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第4章

次の日。


「おー!!いいねぇ苑ちゃん。美脚だねぇ」

稀一さんは、手で四角を作りカメラマンの真似をしながら苑子さんを褒めている。

苑子さんも、慣れた感じでポーズを取っていた。

いつも苑子さんは長めのふんわりしたスカートを穿く事が多いが、今日は言われた通りの膝上の短いスカートを穿いている。


でも、やっぱり苑子さんは足が細くてキレイだからどんなスカートでも凄く似合うのが羨ましい。

私はしばらく苑子さんのスカート姿に見入っていた。


「お前、スカート履いてんのに仁王立ちすんのやめとけよ」

太郎が私の背後から声を掛けた。


私は慌てて足を閉じると、クルッと後ろを振り向いて

「見ないでよ!ど変態!!」

太郎の頭に空手チョップをした。


「痛ってぇ!!」

太郎は頭を抑えた。

「何すんだよ急に、痛ってぇな…。しかしあれだな。

お前よくもそんな図太い脚してスカート穿いてこれたな。

ある意味お前…侍だよな。その勇気ある行動と無謀さを称え、今日からお前も俺と同じラストサムライと名乗る事を許可する!!」

太郎は私の肩をポンポンと叩くと、右手の親指を立てて「イエーイ」と呟いた。


「…結構です。」

私は太郎のおでこを思いっきりグーで殴ってやった。

太郎は余りの痛さに、おでこを抑えながらその場にうずくまった。


何がラストサムライだ。そんなん名乗りたくもないわ!!ってか、図太い脚という意味が全く分からない。


私は、一人黙々と雑誌を並べ始めた。



まさか昨日の提案が本気だったとは思ってもみなかった。

昨日家に帰ってから、稀一さん達から『明日は短めスカート着用』という内容のメールが来て、全てに「嫌です」と返信したのだが、こっちが了承するまでしつこくストーカー並みにメールが届き、


無視したら今度は電話攻撃が始まり、電源を切ったら更に今度は家電に掛かってくるというしつこさに、家族への迷惑と眠さの限界に達してしまい


「分かりました」と返事してしまった。


元々スカートはあまり穿かないので、お姉ちゃんのを借りて穿いてきたのだが、お姉ちゃんは私の幼児体型とは違ってスタイルがいいから、ウエストが少しきつめなのが凄くムカついた。


私は無意味にお腹を凹ませてみる。


こんなスカート穿いたぐらいで、客が増えたらわけないって話だ。

私はふて腐れた。


「お前、俺のスカート作戦をバカにしてるな?」

稀一さんが私に話しかけてくる。


いつから、あなたの作戦になったのでしょうか。ってか、店長がこんなチンケな作戦を俺の作戦などと自慢げに言うのって如何なものでしょうかね。


「…別に。」

私は稀一さんを軽蔑の眼差しで見つめた。


「とにかく、11時と2時は脚立に登って無意味に展示物の貼り替えタイムにしよう」


コイツ、またまたバカな提案をしやがったな。

このスカートで脚立に登れと?


「イヤイヤイヤ、ムリムリムリ、ムリですって稀一さん」

私は首を超高速スピードで左右に振った。


「こんなスカートで脚立なんかに登ったら、パンツ丸見えになるじゃないですか!!」


「そう!!題して、パンチラ作戦ならぬ、パンツ丸見え、略してパン丸作戦~!!」


「バカですか、稀一さんは!!」

「一応有名大学は出たよ」

「そういう事言ってるんじゃないんです!!」


ホント、この人上に立つ資質があるのだろうか。私は力なくため息をついた。


「稀一さん、客にパンツを見せる店なんて、そんなの本屋じゃないですよ!?

そんなのいかがわしい店のする事じゃないですかっ!!青少年指導センターに通報されますよっ?」


「ウソウソウソ、ウソに決まってんじゃん~」

稀一さんは笑って言った。


「なんだジョーダンか…」

私はかすかにホッとした。


「丸見えはさすがにマズイから、やっぱチラリズムを追及した方がいいよな!!

見えそうで見えなそうで…やっぱ見えそうで、っていうギリギリの所が逆にそそるっていうかさぁ、

なぁ、沙和」


ああああああ…

やっぱり、相当な類まれないアホだ。


「稀一さ~ん、やっほぅ~」

ふと声をする方向を見ると、苑子さんが脚立に登って手を振っている。


プハッ!!

私は吹きだした。


苑子さん、なぜあなたって人はノリノリでそこまで出来るんですか!?

世間知らずのお嬢様って、ある意味汚れてない分純粋過ぎて怖いです…。


苑子さんは、見えそうで見えないギリギリの所で脚立に乗っていて、ある意味プロ級だ。


稀一さんは、苑子さんの所に走っていくとまたカメラマンの真似をして


「いいねいいね~!!この見えそうで見えないもどかしさ?いやーそそるねぇ!!グッジョブだよ、苑ちゃん!グッジョブ!!」


四方八方からカメラを撮る真似をしながら苑子さんを眺めて褒めまくった。


果たしてこの作戦が吉と出るか凶と出るのか。

私ははしゃぐ2人を見ながら更に深いため息をついた。






「女どもばかりに努力させては男が廃るってもんだよな」

「だな、俺らもなんか考えようか」

青登と咲真が店内の片隅に置いてある作業台の所で話し合っていた。


「うちの店はさぁ、男の客は結構来るんだよな。お前何時間うちの店いる気だよっ?って聞きたくなるような客が多いしなぁ。ま、買ってってくれるんなら何時間居てもいいんだけどさぁ」


青登が発注書にいたずら書きをしながら言う。


「だからさ、一番うちの客層として低い成人女性客…というか、子連れの客とかはどうしてもショッピングモールの方に行っちゃうからな~…


で、ついでにそこに入ってる本屋で本を買っちゃう訳じゃん?

だから、その人達を何とかして、うちの店に引き込めるかがポイントになるよな~」


咲真の意見に、青登が何かを思いついたかのようにハッとした表情を浮かべた。


「やっぱり今、子供達に大人気と言えばヒーロー戦隊モノだろ!!お母さん達をも虜にしてるというイケメン俳優達!!それを利用すれば子供とお母さん、一気にゲットできるぜ!!」


「この田舎の本屋にどうやって連れてくるんだよ、そのイケメン俳優達をさぁ」


「バカだな、俺らがやりゃいいんだよ!!だってさ、俺らイケメン俳優なんかに負けないぐらいのイケメンなんだからさぁ!!

本屋戦隊、ブックマン!!みたいなさ?どうこれ?」


青登が手を斜めに上げてポーズを決める。


「…本屋戦隊ブックマンって、カッコイイの?もう少しひねりなよ。

ホラ、戦隊モノっつったら○○ジャー、みたいなのが定番なんじゃないの?」


「そっか…じゃあ、活字戦隊本読むんジャー!!ってのはどう?」

「本読むんじゃ~って…思いっきりおやじギャグ入ってるよね、それ」

咲真が苦笑いする。


「じゃあ、お前も考えろよ!!俺は結構良いと思ったんだけどな~、本読むんジャー!!」

また青登が片手を挙げてポーズを決める。


「そうだなぁ…活字戦隊、はいいとして…活字戦隊、新刊ジャー!!ってのはどう?」

咲真も同じようなポーズを取る。


「シンカンジャー!!カッコイイよ、咲真!!超ナウイよ!!イケてるよ!!」

目をキラキラさせて青登が咲真の手を握る。


「ナウイは死語だけどな。よし、これで決定だな青登!!」

2人見つめあって頷いた。


「で、言いだしっぺの俺がシンカンレッドでいいよな」

青登が笑顔で言う。


「は?お前はどう考えてもシンカンブルーだろ?名前に青の字が入ってるんだからさぁ。」

「名前なんか関係あるかよ、俺は絶対レッドがいいんだよ」


「レッド役は、高身長の俺がやることによって全体的にまとまりが出来て見栄え的によくなるんじゃないか」


「身長なんか俺と大差ねーだろうが。いいか?ブルーは結構クールな奴が多いんだ。どう考えても、俺という人間にクールなんて形容詞は当てはまらないじゃないか、そうだろう?」


「そうだな。お前はどう考えてもお調子者のイエローって感じだな」


「バカ言うなよ、イエローは確実に沙和っちだろうが。」

「あーうんうん、納得」

また2人は頷き合った。






私は、隅の作業台で何かしら手を挙げたり握りあったり頷き合っている青登さん達をレジから胡散臭そうに見ていた。


一体、あの人達は何をやっているんだろうか。

マジメに仕事しているとは到底思えない。

また変な事を考えているのではないだろうか。


あの2人が考える事が、マトモだった試しは今まで一度もない。


妙な悪寒が身体中を駆け抜けて、思わずブルブルッとした。なんか嫌な予感がするんですけど…気のせいだろうか。


私はずっと2人の姿を見つめていた。


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