おまけ
台所で、クレメンスが洗い物をしていると、食事を終えたロジーナが食器を持ってやってきた。
クレメンスは、食器を渡せというように、流しの前に立ったままロジーナの方へ手を出した。
「ありがとう」
ロジーナはクレメンスに食器を渡すと、ふきんをとって、水切りに並んでいる食器を拭きはじめた。
二人はそれぞれの仕事を黙々とこなす。
クレメンスは洗い物が終わると、シンクを磨きはじめた。
ロジーナは食器棚の前に移動すると、食器をしまいはじめる。
食器棚の一番上に食器をしまおうとして、ロジーナが背伸びをしたときだった。
不意に、ロジーナの持った食器に背後から手が添えられた。
ロジーナは食器から手を離す。
クレメンスはロジーナの持っていた食器をを受け取ると棚の中にしまった。
そして、背伸びを止めて振り向こうとしたロジーナを、後ろから抱きしめた。
「私のことを嫌いにならないでくれ」
苦しげな吐息で、ロジーナにささやく。
ロジーナは両手でクレメンスの腕を握ると、フルフルと首を横に振った。
「私は冷酷な人間だ。利用できるものは何でも利用する。不要なモノは何のためらいもなく切り捨てる」
クレメンスはロジーナの後頭部に額をつけ、その髪に顔をうずめる。
「違うわ。あなたはとても優しくて、繊細な人よ。嫌いになんかなれるはずない」
ロジーナは強引に向きを変えると、クレメンスの首に手を回す。
「知れば知るほど好きになるの」
見上げるようにして、クレメンスの紫色の瞳をじっと見つめる。
「ロジーナ」
クレメンスはロジーナの瞳に吸い寄せられるように見つめ返すと、ロジーナの髪を優しくなでた。
「お前だけなのだ。私にはお前しかいない」
ロジーナの腰に手を回し、力強く抱きしめる。
「私は男だ。魅力的な女性が目の前を通れば、つい本能的にそちらを見てしまう。だが、すぐに気がつくのだ。お前ほど魅力的な女性はこの世にはいない。お前はいつだって私の心を捕らえて離さない。お前は私にとってただ一人の女性だ」
クレメンスは腕を緩めた。
ロジーナが顔を上げる。
「愛している。お前の全てが愛おしい」
クレメンスが情熱に染まった熱い瞳でロジーナを見つめる。
ロジーナは、クレメンスを見つめる瞳を潤ませながら、ニッコリと微笑んだ。
そして、伸び上がるようにして、クレメンスの唇に自分の唇を重ねる。
クレメンスはそれに応えるように腕に力を込めた。