らしいことをしよう◇平穏からの離脱
『路地裏の酒場』のドアをくぐった瞬間、ジークは久しぶりに味わうその感覚に身を暗く震わせる。
夜の感覚。
闇の空気。
――ジークが『仕事』をしていた頃に、いつも感じていた感覚だ。
トレジャーハンターとしてのレイヴも、暗殺者としてのジークも出入りした経験がある店となると…、その種類は限られてくる。
表向きには古い佇まいで味のある酒場といった顔の『路地裏の酒場』。古びた薄暗い店内で、ある客は愉しげにカードに興じ、ある客は酒を酌み交わしている。
…それが見せかけだということを、ジークはよく知っている。
だって、ほら――…。カードの影には金が潜み、チップと共に麻薬が、酒と共に依頼書が手渡されている。
人捜しにはこの店が適している。だからこそジークはここへ来た。
自分を捜している人物も、そう考えているはずだから…。
カウンターの隅に見覚えのある姿を見つけ、ジークは少し失笑する。
過去を振り返ることへの嫌悪と――…、これから自分が遭う《運命》に畏れのような感情を抱いて。
…だからこそ。
懐かしい肩に手を掛けて、ジークはわざと笑って言ったのだ。
「――――…何やってんだよ、こんな所で」