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終章◆ユギハとシュウ

「父上、戻りました」

 帰還次第顔を出せ、との命令が伝えられていたが、シュウは入浴して様々な汚れを落とした後に父を訪ねた。

 月と星が綺麗な夜だ。バルコニーで夜風に当たっていたユギハは、息子の声掛けに短く応えて部屋に入る。

「急用ですか? 言われなくても、いつも僕は戻ったらすぐに父上の所に来るのに」

「いち早くお前の顔が見たかった」

「…気持ち悪いです」

 ははっ、と笑うユギハ。シュウは苦笑し室内を歩む。

 こう見渡しても、父が晩酌をしていた気配がない。いつもなら酒瓶と添い寝する勢いで呑んでいるというのに…。

 今宵の父はずいぶんと機嫌も体調も良いようだ。酒を呑まずに待っていたのだから大事な話が、とも思ったが…、この様子では違うらしい。

 先にシュウをソファに座らせ、棚から酒とグラスを出すユギハ。

 ――何故か感慨深げに戸を閉め、自嘲している。

「シュウ、付き合え」

「いつも付き合ってますよ。改めて言わないで下さい。気持ち悪い」

 シュウは顔をしかめつつ笑い、父のグラスに酌をした。その様子をやわらかな目で見ていたユギハは、とても大事そうに一口呑む。

「――…なぁ、シュウ」

「なんですか?」

 応えながら父の酌を受けたシュウは、父の気配から何かを感じて目を瞬かせる。

「お前、私の跡を継ぐ気はあるか?」

「…っ!?」

 予想外の言葉に絶句し、酒を喉に詰まらせてしまった。

 何度か咳き込んで整えようとするシュウの姿を、ユギハは朗らかに笑って見守っている。

「きっ、急に変なことを…っ、言い出さないで下さい…っ!」

「そこまで動揺する話か?」

「動揺する話です…」


 ――…何故、突然言い出したのだろう。


 シュウは沸き上がる不安をごまかすように、グラスの中身を一気に呑み干す。

「深く真面目な意味はないさ」

「…浅く不真面目に話す内容でもないですが」

「私はただ単に訊いているだけだ。総裁のせがれであるお前が、どのように考えているのかを」

「…。充分に真面目で深いです…」


 ――…だって…、僕…ですから……。


 緊張からテーブルの下で手に力が入る。

 だが――。父の目を見ているうちに、自然と力が抜けてきた。

 とても優しく穏やかな、慈愛の眼差しで…。

「…僕は、嫌です」

 はたしてどのような反応が返ってくるか…。

 それでも素直に伝えると、父はひとつ瞬いただけだった。

「嫌か」

「…はい」

「そうか」

「……それだけ、ですか?」

 おそるおそるとうかがうと、父は苦笑してソファに深く身を沈める。

「お前の考えが聞きたいだけだと言ったろう?」

「そう…ですけど……」

「是が非でも跡を継げ、と追撃されたいか?」

「嫌です」

 秒殺で答えると、父はとても楽しそうに笑った。

 その様子から、シュウはゆっくりと緊張を解いていく。

「僕は…、トップに立つとか、好きじゃないですから」

「うん」

「どちらかと言うと、裏でアレコレやるのが好きな人間なので」

「あははっ」

「ですから」

 少し強い口調で、喉をクツクツ鳴らして笑う父の注意を向ける。

「――…ですから、ほら…、アレならいいです。

 単に父上が上に乗っかっていて、実際には僕が、っていうパターン」

「さらりと凄いことを言ったな、お前」

「なので。

 …父上にはいつまでも元気でいていただかないと、困ります」

「そうだな」

「…。真面目に言ってますからね?」

「影の支配者計画をか?」

「怒りますよ」

「――…ふっ…、そうだな」

 ぴしゃりと言う息子に対し、ユギハはとても穏やかに目を細めた。

 珍しく前向きな反応に、シュウは小さく首を傾げる。

「実はな、シュウ――」

「はい?」

「あれが来た」

「!」

 父の言葉を頭が理解した瞬間――、シュウは反射的にガタンッとテーブルを揺らして立ち上がった。

「今どこにっ?」

「追い返した」

「え――…父上ッ!!」

 また喧嘩別れしたというのか…!?

 無意識に大きな声を出したシュウだったが、ユギハは苦笑しながらシュウを見上げている。

「『残る』と言ったのをな、追い返した」

「え…?」

「あれは自由気ままに生きるべきだ」

「………」

 ――父の最小限の言葉から、シュウは確かに感じた。弟と父の――修復された、強い絆を。

 だからこそ。シュウはわざとらしく特大のため息をついてみせた。

「さては…、無理に追い返しましたね?」

「…まぁな」

「これでまたユウが怒っても、僕は知りませんからね」

「…やはり、怒ったと?」

「そりゃあ怒るに決まって――…いや? ショックで今頃ズドーンと落ち込んでいるかもしれませんね。

 ああ、なんて可哀想なユウ…」

「…楽しそうだな、お前」

 ――それはこちらのセリフですよ。

 シュウはほっと息をつき、笑む。

 テーブルに置かれたグラスの氷が、カランッ…、と鳴った。

「それでな、シュウ――」

「…はい」

 細められたユギハの瞳に宿る、とても切実で愛しげな光…。

「我ながら今さらとも思うんだが。

 ――…死ぬのが、惜しくなった」

「……父上…」

 生を繋ぐより死の道を受け入れんとしていた父の――…、こちらの胸が潰れそうなほどの思いがこめられた、言葉…。

 シュウは熱く込み上げる感情に、キュッと唇を強く噛む。

「だから、な」

 わざと明るい声音のユギハが、グラスを顔の前まで持ち上げて笑う。

「願掛けだ。今夜限りで、酒を断つ」

「…ふふっ」

 茶目っ気たっぷりに言う父のおかげで、シュウの心は軽くなった。

 否――…、軽くなったのはユギハの心か。

「父上が禁酒? 本当に可能ですか?」

「ああ、やるぞ。俺はやればできる男だからな」

「はいはい」

「…信じていないな? かつてタバコ中毒者と呼ばれた俺が、完全禁煙に成功したんだぞ? その気になれば、禁酒なんてちょろいもんだ」

「とか言いながら、僕の助けが必要と思っているくせに。まったく…、わかりやすいんですから」

「禁煙成功もお前のおかげだからな。ユレンがお前を身ごもって、グッと耐えた」

「『今夜限り』の今夜中に、一生分の酒を呑む真似はしないで下さいよ?」

「それはわからん」

 ユギハは開き直ってご機嫌だ。そんな生き生きとした父に、シュウもまた自然と楽しく心地よくなる。

 不治と言われた以上、そう簡単には死神を追い払えないだろう。だが、自分達は最強の刃を得たのだ。

 ――たとえどのような障害が立ちふさがろうとも、絶対に屈しない強固な刃を。

「乾杯でもするか」

「いいですけど…、何に乾杯するんですか?」

「そうだなぁ…。禁酒に」

「あははっ。何かが矛盾してますよっ、父上」

「笑うなよ…。なら、お前は何に乾杯するんだ?」

「そりゃあ決まってますよ。

 けど、父上には言いません」

「なんでだ?」

「もったいないから、言いません」

「減るもんじゃないだろうが」

「僕のこの楽しい気持ちが減るから、嫌ですっ」

 悪戯っぽく笑う息子につられてユギハも笑う。――こんなに自然で気持ちの良い笑顔のシュウは、本当に久しぶりだ…。

 互いのグラスに酒を注ぎ合った父子は、この夜の時間をとても大切にゆっくりと酔った。






 【賢者サマのおふね◇ジークのこと】

   おしまい


 賢者サマ第2弾、おしまいです。



 最後まで読んで下さった奇特なアナタ…


 お気に入り登録して下さった物好きなアナタ…


 本ッ当に!

 ありがとうございます!




 小学か中学の頃に

「深夜の森でバッタリ出くわした暗殺者とちびっこの賢者が旅に出る」

 という夢を見まして。


「コレはいいネタじゃねっ?」

 と構築したのが、この『賢者サマのおふね』でした。



 あれから、約15年…


 先日はじめて夢の中に元宮廷料理長が登場し、ワタクシおったまげました。


 むしろ逆に、15年間も夢に出てこなかったのが不思議ですが。



 ブログにアップしたのはこの第2弾までですが、

 一応は第4弾+αございます。



 というワケで。


『賢者サマ第3弾 近日(たぶん)連載開始!』


  ♪ワーイヽ(´▽`)/ワーイ♪



 第3弾は、キーシとラティがメインのお話。


 船の連中の別行動が少ないためか、雰囲気としては第1弾目のノリに近いです。


 キオウは相変わらず明星の賢者サマに遊ばれていますし、

 次回はもうひとり、先輩の賢者サマが登場します。



 第2弾まではカタチが出来ていたので、ハイスピード投下していましたが…


 第3弾は未完です。


 連載開始となっても、アップのスピードがこれまでより急激にダウンします。



 賢者サマ以外にも、ブログに載せた他のブツや、ブログに載せていないブツもアップしようかと思案中…。


 むぅ(´-ω-`)


 もとより、自己満足で『なろう』に載せています。


 読んで下さっている奇特な方、

 生温かい目で見守ってやって下さい。




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