Godparents
ん? 見ない顔だな。
ここで新しい顔を見るのは久しぶりだ。
大方、なんか人が集まってるから覗いてみよう、ってとこだろ。
あんたがよけりゃ、紹介でもするが、どうだい?
……よし、なら決まりだ。 このあんこ・ろもちがその大役、お受けしよう!
その前に、ちょっと説明しなきゃならねえかな。
<二つ名>ってあるだろ?
<D.D.D>のギルマス、クラスティの「狂戦士」とか、最近だと「腹ぐろ眼鏡」のシロエが有名かね。
……あれ、誰がつけたのか、って疑問に思ったことはないかい?
自然と呼ばれるようにはなったんだろうけど、言い出した誰かがいるはずだろ?
何を隠そう、それが俺たちってわけよ!
もちろん、全部ってわけじゃあないけどな。
ここで何かしでかした奴とか出来事の二つ名、通り名を話し合って、それとなく周りに言いふらす。 定着したら俺らの勝ち。 もちろんそうならないこともよくある。
「ろもちさん最近は負け続きですもんねえ」
うるせえ! お前も大したこと出来てねえだろ!
……いいと思うんだけどなぁ。 <漂流>。
あ、<大災害>のことだよ。
わけもわからないまま知らないところに放り出されて、帰り方もわからず、とりあえず状況に適応しようと四苦八苦する。 そういうの、漂流もののお約束だろ?
確かに漂流で片づけるにはちょっと大規模すぎたけどな。
ちょっと脱線したが、そういうことをやってるんだよ。
俺ら、<名付け屋本舗>はな。
「あ、まだ言ってたんすかそれ。 ダサくないっすか?」
てめえの<ネーマー>も大概だよ!
まあその、なんだ。
みんながこの集団の名付け親を狙ってるせいで、未だに決まってねえんだよ。 知らない奴に説明するときは大変かもしれんが、あんたも好きに呼んでくれ。
見ての通り、所属ギルドもバラバラの連中だからな。 おかげで大手ギルドの内情が聞けたりして面白いんだが。
それで、今日の議題はなんだったっけか?
「アカツキさんですよ。 腹ぐろんとこの美少女<暗殺者>」
「アカツキ……赤月、レッドムーン……暁……夜明けの? うーん」
あぁ、そうだった。
あとそこでぶつぶつ言ってるの。 名前のもじりはあんまり定着しないからやめとけ。
それにしても、アカツキか。 俺的にはいまいちパッとしなくてなぁ……。
サブの<追跡者>を活かして忍者みたいなことしてるからなんだろうけど、これといった功績はないだろ?
「確かに具体的に何した? って言われると困りますよねえ……。 あ、俺の一押しはあれです、『黒燕』」
くろつばめ? あー、確かに装備はどことなく燕っぽいかもなあ。
「ふふふ、それだけじゃないんすよ。 これはダブルミーニングで、要するに腹ぐろのツバメっていう」
おい馬鹿やめろ。 それに男女が逆だ!
「え? あの人たちそういう関係なの? ロールプレイで『主君』とか呼んでるらしいし、違うんじゃないかと思ってたんだけど」
お前も乗るな! その点に関しては腹ぐろがそう呼ばせてるってことにしとけばOK!
「ろもちさんも乗ってんじゃないっすか」
しまった、つい。
あぁ、あんたも済まんな。 せっかく新顔がいるからちょっとはまともな所見せようと思ったんだが、どう足掻いてもこうなっちまうらしい。
「で、結局どうなんすか? あいつら付き合ってんすか?」
「私としてはまだじゃないかな、と思っているんだけど。 同時に時間の問題だ、ともね」
ったく、下世話な連中だよな。 主婦の井戸端会議かっての。
アカツキに関しては決まりそうにねえな、次いこう次。
そうだな、マリエールなんてどうだい?
「マリエールさんですかあ。 何度かパーティ組んだですけど、三日月ってよりは太陽みたいな人だったですねー。 サブマスのヘンリエッタさんのほうが月っぽかったかな?」
ふむふむ、「アキバのひまわり」とかいう呼び名もあったよな。 あれもここの誰かが言い出したはずだったが。
そうだな、マリエールに名を付けるうえでクレセントムーンのことは外せないんじゃないか?
「看板娘」? むしろ「看板女将」?
……ダメだ、「その服はそろそろアウト」くらいしか思いつかない。
既に二つ名じゃねえっつーのな。
「大丈夫っすよろもちさん! 俺も『鞠って言うけど確かに体の一部がぼよんぼよんしてますねえ』くらいしか思いつきません!」
お前はそこらから離れろ、な?
確かに最近になるまで下着の類は出回ってなかったから、いろいろと言葉にしにくい感じだったけどな。
というか、マリエールのマリって鞠であってんのか?
「合ってるらしいですよー、本名のもじりだとか言ってましたですです。 ヘンリエッタさんとちょくちょく下の名前で呼び合ってますしねー」
ほー、合ってんのか。 名前のもじりって奴、結構多いよな。 <D.D.D>んとこの幹部<吟遊詩人>なんか本名っぽいの、まんまだしよ。
それともあれも架空の名前なのかね。
「さんささんっすね。 本名らしいっすよ。 高山三佐、通称さんささん。 あ、これは俺らがつけたんじゃないですけどね。
本人がだいぶ前にホールで話してました」
実名プレイか。 勇気あるなーとか古い人間の俺は思っちまうけど。
……ん? どうした変な顔して。
ああ、こいつ?
こいつ、一応<D.D.D>のメンバーなんだよ。 それも、そこそこ古参の。
「そうっすよー。 エリートなんすよ? 大規模戦闘の経験も片手じゃ足りぬ!」
あそこは規模がでかいからな。 こういう変なのもいるってわけだ。
「変なのって! ひっど!」
<D.D.D>の幹部、<三羽烏>の追っかけみたいなもんだろ? 十分変なのだぜ。
「……否定はできませんけど! えーだってリアル女子高生の部下として働けるんですよー?」
「あ、ちなみにわたしは<第八商店街>メンバーね」
「私は無所属ですけど、シロエさんがフレンドリストにいます! そして何を隠そう、直継さんにおぱんつ絶対防壁と名付けたのは私です!」
どうだ? なかなかすごいメンバーが揃ってるだろ?
そうでもない?
そうかい。
話もすっかり脱線しちまったし、いつの間にか人気も少なくなってきたし、脱線ついでにちょっとした小話でもしようか。
実は、というほどでもないが、二つ名持ちってのは数で言えば結構いるんだよ。
サーバメッセージに流れるくらいのアイテムを入手すれば大抵つくしな。 だが、俺はそいつらには二種類いて、そこに越えられない差があると思ってる。
……二つ名を自分で名乗るかどうか、だ。
ちょっと想像してみろよ。
あのシロエが「この『腹ぐろ眼鏡』と呼ばれる私に策で勝負を挑みますか? いい度胸ですね」って言ったり、
ソウジロウが「ふふ、僕が剣聖と呼ばれていると知っても同じことがいえますかね?」とか言うと思うか?
二つ名を付けられて嬉しいのはみんな同じだろうが、自分で言っちまうと小物感が増すんだ。 まあ、自分で言わなくても呼ばれるくらいビッグネームだからこそ、かもしれないけどな。
「流石、<流言>のあんこ・ろもちは言うことが違うわね」
っちょ、それはやめろ! 何年前の話だよ! 自称の二つ名とか痛すぎるんだよ!
「はいはい! それで言うなら<黒剣騎士団>はどうなるんすかー? 自分で言うどころかギルドネームにしちゃってますけど!」
そ、それは、だな。
……何やら広場が騒がしいが何があったんだろうなー!
「話を逸らしたわね」
「逸らしたっすね」
「ですね」
あーもーうっせえな! ほら丁度一人帰ってきた! 話を聞こう!
「みなさん! 急がないと! 広場はすごい騒ぎですよ!」
だから何が起こってるのか知りたいんだよ!
「狂戦士のクラスティが<大地人>のお姫様をグリフォンでさらってきたんですよ! 今からお姫様が演説するとかですごい人だかりができてるんです!」
!!
おい、おめえら、行くぞ!
「おっす!」
「りょーかいです!」
「ちょっと見逃せないわね」
新しい伝説が出来る予感がするぜ、複数の二つ名が出来るくらいの、な。
連敗記録はここらで打ち止めたいとこだ!
誰の二つ名が定着するか、あんたも挑戦するかい?
「Q.ヤマトにいる〈冒険者〉へ
シロエの「腹ぐろ眼鏡」やロンダーグの「灰鋼の」という『二つ名』というのは、『サブ職業』などのようなシステム的なステータスなのでしょうか? 「二つ名持ち」とそうでない人の差があれば教えてください。
A.システム的な裏付けのない呼称……つまり、あだ名のようなものです。ただし、あだ名と違う、そのような名前が広く知られているというのは、それなりの意味(主に実力)があると考えられています。ただし、この裏付け的な信頼も、あくまで文化に属するものでシステム的な保証はありません。
」
loghorizon@ウィキ より引用。
文化に属するものなら、どんな文化なのだろう? という想像でした。
二次創作で手を出しやすい分野でもあり、公式・二次が曖昧になりがちな所ですが、今回二次から設定を拝借したのは直継の「おぱんつ絶対防壁」のみです。 ……だったと思います。
元ネタは津軽あまにさんの作品、D.D.D日誌(http://ncode.syosetu.com/n2271w/)です。
私の作品を読んでる人なら大抵読んでるのではと思いますが、そうでない方がいたら、是非読んでみてください。