山賊達の生活
「そろそろ、その粗末な物をしまったらどうだ?お前が初対面の人間に全裸で挨拶をして興奮を覚える、そんな性癖だというのなら私は一向に構わないが」
赤狐に言われ、俺自身が露になっている事にやっと気付いた。
俺は暗がりの中手探りで衣服を掴み、急いで身にまとうのであった。
ところで、これでも大きい方だからな?俺はお粗末と表現され、少しムッとした。今日はコンディションが悪いだけだ。
「あはは、ご、ごめんね。誰もいないのかと思って」
「構わん、私は見慣れている。ここは男の集まりだからな」
「あ、そうだよね。そういえば君はここのリーダーなんだっけ」
「うむ、私はゲオグライ。姓は捨てている」
あ、そういえば、レイチェルの娘だっけ。全く面影がないから忘れていた。あの岩男、よっぽど綺麗な奥さんに恵まれたんだな。岩のくせに生意気だ。
「お前の名前は?」
「あ、俺坂巻次郎。エドガーはジローって呼んでたよ」
「そうかジロー、君の家は名家なのか?」
「名家?いや、普通の一般家庭だよ。むしろ少し貧乏なくらいかも」
「そうか、良かったよ。私は家名を誇るような人間は好かんのでな」
そういえばエドガーにそんな皮肉を言っていたな。
それより、この暗がりの中会話するのはなんか嫌だな。
「ね、ねぇ赤狐。灯りってなんかないの?」
「ゲオでいいよ。これは失礼した、今付けよう」
ゲオの影がもそもそと動くと、天井に火が灯った。
うっ、ちょっと眩しいな。
やっぱりこの世界に電気はないんだな。無くてむしろホッとしている自分がいるのだが。世界観が壊れなくて良かったってね。
灯りが付き、ゲオも良く見えるようになった。
燃えるように赤い色の髪、気の強そうな凛々しい顔つき。やっぱり美人だよな、この人。
あ、こ、これは…!?
先ほどは革の鎧を身に着けていて気がつかなかったが、これは凄いぞ。白い肌着が上下左右にグイグイ伸ばされている。まるで中にバレーボールが入っているかの如く。心無しか肌着も苦しいよー苦しいよーと悲鳴を上げている気がする。
きょ、巨乳だ。しかも爆乳だぞ。
なるほど、これが異世界。スケールが違う。
「ん、どうした?私の胸に何か付いているか?」
いや、それ気付いてるだろ!
胸に付いてるのなんて、オッパイか乳首しかないだろ!天然なのか、この子。
しかし、初対面でいきなり不誠実な人間と思われるのもあれだな、そこはしっかりと弁解しておこう。いきなり歌いだし、全裸で叫んどいて今更何言ってるんだとも思うが。
「い、いや、別に。なんでもないよ。異世界に来て女性を見るのは初めてだから、珍しいなって見てただけ」
「ふむ、そうか。私も異人は初めてだからよく見るとしよう」
ゲオは立ち上がると俺の目の前に座り、じっと見つめてきた。
え、いや、なにこれ、恥ずかしい。うわっ、谷間凄いな。
俺は直視される恥ずかしさと、ゲオから発せられるフェロモンにやられ、頭がおかしくなってしまいそうだ。この場に居てはまずいと俺は判断した。
「ね、ねえ、外出てみたいんだけど」
「うむ、良いぞ。さあこっちだ」
するとゲオは俺の手を握り強引に引っ張った。え、なんなのこれ、何が起きてるの?夢か、夢なのか。そうだきっとそうに違いない。
目を覚ましたら、屈強な山賊達に囲まれ、逆さ磔の後、火炙りにされるんだ。
俺の葛藤にはお構いもせず、ゲオは木製の扉を開けた。その扉の先に待ち構えていた風景は、縛り付ける用のロープを持った屈強な男達ではなく、身体を痛めつける用のナイフを携えた野蛮な山賊衆でもなかった。
これは、村か?
これがエドガー達とやってきた山の中なのか?木を積み重ね作られた家や、洞穴に扉が付いた簡易的な住まいが幾つも軒を連ねている。草を丁寧にむしった広場。そこでは子供達が楽しそうにはしゃいでいる。
俺達と何も変わらない山賊達の生活がそこにはあった。
「ようこそジロー!ここが我々の住居だ!」
ゲオが笑顔で俺に告げた。