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夢見心地

驚いた。驚いたって言っても、ごく自然な事なのだが。山賊とは言えど人の子、この様な生活風景があってむしろ当たり前だ。俺がイメージしていた山賊の生活とはかけ離れていたんだ。


「どうしたジロー、珍しいか?」

「い、いや別に。ちょっと驚いただけ。もっと荒々しいのかと思ってた」

「うむ、我々も山賊と呼ばれてはいるが、元々は普通の町民だよ。貧困格差が酷く、皆住む場所を失って流れて来たのだ」


そういえばエドガーがそんな事言ってたな。


「貧乏人にはまともな働き口さえ与えられない。生まれた家で運命が決まってしまうんだ」

「それならゲオは何でここに?レイチェルってそこそこ偉い人なんじゃ?その子供なんだからまともな生活くらい出来るんじゃないの?」

「私はそれが嫌なのだ。決められた運命、決められた生活。家名で全てが決まっているあの国が、私は嫌いなのだ」

「なるほどね」

「兵隊から通行料をいただいているのは、あの国で虐げられた町民達のちょっとした抵抗なのだろうな。私がここに来る前からそういうルールだったよ」


そうか…。

何も知らないで「鎮圧しちゃえば?」なんて言った事を後悔しているよ。


「ところでジロー、なぜエドガー達と一緒に?」

「ん?あ、ああ、元の世界で昼寝してたらいつの間にか荒野にいて。そこで歩兵隊と遭遇して、ミミズの化け物に出食わして」


何か自分で言ってて訳が分からないな。それも当然か。俺の世界では有り得ない経験なのだから。

しかし、ゲオは構わず相槌で話を催促するようにした。


「それで、俺がミミズの化け物を怯ませたみたいで、なんとか倒す事が出来たんだ。そしたら俺を部隊で保護するって」

「うーむ、解せないな。見たところ君は戦闘が得意そうではないが。あの国に不審者を保護する余裕なんてないはずだ。すると君には財政難でも国家に取り入れる価値があるのではないだろうか?」


め、目敏いな、この子。相当切れ者だぞ。


「うん、俺の事を言霊師、言霊師って言ってたけど、何の事だか分からないんだ」

「なるほど、言霊か。確かに貴重な技ではあるが…。やはりエドガーは…」


そう言うとゲオは黙って考え事を始めた。

あれ、言霊ってそこまでレアじゃないのかな?そうなると、俺の扱いは大して優遇されなそうだ。


「おい、ゲオ!そいつが異人か!」


突如長閑なこの風景に似つかない荒々しい声が響く。

周囲を見回すと、筋骨隆々の男達がぞろぞろと村に入ってくるのが見えた。日焼けした浅黒い肌に腰巻一枚、逞しい腕には多数の刺青が見受けられる。鬼の如く髪を逆立て、虎髭を蓄えた男達。

どう見ても山賊。

この人達は何の仕事をしているでしょう?と尋ねれば、全員が山賊だよと答えるだろう。クイズミリオ〇アだったら1000円の問題。みのさんも得意の溜めなしで「正解!」と言わざるを得ない。

ゲオの他にも美人山賊がいるかも?という俺の淡い期待は脆くも崩れさったのだ。


「ああ、アシュレイ。彼はジロー、私の読み通り異人だったよ」


山賊達の中でも一際大きい男、アシュレイと呼ばれた人物は俺をジロジロと見回してきた。ああ、気持ち悪いし怖い。ゲオに見つめられるのとは天国と地獄だよ。


「ふーん、こんな貧弱そうな奴がねぇ」

「エドガー達も気付いてるかも知れない。保護して正解だった」


え、エドガーも気付いてるのか?確かに何かしこりが残る会話をしていたような。


「で、どうするんだコイツ。仲間に入れるのか?」


え、仲間?聞いてないぞ、そんなの。


「ジロー、言い忘れていた。この住居に部外者を置く訳にはいかないのだ。私と共に生活をしてもらうぞ」


そんな大事なこといい忘れんなよ!嫌だぞ俺は、こんな連中と暮らすなんて。どうせ、コイツらと相部屋ってオチだろ。私と共になんて、そんな見え透いたドッキリに引っかかってたまるか。


「しかし、家がないぞ。先日も街からの住民を受け入れたばかりだ。新しく建てるにも日にちがかかる」


ほーら、見たことか。こりゃ分かり易いドッキリだったぜ。早いところ逃げ出そう。


「あ、な、無いならいいよ。遠慮しておくから」

「何を言っている。私と一緒に住むのだ」

「え?なんて?」

「何度も言わせるな。私の家で暮らすのだ。私と一緒にいれば安全だからな」


え、うそ。ま、マジで?


ちょちょちょちょちょ、超展開きたーーーーー!!!


これは妄想が現実となる瞬間かも知れない。山賊だろうが烏賊だろうが何でもなってやる。こんなチャンス二度とない。

何にも分からないこの異世界で、家、食事、女、一瞬で全て手に入れたんだ。こんな事ってあるだろか。まるで夢のようだ。


「よろしくな。異人の坊主」


あまりの嬉しさに虎髭親父の差し出された手を両手でにぎにぎした。


「はいはい、よろしくね~。もうキスしちゃうキス」

「おい、気色悪いぞ坊主」


人生薔薇色だ。あのバレーボールが俺の物になるなんて。

有頂天でいると不意に虎髭に力強く手を引っ張られた。


「え、痛い、なに?」

「そうと決まればさっさと儀式を済ませるぞ」

「え、儀式?何それ」

「来れば分かる」


虎髭に引っ張られるまま、広場を抜け、森を抜け、しばらくすると一本の巨大な木の前で止まった。樹齢何百年も経っていそうな立派な大木。


「おーい!皆集まれー!!儀式の時間だー!!」


鼓膜を突き破るような大声が上がると、村の方からぞろぞろと人が集まって来た。

やがて大木を囲むように子供や、大人、この村に住んでいる山賊衆が集まった。

え、何なに?もしかして、コイツらを全員笑わせろとか?

挙動不審に辺りを見回していると、虎髭が大木の枝先を指差した。

すると、地上より20メートルほど先にある一本の逞しい枝に、紐がくくり付けられている事に気付いたのだ。


え、もしかして…。


「飛べ」


ば、バンジーですか?

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