妖精と女帝の出会い
家出をしたはいいけど、
とくに、やることがなかった。
ただ積もりに積もった感情を爆発させて
「お父さんなんかだいっきらい!!」
って言いながら飛び出してきたからなぁ
お父さんきっと、泣いてるな。
なんの準備もせずに飛び出してきたから今着ている服は空手の胴着。
しかも黒帯。
通りすぎていく人達に変な目で見られてなんだか恥ずかしいし、、、。
財布は持ってきてないし、
特に宿泊する宛があるわけでもないし。先程も申し上げたようにただなにもすることがなく、町中をブラブラしてるだけで日がくれてしまった。
もう、帰ろうかなぁ、と、萎えに萎えきっていた頃に私は彼と出会った。いや、違うな、出会ったきは女の子だったから。
そう、私は出会ったのだ。
真紅の髪をもち、整いきった顔立ちにスタイルもいい体に長い足、一目みて、綺麗だと感想を持たずにはいられないような美貌だった。
なんだこの美少女は。
そんな目で凝視していたからだろうか、
先程まで彼女の視界にすら映ってなかった私のことをチラリとみて。
飲んでいたコーラを吹き出した。
「えええ!?」
なにやってんの!?なんで道のど真ん中でコーラをぶちまけたの!?
「な、なんで空手の胴着きてんの!?」
彼女はそのきれいな声を使って私に指を指しながら叫んだ、なんてオーバーリアクション、すごい。
しかしあたしに向けての質問だったのでなにか答えなければと焦った私は。
「あ、あの、これにはわけがありまして、その。」
どもってしまった。
これまで、殆ど道場で過ごしてきのであたしは人と話すのが苦手。
はあ、またしっぱいか、そう思っていると彼女はニカッと笑って言った。
「なにがあったのか知らねーけど!!なんか面白そうだ!!よし!俺が奢ってやるからそこらへんの店、そうだな!!MACにでも入ってだべろーぜ!!」
「え?ええ!?いいの!?」
☆
「でさー!!その仮面ライダー三号を守るために一号と二号はだな!!」
結局、真紅の髪の少女にMACに連れてこられた。
いや、つれてきてもらった。
さっきから彼女が楽しそうに話してるのを「うん」とか、「そーなんだー。」みたいな相づちを打つことで会話しているようなしていないような状態が続いている。
おごってもらったフライドポテトはまだ暖かくてサクサクしてる。
こんなに、美味しいとは思ってなかった。
たまにシェイクを飲むとなんと言えない甘味が私の口のなかを駆け巡った。
ああ、幸せだなぁ。
女の子と二人でMACによって、
しかもおごってもらえるなんて。
改めて奢ってくれた本人を見るとなにやら最近の深夜アニメがどうとか、昔のアニメはよかった、とかよくわからないことをいっていたのだが、
彼女と目があった瞬間、彼女はニヤリとわらった。
「やっと、目があったね、で、なんで家出なんてしてんの?」
「!?」
え?どどどどゆこと!?
いきなりのことでビックリしたし、
一瞬で混乱した。
な、なんで家出のことを知ってるの!?
おそらく驚きの表情が出ているであろうあたしに彼女はにひひと笑いながら話を続ける。
「あんた、今。なんで家出のことを知ってるのか、と思ってるだろう?なぁーに簡単なことだよ、あんたの家、なんだっけ?灯火家だっけ?まあ、灯火家は空手で有名なお家なんだろ?あんたの顔、どっかで見たことあるなあ、と、思ったら空手の胴着着てるじゃん?財布も持たずに胴着のままでこんな時間に外にいるとしたら、家出くらいしかないかなぁ、てね。」
長々と語る彼女だが
その推理力はなかなかの物だった。
初めてあったときコーラを吹き出して驚いたのは、なんでお嬢様が家出なんかしてるんだ、という意味も含まれていたのか。
それを知っててここにつれてきたと言うことは恐らく、なにか裏がある。
「あ、あたしをどうする気?誘拐して一儲けしようとでも?」
そんな、身も蓋もない質問をすると彼女は一瞬だけ「は?」的なリアクションをとったけどすぐにケラケラと笑いだした。
よく笑う人だなあ。
「ハハハ、誘拐ねそれも面白そうだけど違うよ。」
「じゃあ、何が目的で、、、。」
「そんな疑いの眼差しを向けないでよ、感じちゃうだろ?ハハハ、なんてな。目的ね、それはただ単に、君の力になりたいと思ってね。」
さっきまであんたって読んでいたのになぜか君、と呼び方をかえた。なんでだろう?
それに
「力になるってどういうことですか?」
そう質問すると先程からの笑みを維持したまま手話のように手を動かしてしゃべる。
「いやね、別にどうと言うことはないんだけど、話を聞いてあげようかな、ってことなんだけどね、ほら?最初に言っただろ?なんで家出したのかってね、でかい家のお嬢様ともなると人に言えないこともあるってもんだろう、だからまあ、犬にでも不満をぶつけるつもりで俺に話してみなよ、て、ことなんだ。」
これを聞いてまず、思ったのが
なにいってるのこの人?
だった、そんなプライベートなこと見ず知らずの他人に話せるわけないじゃない。
でも、なんだろう、この人には、、、安心感がある。
赤の他人のはずなのに、なんで、、、。
こんなに安心感できるんだろう。
そしてその安心感からあたしは自分の不満をすべて彼女にぶつけた。
まるで子供が親をポカポカなぐってストレスを発散するように。
いや、別に本当に殴った訳じゃないけれど。
家の厳しさ、普通に生きたい気持ち、友達がほしい苦しみ。
全部彼女に話した。
話を聞くときだけ、彼女は笑顔を見せず、真剣な姿勢であたしの話を聞いてくれた。
そして、全てを話終えたとき何故かあたしの頬に涙が伝っているのがわかった。
「えっぐ、、、あれ?あれ?なんで?止まらない。ぐすっ。」
気付くと涙が溢れ出していた。
とどまるところを知らない涙の量。
その涙を見て彼女はハンカチを渡してくれた。
「ほら、これで涙をふくといい。そうか、そんなことがあったとはなぁ、世の中って広いなぁ。」
なんで、この人はこんなに優しいんだろう。
あたしが彼女のことを赤の他人と思っているように、彼女も私のことを赤の他人と思っているだろう。
それなのに、なんで、こんなに、、、。
「まあ、これでスッキリしただろう?一旦リセットできたなら、今度はもう一回立ち向かうといい、それでも駄目ならまた俺に話にこい、協力するよ。」
そういって、にしし、と笑う彼女にあたしは見惚れてしまった。
世の中って本当に広い、嫌な人ばかりだと思ってたこの世界にこんなにいい人がいるなんて。
まだまだ、あたしも、捨てたもんじゃない、そう思った。
こんないい人を見つけられたんだから、神様は私を嫌った訳じゃないんだな。
そんなことを思うと自然と笑顔が溢れた。
すると彼女は「おー」と、言って
「やっと笑ったか。やっぱり笑ってるほうが可愛いよ。」
可愛いよと、言われて顔が赤くなる。
まてまて、あたしは女、彼女も女の子!!
そんな性的感情いだくわけない!!
若干混乱ぎみだったけど、彼女は「どした?」と全く自覚がない。
そして、笑った、という言葉を聞いて、
あたしが久しぶりに笑ったことに気付く。
前まではいつ、何時でも笑ってたけど
ここ一ヶ月くらい、作りの笑顔もつくれなかった。
そう思うとさらに笑みは溢れる。
笑うと幸せも増す。
そしてあたしは彼女に言いたいことがあった。
「ありがとう。見ず知らずのあたしにここまでやさしくしてくれて。」
あたしの気持ちを伝えると彼女は今までで最上級の笑顔を作って言った。
「いいってことよ!もう、帰れるな?そして、変えれるな?」
そんな文字にしないとわからないような言葉でもあたしにはすぐにわかった。
そしてあたしも、今までで最上級の笑顔を作って言った。
「大丈夫、あたし、がんばる!本当に、ありがとう!!」