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俺の世界とこの世界の因果関係

温かい湯船に浸かりながら元の世界を思い浮かべた。

俺がいなくなって多少なりとも騒ぎになっているだろうか。はたまた何も変わらず平常運転で進んでいるのか。

横川はどうしてるだろう。他の誰かとコンビを組んだのかな。

解決出来ない物思いに耽っていると、家の入口からゲオの勇ましくも優しい声が聴こえてきた。


「湯加減はどうだ?」

「ん、ああ。丁度いいよ」

「そのままでいい、少し話をしようではないか」

「話?いいよ」


姿が見えず、声も反響し聴こえづらいが構わず許可した。


「お前は元の世界で何をしていたのだ?」

「何を?うーん、言って分かるのかな。お笑い芸人だよ。人を笑わせるのが仕事」

「お笑い…芸人?そうか、きっと楽しい役割なのだな」

「うーん、辛いことの方が多いかもな」


俺は以前行われたお笑いコンクールで会場を凍りつかせた漫才を思い浮かべた。

しかし、何が悪かったんだろうな。起承転結した内容に、締めの大ツッコミ。何も問題はなかったと思うんだが。

柏餅じゃないんやから!って締めの表現が悪かったのか。有刺鉄線じゃないんやから!の方が良かったのかな。いずれにしろ後の祭り。コンクールも相方も去っちまった。

俺はこの世界で第二の人生、つまりやり直しをしているんじゃないだろうか。考えても分かる理屈ではないだろうが。


「ゲオはどうして山賊に?決められた道が嫌だって前に聞いたけど、別に山賊じゃなくても良かったんじゃない?やっぱりこの国が嫌いなの?」

「そうか、お前は知らないんだな。この国の街では女は住むことが出来ない決まりだ。15歳になったら隣国に移らなければならない。この大陸では常識だ」


へえ、そうなんだ。

少し前にこの件について誰かと噛み合わない会話をした記憶があるが…まあいいか。


「隣国に移れば結婚するまで戻ることは出来ない。それも女館と呼ばれる施設にだ。私の母もそこに住んでいるよ」


ふーん、女館か。

人妻の宝庫と解釈すれば、素晴らしい施設だな。夜な夜な国王が出入りしていると噂があってもおかしくない。羨ましいぞ、国王。


「それで山賊の頭領に?失礼だけれど、ゲオってそんなに強いの?」

「自分で言うのも何だが、そこそこな」

「あのでっかい虎髭より?」

「虎髭?ああ、アシュレイか。そうだな、その気になれば国を滅ぼせるかも知れない」


おいおい、どんだけ強いんだよこの子。

国を滅ぼすなんて魔王か天下りの日本人官僚ぐらいしか出来ないだろう。


「もちろん、私の力ではない」

「え?」

「この短刀…」


見えないが恐らく宝石を散りばめたドラグノフ家の家宝のことだろう。


「この短刀には精霊が宿っている。その精霊を目覚めさせれば大地を焼き、大気を凍らせることが出来る」

「精霊…物騒な家宝だな。俺でも使える?」

「無理だな。ドラグノフ家の血を継ぐものにしか反応しないよ」


やっぱり売るしか使い道はないな。どれほどの価値があるのか想像も出来ないが。


「ね、ねぇ。例えばそれを売るといくらぐらいになるの?」


不躾ではあるが、確認しておかねばならない。


「売る?考えたこともなかったな。さあな、先ほど言ったようにドラグノフ家以外の人間には使えない。二束三文にもならないかも知れない」


なんだよ。

仮に使えたとしても大地を焼く機会なんてないし、大気を凍らせる機会もない。せいぜいエアコン代わりに使うか、ステーキを焼くぐらいだろ。レイチェルの奴、しょうもない物を家宝にしやがって。


「お前はやはり未知の生物だな」

「え、未知?」


なんか急にUMA(未確認生物)扱いされてるけど。


UMA名:スケベイモンキー

不審行動:地上20メートルより飛来し、女性の乳を揉む


なるほど、確かに未知ではあるな。


「この短刀を使えば、一国の王になることも夢ではない。使いこなせる人間であれば誰しもが野望を抱くだろう。それを売るとはな。お前は興味深い男だよ」

「そ、そうかなぁ。俺の世界の人間なら誰もがそう思うよ。戦うことなんてないだろうし」

「そうか、平和な世界なのだな。なあ、私も行ってみたい。連れて行ってくれないだろうか」

「どうやってここに来たのかも分からないからなぁ。その方法が判明すれば必ず」

「そうか、約束だぞ」

「うん、分かった」


さて、のぼせてきたし、そろそろ出ようか。


「ゲオ、出るよ」

「ああ、もう服は用意してある」


湯船から上がると、それっぽい衣服が目に付いた。猪の毛のような生地で作られた腰巻とベスト、胸元の空いたこの肌着は俺の世界とあまり変わらないな。


「どうだ?早く見せてくれ」


ゲオに急かされ、そそくさと身にまとう。

サイズはピッタリだが、これは…。思いっきり山賊じゃないか。


「ど、どうかな?」

「うむ、悪くない」

「そ、そう?ちょっと山賊感出過ぎじゃない?」

「感、ではなく山賊だ」

「そうでした」


するとゲオは鞘に収められた一本の剣を俺に手渡した。


あれ…これ日本刀?どうしてこの世界に?

俺は両手でしっかりと受け取ると、その重みが本物であることを認識した。少し鞘から抜いてみると、暗がりでも分かるすらっと伸びた刀身に身震いしてしまう。


「この村に伝わる剣だ。私には短刀があるからな、お前が使え」

「これって日本刀じゃない?なんでこの世界に?」

「日本刀?その名前は知らないが、我が世界にもあった代物だ」


俺の世界とこの世界、一体どんな繋がりがあるのだろうか。それに使えって言われてもな。戦いは出来るだけ避けたいので、一生使うことはなさそうだ。


「では出立するぞ」

「え、どこに?」

「決まっている、魔物の討伐だ。我々の初めての共同作業だぞ」


ケーキではなく、魔物に入刀するんですね。さっぱり分かりません。

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