ツッコミ待ちの長老
あまりにもつまらないので加筆しました。
ズキズキと残る顔面の痛みを堪えながらゲオの後をついて行った。
見渡す限り平らな大地。辺りを見回してもゲート以外の起伏は見られなかった。この大陸がどれほどの大きさなのか想像も出来ない。
歩けど歩けど変わらない景色にうんざりしてきた。半日かかると言っていたが、下山してからまだ数時間しか経っていないだろう。
「本当に半日かかるのか?」
「かかるな。着く頃には日も暮れている。奇襲するには闇の方が都合がいい」
「目眩がしてくるな」
「もちろん途中で休息はとる。もうしばらくすれば、この辺りの民族が縄張りとしている集落があるぞ」
「この荒野に集落?危ないじゃないか」
「魔物も恐れる戦闘民族だ。ある意味安全だぞ」
魔物が恐れるってよっぽどじゃないか。
歩兵隊といい、山賊といい、戦闘民族といい、この世界に普通の一般人はいないのか?もっと平和で笑いに飢えた人間はいないのだろうか。俺がこの世界で活躍するにはそういった人種が必要だ。
「見ろ。あそこが集落だ」
「え、あれ?」
広大な地平に若干の起伏が見えてきた。三角形の布が幾つも建っている。
テントかな。
その距離が近付くと、軽快な太鼓の音や優雅な笛の音が聴こえてくる。とても物騒な戦闘民族の集落には見えないな。
テント郡の周りには何本もの柵が覆っていて、まるで門のような役割を担っていた。柵の一角に入口と見受けられる隙間があり、その側には長槍を持った青年が立っている。上半身裸で日に焼けた黒い肌が男らしさを際立てている。BLゲームであれば、割と人気が出そうな体育会系の好青年。
「やあ、元気か」
ゲオがその男に声を掛けると、気の良さそうな返事が返ってきた。
「ゲオグライじゃないか。そちらも元気そうだな」
「この先の洞穴に魔物が住み着いたと聞いてな、討伐に向かっている最中だ」
「そうか、それはご苦労だな。折角だから寄っていかないか?」
「ああ、そのつもりだ」
あっという間に休息地点を確保すると、ゲオは遠慮なく集落に入って行き、俺もそれに倣う。
「あれ、君は見ない顔だな」
「あ、俺ジロー。よろしく」
「よろしく。新入りかい?」
「ま、まあそんなところ」
「顔に拳の刺青か、見たところ君は相当の戦い好きのようだ」
「ま、まあね」
妻に殴られた痣とは口が裂けても言えない。
青年と挨拶を交わしていると、ゲオはすでに集落の中央に進んでいた。俺は慌てて追いかけると、集落の広場では宴会が催されており、並べられた豪勢な料理を民族達が囲み楽しそうに談笑している。
すると、ゲオの存在に気付いた民族達が一斉に集まってきた。
「ゲオグライじゃないか」
「久しぶりだな赤狐」
俺達と変わらない格好をしているので、山賊と見分けがつかない。
予想はしていたが、ここも男ばかりだな。女ばかりの集落も少し期待していたが、淡い期待は露と消える。
民族の中でも一際目に付いた男がいる。野生的と言えば格好いいが、上半身裸、いや下半身も裸。つまりモノを恥ずかしげもなく露出している男がいるのだ。出とるやないかい!というツッコミを待っているのだろうか。
視線を顔に移すと、綺麗に禿げ上がっている頭部がまた卑猥である。禿げとるやないかい!と心の中で突っ込んだ。一目で二度突っ込める美味しい男だ。
しわくちゃの顔はこの中でも最年長であることが分かり、またこの集落の長老であることも認識出来た。
ゲオはその爺に頭を下げた。
「ほっほっほ、久しぶりじゃな赤狐」
「魔物の討伐に立ち寄りました。少し休息を取らせてもらいます」
「うむ、遠慮なく休め」
それにしても並べられた料理にヨダレが止まらない。思えばこの世界に来てからまともな食事にありつけていない。口にしたものと言えば、山賊に無理矢理捻じこまれた味なしトカゲだけだ。
物欲しそうに見ていると、それに気付いた爺が「食え」と手で促してくれた。
やったぜ!
早速豪勢な料理に近付き、一際美味そうな肉に手を伸ばした。何の肉だか、分からないが兎に角美味そうだ。一口に肉を食べると味をしっかりと確かめた。
うんうん。これは…美味い!日本人の口に合う味付けだ。
肉も謎、味付けも謎、調理方法も謎で完全に危ない料理ではあるが、そんなことも気にならないくらい腹が減っているのだ。
次から次に料理を平らげていくと、それを見かねたゲオが俺に注意を促した。
「ジロー、少しは遠慮したらどうだ?」
「ほめん、へも、めっひゃふまい」
料理を口に含めながら返事をする。行儀が悪いが手が止まらない。
並べられた料理を遠慮なく全て食べ尽くし、腹と心も満足しているとゲオが長老とヒソヒソと話をしているのに気付いた。
何だろう?気になるな。「アイツ食い過ぎじゃね?」とか言ってるのだろうか。
まさかな。
満腹の腹をさすりながら横になり休息をとっていると、ゲオが傍にやって来た。
「何を話していたの?」
「あいつ食い過ぎじゃないか?と言っていたよ」
やっぱそうなのかよ!確かに食い過ぎたけれども!ここの奴らが食べる物なくて、ちょっと落ち込んでる気がするけども!
「冗談だ。少し頼みごとをな」
嘘かよ!なんで嘘ついたんだよ。
「頼み?あんま頼りにならなそうだけどな」
「ああ見えて昔は相当の手練だったそうだ」
「ふーん、人は見かけによらずってことか」
「日も暮れてきた。そろそろ出発するぞ」
「あ、うん」
民族達に挨拶しようとしていたら、長老の方から声を掛けてきた。
「青年。人は見かけによらずとはお主の方じゃぞ」
「え、俺?」
つか、近くで見ると凄いインパクトだな。チ〇コしわしわじゃん。
「お主にはとてつもない力が隠されているような気がするな」
「そ、そう?」
いや、お主は股間を隠した方がいい。
「それでは長老、これで失礼する」
「うむ、最近魔物の力も強くなってきている。十分気を付けるのじゃ」
見送りに来た民族達に手を振り、集落を後にした。