作戦難易度S
飛べって、冗談だろ。めっちゃ高いぞ。
そもそも何で飛ばなきゃいけないんだよ。理由もなく大木から飛べって人道的におかしいだろ。人として守るべき道に反した行為だろうが。
ああ、芸人としてこんなに美味しい仕事はない。テレビが絡んでいれば迷わず飛ぶさ。でもそれはギャラが発生しての話だぞ。何が悲しくてノーギャラでバンジーして笑い者にならなくちゃいけないんだよ。
「どうした坊主、怖いか」
「ねぇ、やらないで済む方法はないの?」
「ない」
だよね。そうだと思った。
何が儀式だよ。いつまでも老害共が作ったしきたりに縛られやがって。
俺が沸き上がる怒りを堪え、わなわなと肩を震わせていると、群衆から声が上がった。
「どーしたー、早く飛べー」
「びびってんじゃねーぞー!」
「それでも男かー!」
うう、俺が飛ぶ前にヤジが飛んできた。
やるしかないのか。
「ジロー、頑張れ」
ゲオ…。
ようし、やってやる。飛んで男を見せてやる。
俺は意を決して大木の前まで歩み進んだ。良く見ると登りやすいように幹にくぼみが幾つも見受けられる。ご丁寧に登る用のしっかりしたロープが一本ぶら下がっている。なるほど、ロープを握り、足を掛けて一歩一歩登って行くのか。
「俺は先に行くぞ。上でお前の足を縛る人間が必要だからな」
虎髭はその体格に似合わない素早い動きであっという間に駆け上っていった。
簡単にやってのけるな。見ている分には大丈夫そうなのだが。しかし高さは大よそ20メートル。スタミナが持つかどうかの勝負になるだろう。
いや、考えていても始まらない。
よし、やるぞ!
まずロープを体に巻き付け固定する。ロープを握り、足を掛ける。
まず一歩。うん、これは行ける。巻き付けたロープに重心を預ければ思ったより楽だ。この調子で少しづつ確実に登り進めた。
半分近く登り切った所で、チラリと下を見ると群衆がどんどん小さくなっているのに気付いた。
うわ、高いなぁ。目眩でもしようものなら、一気に地面に吸い込まれるぞ。
後もう少しだ、振り返らずに進もう。
この儀式を成功させれば俺もこの村の一員として認められるはずだ。
…認められる。
ん?
その言葉に強い疑念を抱いた。認められたから何だと言うのか。
「よくやったな坊主、大したもんだ」
「お兄ちゃん凄いね!僕達と一緒に遊ぼうよ」
「コレ、トカゲ、ウマイ。オマエニ、ヤル」
村民達との距離が一気に縮まり、俺は幸せに暮らしましたとさ。
違う!俺はそんな事望んでない!
虎髭に褒められても嬉しくはない。子供と遊んでる暇はない。トカゲ、イラナイ。
何を真面目にやっているんだ俺は!
自然とロープを握る手に力が込められる。額を伝う汗を片手で荒々しく拭った。
俺は俺の欲望を満たしたい。今解消出来る欲求は一つだけだ。それは芸人としての本能である笑いではなく、俺という男の中の欲求。
ゲオの爆乳を揉みしだきたい!
脳内が高速で回転しているのが分かる。ありとあらゆる工夫が頭の中に張り巡らされた。この欲求を満たすにはどうすればいいか、その方法が何千通りも検出されている。
俺の頭はスーパーコンピューター京を遥かに上回るスーパーコンピューター助平と化したのだ。
そして、その史上最高の精密機械は、この状況と欲求に合致する唯一の手段をはじき出した。
作戦コード:バレーボールへ一直線!突撃、日本チャチャチャ!
作戦内容:ゲオグライへ向けて降下し、バンジー事故を装った合法的な猥褻行為に及ぶ
作戦難易度:S 生命の危険あり
作戦達成快感度:SSS 昇天の恐れあり
道徳心:G その行い人間に非ず
道徳心G。考え直す事を強く勧める。
繰り返す、道徳心G。考え…。
一向に構わん!!
俺は遂に20メートルの大木を登り切り、バンジー用ロープが掛けられている枝に手を掛けた。
虎髭が俺を引っ張り上げると枝に跨るように座らせた。
「上出来だ坊主、後は飛ぶだけだ。なに安心しろ、コイツはワームの内蔵で作られた伸縮性の頑丈な素材だ。下手なロープより安全だぜ」
「かま…わん。一向に…構わん」
「お、おい、大丈夫か?」
「ぶつ…ぶつ」
「…取り敢えず結ぶぞ。後は自分のタイミングで飛べ」
虎髭が足首に結び付けたのを確認すると、俺は枝に立ち上がった。恐怖心など微塵も感じない。これがエロの力だ。
さて、麗しの爆乳ゲオはどこだ?
豆粒ほど小さくなった群衆を見下ろし、今の俺にとって唯一の存在を探した。
いたぞ、南東へ20度の位置。
絶対外さない。チャンスは一度切りだ。
俺は一つ深呼吸をすると、両手を広げ、身体を空中に預けた。
地面に引きずられる重力を感じながら、目標へ向け一直線に降下した。
顔に物凄い風圧を浴びながらも、目をしっかりと見開き目標を補足している。
狙いは…ばっちりだ!
ゲオに向かう様は宇宙より飛来する隕石の如し。爆乳を掴めば文字通りアルマゲドンを起こすだろう。
もう少し、もう少しだ。
突如時間の流れがゆっくりと変化した。いや変えたのだ。その一瞬を逃がさぬよう、本能の力を発動したのだ。
ゲオが驚きの表情を浮かべているのも、はっきりと確認出来る。そりゃそうだ。スケベ面の異人がとんでもないスピードで向かってくるのだから。
後、2メートル。
1メートル!
そこだぁぁぁぁあ!
俺は両手を突き出すように伸ばすと、ゲオの爆乳を…かすめた!足首に結ばれたワームの内蔵がはち切れんばかりに伸びきっていたのだ。
俺は後一歩の所で、伸縮性によるバネの反動に抗えず天高く跳ね飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」