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これが異世界

「おい…」

「おい…ろ」

「おい!起きろ!」


怒鳴り声と同時に背中に衝撃が走った。何か金属的な物で殴られたようなそんな痛みに俺は絶叫した。


「いっっってーーー!」


何だよ何事だよ!

さては先程の漫才がつまらなすぎて憤慨した客の一人が「無駄な時間を過ごした。費やした時間に対する賠償を支払え」と大人のジャイアニズムを発動し、たかりに来たか。俺はそんな脅しには屈しないぞ。

俺は背中を押さえつつ、声の発せられた方を睨みつけた。


「何だよ!金なら返さないぞ!…て、あれ…よ、鎧?馬?何これ?」


俺の視界の先は異様な光景だった。銀色の西洋甲冑を来た人間が、何十にも重なった隊列を組み俺を取り囲んでいるのだ。

困惑している俺に追い討ちをかけるように、光り輝く鋭利な刃先が突きつけられた。


「お前何者だ!?」

「ちょ、ちょっと、待ってください、お金払います」


俺は早めに屈した。これは無理だよ。


「おい!聞かれた事に答えろ!何者だ!」

「お、俺は坂巻次郎です!先程は稚拙な漫才を披露し誠に申し訳ございませんでした!」

「何を言っている?怪しい奴だな。おい!引っ捕えろ!」


その言葉と同時に俺の両手首に縄がかけられた。縄の先は屈強そうな鎧人間が力強く握っている。


「え、え、ちょっとちょっと」


俺の意見などお構いなしの様子で鎧人間達は隊列を組み直した。


「全軍進め!」


一際大きい怒号が辺りに響き渡るとその場の全員が動き出した。そして縄を握っている鎧はあろう事か馬に跨りだしたのだ。


「え、うそ、うそでしょ?」


予想通り馬は勢い良く走り出した。


「うわぁぁ!」


縄が軋むほどにピンと張ると俺は地面に引きずられた。


「い!痛い!痛い!」


立ち上がろうとしても勢いがよすぎて立ち上がれない。片足を立ててもすぐに体勢を崩されてしまう。衣服は破れ、みるみるうちにボロボロになっていく。

地獄だ。

なんなんだよこれ。俺、殺されちゃうよ。

絶望に打ちひしがれていると、前方で再び怒号が上がった。すると馬は急停止し、俺は加速がついたまま地面に滑りながら停止した。


「う、うう」


傷だらけの体をなんとか引き起こし前方を見ると、またしても異様な光景が視界に入った。

なんだ…あれ。

鎧達の隙間から見えるアレは、明らかにこの世の物ではなかった。

ミミズ?でっかいミミズ?

こう表現するのが適切かどうか分からないが、とにかくミミズだ。そして、デカイ。恐竜くらいある。その表現も適切かどうか分からないが、とにかく恐竜くらいある。

ミミズが前方の景色を覆うように立ちはだかっていたのだ。


「ワームだ!」

「下がれ!食われるぞ!」

「盾だ!大盾を出せ!」


綺麗な隊列を組んでいた鎧が大声を上げて慌てだした。

そりゃそうだ。あんなの出てきたら誰だって慌てる。でも俺は不思議と恐怖を感じなかった。だが、寝起きで鎧に囲まれ、縄で引きずられる、今の状況には酷く怯えている。

あのミミズだ。あのミミズからは恐怖を感じないんだ。


「来たぞ!全軍防護!」


怒号が響いた瞬間、物凄い風圧と共に地面が揺れた。ミミズが尻尾で鎧を叩き潰したのだ。

辺りに鈍い悲鳴が発せられる。

更にミミズは追撃と言わんばかりに鎧達を薙ぎ払った。すると鎧が次々と宙を舞う。


「下がれ、下がれ!」


鎧がじわじわと後退を初め、いつのまにか縄が離されいることに気付いた。

鎧は俺の存在など気にもせず後退し続ける。やがて俺が先頭に立つようになると、ミミズは俺を見下ろした。

すげぇ光景だな。

俺は妙に冷静だった。今自分がいる状況は普通ではなく、この世の物ではない。俺の知らない世界。異世界だ。願いが叶っちまったんだ。

俺は一つ深呼吸してミミズを睨みつけた。

やってやる。笑いを生み出してやるよ。


「どーもー!僕は坂巻、こちらは相方の横川はん。二人揃って坂川はんですー!どうぞ宜しくお願いしますー!こら横川はん、ちゃんとお客さんに挨拶しいや。行儀悪いで、って誰もおらんやないかーい!」


俺はミミズの尻尾で天高く跳ね飛ばされた。


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