表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/51

家族って何だろ◇やわらか地鶏

「兄弟っていいなぁ…」

 前触れなく呟かれた言葉に皿を落としかけたのは、宮廷料理人をしている男であった。

「わ、若様。突然何を言うんですかっ」

「俺はただ『兄弟っていいな』って思っただけ。欲しい、とは言ってないさ」

「そうですかー?」

 しゃっしゃっしゃっ

 ぽいぽいっ

「お前とお前の兄貴も、何だかかんだ言いつつも仲良しだろ?」

「ボクと兄さんが、ですかーぁ? 若様がショウカにお戻りになられたあの時だって、結局は顔を出さなかった薄情者ですよー?」

「お前を信用していなきゃ、大事な家宝を託したりはしねぇさ」

「単に閣下から拝領した包丁をボクに自慢したいだけだと思いますけどね、あの兄の場合」

 ことことっ

 かちゃっかちゃかちゃっ

「あとは、父上と叔父上も仲がいい」

「閣下と陛下は、ホントにあったかい御関係ですよねー」

 こんこんこん

 ちゃっちゃっ

「お前らって下にもいるんだろ?」

「はい、妹が」

「年齢は――…ふぅん、ハタチか」

「あ、若様と一緒ですね」

「残念でした。俺は最近、21になった」

「ええ〜っ? お誕生日教えて下さいよー。お人が悪いなぁ」

 こんこんこんこん

「まだかかりますから、お父上に会いに王宮へ行かれてはどうですか? このままボクの家でボケーッとしていても仕方がないですし」

「さっき行った」

「すぐに戻ってきたじゃないですか」

「風邪を移したくない、って追い払われた」

「あ…っ、すみませんッ。閣下も陛下もお風邪の真っ最中でしたッ!」

「お前が謝るこたぁねーよ。

 てか、叔父上まで風邪なのかよ…。なんだ、過労か?」

「かもですねー…。時間が惜しいからと、お食事も簡単に済ませていましたし…」

 とん…とん……

「おい、手元をよく見ろ。指切るぞ?」

「わっ、危うく兄の二の舞でした」

「父上、咳が辛そうだったなぁ…。魔法で手早く治しちまいたいけどなぁ…。現王と英雄王のただの風邪を、王子もどきで賢者の俺が治したら『不公平だ〜』ってなるしなぁ…。宮廷魔術師達の面目も丸つぶれだしなぁ…」

「若様も大変ですねぇ」

「そーなんだよ。気苦労が絶えねぇんだよ」

 さくっさくっ

 ぐつぐつぐつ

「簡単に重篤化するような風邪じゃねぇんだろ?」

「特徴は、発熱と喉の痛みと頑固な咳、らしいです」

「お前はその気配はなさそうだな」

「パティカ家の人間は何故か病気には強いんです」

 叩いても踏みつぶしてもそれなりにピンピンしているインパスを見れば、確かにそうだろうと納得がいく。

「んー…、薬ならいいかな。たまたま持ってきちまってたし」

「なんですか? そのガラスの小瓶の中身」

「1:即効性惚れ薬 2:滋養強壮薬 3:不老不死の秘薬 4:風邪薬 さぁどれだ?」

「ええーっ? やっぱり『4』ですかー?」

「いやいや、ちが――…」

 違う、と続けるはずだったキオウだが、ふいに思い浮かんだ可能性に顔をしかめた。

 船に置いてきた勉強ノートを手元に召喚する。

 開いたそれを横から覗き込んだ料理人は、屈託なくこう言い放った。

「うわー、すっっっっごい悪筆ですねーっ」

「………。悪かったな」

 調合法はどうでもいいが、その後ろに書いた薬草や材料の効力リストに用がある。…辞書を喚ぶべきだっただろうか?

 しばらく沈黙が続くが、料理は軽快に進行中である。

 とんとんとん

 すっ…ぽんっっ

 どばどばどば

「あ〜…、コレいいわ。風邪に最高」

「若様が作られたんですか?」

「そう」

「わー、すごーい」

「感情のねぇ賛辞だなぁ…。まぁいいや。

 コレを父上と叔父上に渡して、宮廷魔術師達と教会の神父さんに調合法を教えれば公平かな? 元は民間の栄養ドリンクだし」

「陛下と閣下にお渡しする前に、ちゃんと城の侍医から許可を得て下さいねー」

「あ。フツーに存在を忘れてた」

「あははっ、若様ってば酷いお方だなぁ」

 ぐつぐつぐつ

 ことことこと

「そういえば、ウチの兄は元気にしてますか?」

「おいこら、お前も人のこと言えねぇだろーが。フツーはそれを真っ先に訊くぞ?」

「フツーじゃないんです、ボク」

「安心しろ。むしろ元気過ぎだ。あいつもかーなりよくわからん人間だよな」

「すみません。ボクはその弟です」

「そうだったな。訂正するよ。お前もよくわからん人間だよ」

「ありがとうございます。ですが、ボクは兄とは違って自覚あるんで」

「お前らの妹とやらはマトモなのか?」

「すみません。ボクはその兄です」

「そうだったな」

 かぽっ

 ぱらぱら〜っ

「なんだそれ?」

「塩ですよー。離島の南海岸で作った塩です。上質な塩なんですよー? 今度ショウカの特産品に推薦しようかと」

「ふぅん」

 ぐつぐつぐつ

 まぜまぜ

「――…ところで…」

 せっせと『やわらか地鶏の甘煮』を作っているインパスの弟に、キオウはためらいがちに口を開く。

「まだ出来ねぇのかぁ…?」

「もうちょっとですよー」

「ったく…、お前に言わなきゃよかったよ。お前の兄貴がコレを作りたがっている、って」

「とっっっても美味しいのが出来ますからねー。親愛なるウチの馬鹿兄に『あはははっ、ボクが作ったよ〜ん』って伝えて下さいねー」

「…お前の兄貴がちょっと可哀相に思えてきたぞ」

「何を言うんですか」

 ふいに手を止めたインパス似の弟は、おたまを片手に真剣な顔をずいッと向けた。

「これが、兄弟愛ですよ」

「………」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ