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異界へと舞い降りた笑天使

眼前にそびえ立つは禍々しい気を発するは大空洞。巨人の通り道かと思える程巨大な入り口。まるで生物を飲み込むブラックホール。


「ここが…棲家か」

「想像以上の悪気だな。私の短刀も疼いている」

「精霊さんはヤル気満々ですね」

「無論私もだ。全身の血管が脈を打って騒いでいるよ」

「あなたも物騒ですね」

「…む!?伏せろ!」


そんな急に言われても反応出来る訳が無い。漫画の読み過ぎだ。

ポッカリと空いた入り口の奥が赤く揺らめいた。その刹那、その赤い揺らめきが波動状の光線となり俺を一瞬で吹き飛ばした。光線の風圧、威力共に絶大で、俺の周囲の瓦礫ごとまとめて塵と化した。


「ジロー!!!」


ゲオの悲痛な叫び声が聞こえる。

それもそのはず、普通の人間であれば、周囲の瓦礫のように塵となっているだろう。火葬する手間も省け、異世界の大地に埋葬されている。

しかし、俺は普通ではないことを知っている。

相変わらず身体の芯には響くが、大したダメージではない。

ふ、非力なり!

俺は倒れた身体を跳ね起きるように手力で跳躍し、失敗して腰を強打した。


「いってぇぇぇ!」

「ジロー!平気なのか!?」


どう見ても平気じゃないだろうが。腰へのダメージは子孫繁栄に影響が出るぞ。

俺が腰を押さえながらもんどりを打っていると、洞窟の奥から地鳴りが響いてきた。その音は徐々に大きくなり、地鳴りはやがて地震となる。何かがあそこから出て来ようとしているのだ。

まるで怪獣の足音。とてつもなくデカイ奴だということは容易に想像出来る。

次第に姿が露になる紅蓮の身体。怪獣といった表現が的確過ぎる規格外のサイズ。鋭利な爪に全てを噛み砕く強靭な牙。二枚の翼はその巨体をも軽々と宙に持ち上げるだろう。


「ど…ドラゴン!?」


赤い色のドラゴンだ。

違うと言われても、俺はアイツをドラゴンないしは赤トカゲと呼ぶだろう。


「何と言うことだ…火龍(レッドドラゴン)がこんな所に…」


ゲオの驚きようが尋常ではない。先程まで戦いを求めていた女の姿は、そこにはなかった。

つまり、こんな序盤で出食わすモンスターではないと言う事か。

ならば選択肢は一つだろう。

全力で逃げる!


「逃げるぞ、ゲオ!」


俺がゲオに指図をするなど、これが最初で最後かも知れない。素人とプロの立場もわきまえずゲオの手を掴んで全力で走り出した。

逃げきれるのか?今来た道を引き返すのであれば数時間は走り続けなければならない。さらに、すぐ後ろからは追いかけているぞと言わんばかりに地鳴りが響いている。

考えている暇はない。走れ!

俺達は無我夢中で走り続けた。二人の荒い呼吸が共鳴しているようだ。せめて集落までたどり着けば民族に手を貸してもらえる。それまで絶対に止まらない。

息を荒らげながらも耳に意識を集中させ、足音で距離を測っていると、心なしか地鳴りが遠ざかっているような気がする。もしかして諦めたのか?

ちらっと振り向くと、隠しようのない巨体は忽然と消えていた。

ゲオを静止させるように腕をぐっと引くと、安堵の表情を浮かべた。


「諦めたのかな…」

「そうだと…いいがな」


元々追いかける気などなく、棲家に近寄った人間を追い払っただけかも知れない。自分の家を守るための威嚇行動と取れば納得は出来るが。しかし、それは完全に油断であったと直ぐに反省させられることとなる。


「じ、ジロー…上だ!」


ゲオの声を聞くと同時に上を見上げた。

つ、翼か…。

大きな両翼は風を仰ぐように巨体を空中で支えている。手を大きく開き、掴んで握り潰してやると意気込んでいるのだろうか。

何れにしろ、家を守る威嚇行動だなんて生易しい考えは今後持たないようにする。

無論、今度があればの話だが。

赤龍は大きく翼を振りかざすと、一度高く上昇し、勢いを付けたまま急降下して来た。

狙いは当然俺達だ。

成す術なし。避けようがない。

巨体が迫り来る風圧に中腰で耐えていると、いつの間にか赤龍の大きな掌にすっぽりと包み込まれた。


「ぐっっ!」

「ジロー!!」


物凄い圧力が全身にかかる。このまま握り潰されてもおかしくはない。

しかし、どれだけ握力を掛けようが俺を潰すことは出来ない。

赤龍の指の隙間から腕を無理矢理出し、ゲオに向けて差し伸べた。


「ゲオ!短刀を!」


ゲオから短刀を受け取ると、そのまま赤龍の指にぶっ刺した。

効いてないか!?

なら何度でも刺してやる!

一回、二回、抜き差しする度に鮮血が噴き出している。

赤龍はこれを嫌がり、俺を投げ飛ばした。

地面に強打されたが、これも効いていない。俺は構わず立ち上がった。

戦闘の真っ最中ではあるが、確信したことが二つある。

俺の不思議な力は不死身ではない。殴られればもちろん痛みを感じる人間だ。

ただ一つ、絶対的に安心出来る攻撃がある。

どれだけ投げ飛ばされても、どれだけ刺されても、絶対に死なない攻撃がある。

それは魔物からの攻撃だ。

俺は魔物によって受けた身体へのダメージを無効化する力が備わっている。

何故このような力があるのかは分からない。異界への転生者が当然のように持っている力の一つなのかも知れない。

理由は分からないが、この力は絶対だ。

その名も【魔物耐性】

そして、もう一つ確信したことがある。

俺は赤龍へ目掛けて駆け出すと、大きな口から吐き出された光線を正面から受け止めた。

衣服は煙をあげて燃えているが、俺にはダメージはない。

魔物耐性を持っているが故の確信。

俺は魔物相手ならどんな奴にも負けない!

手にしている短刀を赤龍に向けて、こう言い放った。


「俺の名は異界へと舞い降りた笑天使、魔物キラー次郎!!赤トカゲよ、覚悟しろ!」


キメ顔だがケツは丸出しだった。


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