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ならばそれに従おう。
知らない他人を救える程、僕はできた人間ではない。冒すことで危険が発生するのなら、関わらない方がましというものだ。是非、運命を呪い死に絶えてくれ。
「まあそれはいいんですけど、いったいここで僕らはなにをするんですか?」
本題を忘れてはならない。
これは仕事なんだから、その作業を教わらなければ終わりはいつまでも訪れない……。早く帰りたい本音はのどの奥にしまい込んで、さっさと解説を促した。
「インフェルノの退治」
先輩の解答はいつにも増して簡潔だった。
それもそうだろう。そのぐらいなら僕ですら理解している。だというのに、これは一体どういう事だろう。今のはどう考えても先輩の
ミスだ。口にはしないけど。なのになぜ、僕は責められるのか。当たり前の事を聞くなという視線に、どう対応すればいい……?
「インフェルノの退治」
黙っていたら勘違いされてしまったらしい。二回も言われなくても分かっている。敵を討伐するんだろう?
「聞きたいのはそこじゃなくて、その内容です」
「……っそ。仕方ないから教えてあげるわよ。もともと教える為にここに来たんだものね。本当はインフェルノのいる環境で実演する事が最善なんだけど……生憎今日は来てくれてないみたいね。ほんと、空気読めない奴」
敵にさえもその自己中心っぷりを発揮していたのかと心底あきれてしまうその言動に、僕は胸中で敵を情けに思った。
本来憎まれ役なのだ。
だから、僕らが彼らを襲うのも、彼らが僕らを襲うのも、自己中心でけっこう。空気読まなくて当たり前。
だからそれを敵に求めることは、甚だおかしなことなのだ。
「とりあえずは実践ね」
そんな事を口にしたと思ったら、先輩は唐突にぬいぐるみの腹をえぐった。そこはもともと縫い合わせの部分だったようで、ほつれた糸が開口部の両側からヒゲのように生えていた。
何をするのだろうか。
呑気にそんなことを考えていた僕が馬鹿だったと思う。
この人はそういう人だ。
気がついた時にはもう遅く、僕は無残にも切り上げられていた。