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歓声の違いだ

「うっわぁぁぁぁぁ!」


たっ、高い!

自分の体が重力に反して上昇して行くのが分かる。そして異世界がぐるぐる回っている。視界に見え隠れする鎧達が雛人形のように小さかった。

勢い良く上昇していた体が空中で停滞すると、やがて物凄いスピードで地面に吸い寄せられ始めた。

終わった。完全に終わった。第一部も二部もない。

俺、完。

どうしてこんな事になったのだろう。芸人になりたくて親の反対を押し切って東京に出た。右も左も分からないうちに芸人スクールへ入学し、そこで横川と出会ったんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺、今日の授業で相方になる横川だ。よろしくな」


む、なんか冴えない顔してんなコイツ。明らかに才能もなさそうだ。こういう奴に舐められちゃおしまいだ。いっちょ関西弁で黙らしてやろうか。


「わいは坂巻や。よろしゅう頼んまっせ!」

「え?…関西人?」

「せ、せやで。関東者の笑いは苦手やさかいに、足引っ張らんといてな!」

「あ、ああ。わ、わかったよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


狙い通りぐうの音も出ないほどに黙らせたわけだが、その時の横川の顔はどこか苦い顔をしていた。今思えば、あの時俺のエセ関西弁に気付いていたんだな。

他のスクールの連中はどうなんだろう。やっぱり気付いていたのかな。だとするならば、俺はめちゃくちゃ痛い奴じゃないか。

このままじゃ死ねない。俺にはやり残した事がある。スクールに戻って、標準語で会話をするんだ。そうすれば、一時の過ちだと皆分かってくれる。人間誰しもが抱えているブラックヒストリーの1ページだと理解してくれる。

どうか…もう一度チャンスを。


「ぐえっ!!」


背中に再び強い衝撃を受けて臓器のどこからか鈍い声が出た。

クッションのような物に着地したのだろうかと思いきや、トランポリンの如く再度宙を舞った。そしてそのまま草むらに投げ出された。


「ひぃ、は、ひぃ」


地面に激突し即死することは免れたようだが、息が出来ない。かすれた声だけが喉から発せられている。一命は取り留めたようで取り留めてない。

く、苦しい。

胸の部分を押さえしばらくのたうち回っていたが、次第に酸素が体内に取り込まれてきた。短い息を何度も吸って吐いた。

生きてた。まだ生きてた。

しかし、生きていたからなんだと言うのか。

異世界なら笑わせられるという自信は、脆くも打ち砕かれた。ミミズ如き笑わすことが出来なかった自分に激しく嫌悪感を抱いた。

また…感性の違いかよ。なんなんだよ俺は。俺の感性に合う奴なんて存在しないんじゃないか。

絶望に打ちひしがれていると、周囲からわっと沸き上がる声が聞こえた。


「効いてるぞ!」

「これは言霊だ!」

「いけるぞ!全軍隊列を戻せ!」


これは感性ではなく、歓声の違いだ。

前方に目をやると、ミミズが体を小刻みに震わせ呻き声を上げている。

あれ、さっきのめっちゃウケてるじゃないか。


「スピアー!投擲始め!」


ここぞとばかりに大型の投擲槍を一斉に投げ始めた鎧達。

ミミズの体に対しての槍は小さすぎるが、50数人の一斉投擲にはたまらない様子だ。槍が突き刺さる度に、ミミズは大きな体を激しく揺さぶった。


「大砲撃てー!!」


間髪入れずに号令が発せられたが、なんと統率の取れたことか、車輪が付いた大砲からすぐさま轟音が鳴り響いた。二度、三度、大きな弾丸は繰り返し発射され、その全てがミミズの体を粉みじんに破壊していく。次第にあの巨大なミミズは跡形もなく消え去ったのだ。

呆気に取られている俺には構わず鎧達は歓喜の声を上げている。

何だかとんでもないところに来ちまったな。

黒く濁った空を見上げて途方に暮れていると、数メートル先から声をかけられているのに気付いた。


「言霊師、おーい言霊師」

「ことだま?え?俺?」


金属音を鳴らしながら一人の鎧が近付いて来ている。

先程のぞんざいな扱いに身構えていたが、鎧は兜を脱いで金色の長髪を振り払い端整な顔立ちを見せた。


「手荒な真似をしてすまなかったな。協力感謝するぞ」


感謝…か。はは、良くわかんないけど、俺この世界でやれるかも。

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