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家族って何だろ◇蝶番な深夜

「あうー…っ」

 犬の鳴き声のような泣き声でドアと格闘中のインパスである。

 厨房の後片付けを終えて、のんびりと入浴を終えて、普段ならば「さぁ寝ましょうか」という段階の彼を待っていたのは…、レイヴの部屋のドアの解体作業であった。

「俺ってそんなに悪いことしたかなぁー…。なんでこうなるのかなぁー…」

「…手伝おうか? 俺のドアだし」

 ドアが直るまでは厨房の片隅で眠ることになったレイヴが、寝具を取りに戻ってきた。ギリギリの状態でドアを繋ぎ止めている蝶番を外そうともがいていたインパスは、涙をダーダーと流しながらコクコク頷く。

 室内に入ったレイヴは、棚から仕事道具を引っ張り出した。手慣れた手つきで工具を選び、蝶番の取り外しにかかる。

「俺も悲惨だけど、インパスも災難だなぁ。修理費は俺とワリカンにしようか?」

「い、いいの?」

「構わないよ。今月はちょっと余裕あるし」

 自由気ままなデスティニィ号の面々の収入源、それは。

「前にテキトーな洞窟を探検したら、昔の誰かのお宝を見つけて」

「お宝?」

「びっくりするほどの量じゃないけどさ、そこそこ価値があるモノだったみたい。

 インパスの今月分は?」

「ダメだねぇ…。キオウから余計には貰えなさそうだよ。趣味の食材の調達分でほぼ消えちゃうかも」

 自分達の能力で収入を得たり、漁や旅先で獲た物資を売ったりしているのである。

 船員達のうちインパスやキーシやラティは、キオウから適量の報酬を割り振られる。キオウは公には「自分は賢者」と語ってはいないものの、船が着く先々で魔法使いとしての仕事をこなし報酬を得ているのだ。キオウが賢者だからこそ可能な生活だろう。

 そんな会話をテキトーにしている間に、レイヴは蝶番を取り外した。

「はい終了。インパス、そっち持って」

「うぐっ…、ドアってなかなか重いねぇ…! カボチャ以上の重さは持てないんだよー、俺は」

「よく言うよ。この前なんて、マグロを軽々と解体してみせたくせに」

 あはは、と乾いた笑いを浮かべたインパスは、レイヴと一緒にドアを床に寝かせた。

「よいしょ…っ、と!

 あーあ、キオウはまだ帰ってきてないの?」

「ショウカに送り出したのはお前だろーが。今頃は閣下と父子水入らずなんじゃない?」

「………」

 しばしその光景を想像したのか。次の瞬間、インパスはへらへらと幸せそうな顔を浮かべた。

 インパスは相変わらずのアゼルス大々々ファンである。

「えーっと、毛布と枕と…、寝袋はどこにしまったっけかな?

 インパス、ランプを貸し――…って、ダメだこりゃ」

 頭上にクルクルと天使を羽ばたかせているインパスは、あと1時間は使い物になるまい。

 仕方がないなぁ、とインパスの手からランプをもぎ取るレイヴ。その明かりを頼りに、棚の奥から寝袋を発掘した。

「よし、これで今夜は眠れるね。でもまぁ、寒い地方でなくてよかったよ」

「――冬山への宝捜し経験はないのか?」

「あるにはあるよ、カイ。キチンとした装備をしてね」

 部屋に戻る途中にこちらに気付いたのか、カイは寝間着に上着を羽織った姿でランプを下げていた。その脇には新聞が見える。

 安全な船旅のために世界情勢を気にかけるカイ。以前からキオウに頼んで調達した新聞をチェックしているのだ。

 そういえば、数日前からカイは常に新聞を持ち歩いている。

「面白い記事でもあるの? 最近なんか熱心に読んでるよね」

「見てみるか?」

 新聞をレイヴに差し出すカイ。新聞を広げたレイヴのために、ランプを掲げてくれる。カイはこうしたさりげない気遣いを意識せずに出来る人間なのだ。


【ガヌアス王国、ついに崩れるか!?】


「ガヌアスがどうかしたの?」

 カイに視線を向けると、彼は「先を読め」というように顎をしゃくって示す。


【バル大陸北部に位置する大国ガヌアスに革命の嵐。反乱を起こした民は『革命軍』を組織、国内各地の解放を次々と成功させ――】


「やっぱりなぁ。あの国の宰相は恐怖政治を執っているから、いつか絶対にこうなるとは思ってたよ」

 新聞をたたんでカイに返したレイヴは、その手元に懐中時計を見つける。

「今何時?」

「もうすぐ日付が変わるぞ。全快したばかりの病人はさっさと寝ろ」

「ちぇっ…。あんな目に遭わなけりゃ、今頃は俺も出掛けていたのに」

「どこに――…『路地裏の酒場』か」

 そうそう、と笑って頷くレイヴ。

「お知り合いに会えるかもしれないからね」

「お前の『お知り合い』とやらは…、どうも頭のネジが緩んだヤツが多い気がするな」

「そう? どんな意味で?」

「こんな意味で」

 未だにへらへらと妄想世界にいる料理人を目線で示すカイ。

 しばし「お知り合い」をあれこれと想像してみたレイヴが、ううーんと唸った。

「そうかもしれない」

「だろう?」

「よくワケのわからない性格が多いのは確かだね。俺のお知り合い諸君は」



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