「驚いたなんてもんじゃない。腰を抜かした」


呆気に取られていると、草を踏み潰す足音が近付いてきた。

あれは…女だ。

赤い髪、痩せ型ではあるが引き締まった二の腕、腰には短刀を帯びている。顔は…凛々しい眉毛に高い鼻と大きく丸い目、凄い美人だが気が強そうだ。

はっきり言って好みである。

名前、年齢、彼氏の有無など、聴かねばならぬことが山ほど出来た。


「エドガー、あのナイスなチャンネーは誰だい?」

「ナイスなチャンネー?奴はゲオグライ·ドラグノフ。この山賊達の頭領。通称、赤狐(レッドフォックス)だ」

「ゲオグライ…すげぇ名前だ。でも赤狐ってカッコイイな。ん…ドラグノフ?」


どこかで聞いた名前だな。

誰だっけ。


「我がドラグノフ家の恥さらし。出来の悪すぎる娘だ」


え?娘?

色々とツッコミ所が満載ではあるが、兎も角この瞬間は二人にとって運命の出会いとなるのであった(予定)。

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