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不機嫌  作者: 岸野果絵
1/3

前編

<登場人物>

ロジーナ・・・師範魔術師。世界でも1,2を争う魔力の持ち主。

クレメンス・・・師範魔術師。ロジーナの師匠で夫。

ロジーナは帰宅すると、乱暴にバックをソファーの上に置いた。

クレメンスはその様子をチラリと見ながら、買ってきた荷物を置く。

ロジーナはクレメンスを押しのけるように荷物の前に立つと、黙々と袋の中の購入品を出しはじめた。

クレメンスは一瞬怪訝な顔をしたが、そのまま居間を出て台所へと向かった。


 お茶を持ったクレメンスが居間に戻ると、ロジーナは自分のモノだけ並べて確認しているところだった。

クレメンスの荷物はしっかりと袋に入ったままだ。

袋の奥にあったロジーナのモノを出す際には、上のモノも出さなければ出せないはずだ。

その奥にあったモノもロジーナの前に並んでいる。

どうやらロジーナは一旦出したクレメンスのモノを、わざわざ袋の中に戻したようだ。


クレメンスはテーブルにお茶の入った湯呑を置いた。

ロジーナはまるで気づかないという風情で、購入品を確認している。

クレメンスは軽く首をかしげ、しばらくロジーナの様子を覗っていたが、おもむろに口を開いた。


「ロジーナ。先ほどから、何をそんなにカリカリしているのだ」

「カリカリしてなんかないわよ」

ロジーナはクレメンスの方を見ようともせず、早口でこたえた。

その様子に、クレメンスは思わず噴きだしそうになったが、ぐっとこらえた。


「怒っているではないか」

クレメンスは穏やかな声で指摘する。

「怒ってなんかないわよ」

ロジーナはきつい声を出す。

「ではなぜ私の方を見ない? 何か気に障るようなことをしたのか?」

ロジーナは口をへの字に曲げ、少々乱暴に購入品を並べ替えている。

どうやらクレメンスの質問に答えたくないようだ。


「ロジーナ。言ってくれなければわからない。私は何かお前の気に障るようなことでもしたのか?」

ロジーナは手に持った購入品を、投げつけるように置くと、キッとクレメンスを睨んだ。

「もうあのお店には行かないでちょうだい」

そう言うと頬を膨らませた。

怒りのせいか、黒い瞳がうるんでいる。


「あの店?」

クレメンスは首をひねった。

ロジーナの言っている意味がよくのみこめなかった。


「村のよろず屋よ!」

ロジーナは声を張りあげた。

クレメンスはさらに首をひねる。


村のよろず屋は、ちょっとしたモノを買いによく利用していた。

小さな村にある商店にしては、なかなか心憎い商品を取りそろえてある。

ロジーナも普段から便利に利用していたはずだ。

しかも、先ほどもロジーナと一緒に買い物してきたばかりだった。

そのよろず屋に行くなとはどういう意味なのだろうか。

クレメンスにはさっぱり見当もつかなかった。


ロジーナは真っ赤な顔をしてクレメンスをじっと睨んでいる。

怖いどころか、可愛いと思ってしまう自分を、クレメンスは叱咤した。

そんな寝ぼけたことを考えている場合ではない。

ロジーナは真剣に怒っているのだ。

なんとか手を打たなければ、ロジーナの怒りはさらにヒートアップするだろう。

あまり怒らせてしまっては、後々厄介だ。


「よろず屋で何か不当な扱いを受けたのか?」

ロジーナは無言で首を横に振った。

「では、なぜなのだ? 教えてくれ」

クレメンスは真剣なまなざしでロジーナを見つめた。

ロジーナはクレメンスから目を逸らすとポツリと言った。

「おかみさんよ」

「女将の態度が悪いのか?」

「違うわ」

「では、女将の何が気にくわないのだ?」

ロジーナはうつむき、両手の拳をギュッと握った。

「あの人、あなたに色目を使ってる」

耳まで真っ赤に染めながら、小さく震える声で言った。


「フッ。フフフフフ」

クレメンスは思わず笑い出した。

「ひどい。ひどいわ、笑うなんて」

ロジーナは目に涙をためながら抗議する。

「すまない。つい……」

クレメンスは笑いながら謝ると、ロジーナを抱き寄せた。

「もうあの店には行かない。それでいいだろ?」

ギュッと抱きしめながらロジーナの耳元でささやく。

ロジーナはクレメンスの腕の中でこくりと頷いた。


「それにしても、あの女将には感謝せねばならんな」

「え?」

ロジーナは顔をあげる。

「こんな風に、お前がやきもちを焼いてくれるなど、おそらく、はじめてではないかな」

クレメンスはそう言うと「フフフフフ」と嬉しそうに笑う。

「もう」

ロジーナはそう言うと、クレメンスの胸にコツンと軽く頭突きした。

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