第19章
大会に出るという事が決まっても、特に練習するって事もなく、毎日普通に仕事をこなしていた。こんなので果たして大丈夫なのだろうか?
私は雑誌に付録をつけながら、こんなのを競技にして競い合うってどうなんだろう?なんか凄くくだらない…と思っていた。
どうせ、どこの支店も付録をつける時間など大差ないはず。じゃあ、テキトーにやってもそこそこイケルんじゃないだろうか?
そう楽観視していた私だったが、山形県予選の日になり、山形店・東根店・米沢店・そしてうちの店の4店舗で競い合った結果、シュリンク部門とポップ部門は断トツの一位。しかし私の付録がけ部門は3位で、でもなんとか総合して1位だったので東北大会に進む事ができた。
でも、本当にギリギリだった…私のせいで。
「すいませんでした…」
私はみんなの前で謝った。
「だから俺に任せとけば良かったんだよ~!!
沙和はあがり症だからな。俺が出てれば間違いなくオール一位だったのにさ~」
青登さんが法事で貰ってきた饅頭を食べながら言った。
私は落ち込んでて返す言葉も出てこない。
「謝る必要なんかないわよ。沙和ちゃんだって一生懸命やったんだもの。
3位だって立派なものだわ」
苑子さんが優しくフォローしてくれた。
一生懸命…やったんだろうか、私…。頭のどこかで真剣にやるのが恥ずかしいような、遊びの一環としか思ってなかったような…そういう気持ちがあって、それが結果に出てしまったのかも知れない。
私はただただ黙りこむしかなかった。
「お前凹み過ぎ。次頑張ればいいんだから」
私が文庫を棚に差し込んでいると、太郎がすぐ脇にやってきて言った。
「何?慰めてくれてんの?」
私はチラッと横目で太郎を見ながら言った。
「慰めるというか…励ましな?大丈夫、お前なら頑張れる」
太郎はそう言いながら自分の身体を軽くトンッと私の身体にぶつけてきた。
「うん…ありがとう」
私は素直にお礼を述べた。
「…素直なお前って…キモイな」
太郎がひきつった顔で言った。
「向こうに行け、とっとと」
私はギロッと睨むと手で太郎の身体を思いっきり押した。
「沙和っち~、あれ?イチャイチャの邪魔したか?俺」
青登さんが来る。
「イチャイチャなんてしてません!!」
私と太郎は同時に叫んだ。
「ま、別にどうでもいいんだけどな?沙和、さっきはあんな事言っちまって悪かったな。
お前の事あがり症とか言ったけど、実は俺はもっとあがり症なんだぜ!!
シンカンジャーのセリフの噛み具合を見ても分かんだろ?」
青登さんが能天気に笑いながら言った。
「…確かに」
「んだね」
私と太郎はひどく納得した。
「おいおいおい~!!そこ納得すんじゃね~よ!!普通、そんな事ないですよ~、とか否定否定!!否定すんだろ~?空気読もうぜ~!!」
青登さんが呆れた顔で言った。
お前こそ、何しにきやがった?空気読め。
私は呆れた顔で見つめ返した。
「ま、それはひとまず置いといて…だ。とにかく、あんま深く考えんな。
別に結果が悪かったって、給料減る訳でもクビになる訳でもないんだからさ?沙和自身が自分で最高に頑張ったって思えるぐらい頑張ればいいんじゃねーの?」
青登さんが笑顔で言った。
青登さんが…マトモな事言ってる。何気に感動しちゃったじゃん。
「ありがとう…青登さん。超感動した。」
私は素直な気持ちでお礼を述べた。
「そうか?そうだろう?惚れんなよー!!」
青登さんはイキナリ私をガバッと抱きしめた。
んなっ!!
私はビックリする。
「青登さん!!何やってんすか、どさくさに紛れて!!」
太郎が慌てて、私と青登さんの間に割って入った。
「太郎ちゃ~ん、男の嫉妬は醜いよ~ん」
青登さんは笑って行ってしまった。
「べっ別に誰も嫉妬なんか!!青登さん!!」
太郎が焦って叫びながら青登さんを追いかけて行った。
なんだかなぁ。私はため息をついた。
「本当に騒々しい奴らだ。シュリンク台に頭をぶち込んでやりたくなる」
実凛さんがブックトラックをガラガラと移動させながらシュリンク台の所までやってきた。
相変わらず恐ろしい事を言う人だ。シュリンク台の高熱の中にぶち込まれたら確実に死亡だ。熱中症ではすまない。
実凛さんは淡々とコミックを袋に入れていく。
凄まじい速さだ。根はマジメなんだろうな、本当に。
ふと見ると、実凛さんの手が所々赤くただれていた。しもやけのような感じになっている。
「実凛さん、手どうしたの?」
私は気になって聞いてみた。すると、実凛さんはハッとした顔をしてサッと手を後ろに隠した。
「…イヤ、もう見ちゃいましたから」
私は苦笑いをして言った。
実凛さんは少し恥ずかしそうな顔をして手を元の位置に戻した。
「しもやけ…ではないですよね?」
私は少し近づいて、じーっと観察する。
「たわけ!!それ以上近づくな!!こんなもん、唾付けときゃ治るぐらいの傷だ、構うな庶民が!!」
実凛さんは焦りながら叫んだ。
「もしかして…ヤケド?」
私はハッとした。まさか、この赤くなったのってシュリンクでのヤケド??
「ふ、ふん。このぐらいどうって事ないわ。
私は、万全の態勢で臨みたいだけだ。どうせやるからには、他の支店の下々の労働者達を無様に私の足元に平伏させたいだけだ。
とにかく、私の辞書には下々の外道に負けるという文字は載ってないんでな」
実凛さんはそう言い放つと、袋に入れたコミックを次々にシュリンク掛けしていく。その動きは一糸乱れぬ無駄のない動きで、確実にあんな手の動きをしていたらシュリンク台の熱い部分に、相当触れているに違いなかった。
私はただただその動きを見ていた。
すると突然手の動きがゆっくりになり、実凛さんはチラッと私の方を一回見るとすぐに目を逸らして言った。
「私は、この通り…あまり庶民には受け入れがたい個性であるが故に、どの職場にも馴染めず辞めさせられて来たのだが…
この店のあまり頭の良さそうではない店長の稀一を筆頭に、沙和も含め更に脳みそが腐ってるような
同じ穴のムジナ共は、こんな私にも普通に接してくれる。
だから私はこれでも随分心地よい思いをしているのだ。
だから…私も貴様らと同じ穴のムジナになってやってもいいと思った。
自分が今出来る事を精一杯やるしか、貴様らに同じ穴のムジナだと認めさせる事が出来ないではないか。私が頑張る事で脳みそ腐ったようなお前らが、みんなアホ顔して喜んでくれるのであれば、私はそれだけで凄く嬉しいのだ。貴様らの…役に立ちたい」
実凛さんは少し照れくさそうに、またシュリンクを掛ける手を速めた。
所々、間違った表現があった事はとりあえずスルーするとして…
実凛さんがそんな気持ちで居たなんて知らなかった。
一匹狼でも構わないような雰囲気があったし、そんな実凛さんにみんなしてちょっかいかけてたから、実は凄くうっとおしいと思ってるのかも…とか
ちょっと心配だったんだ。
でも嬉しかったのか…そういう、仲間、みたいな雰囲気が。
私は実凛さんが、そんな風に私達の事を思ってくれてた事が嬉しかった。
「ま、そう思ってるのは私だけじゃないとは思うがな」
「えっ?」
私は実凛さんの言葉に聞き返した。
「昔、私が飼っていた嬉しいとションベンちびるようなアホ犬によく似ている門次郎も、多分同じ気持ちでいると思うが」
実凛さんが言った。
実凛さんの飼っていた犬にも似てるのか門次郎のヤツ。確実に従順な犬系の顔立ちなんだろうな。
って、門次郎も同じ気持ち?
私は向こうのテーブルで仕事している門次郎を眺めた。いつになく真剣な顔をしている。
「実凛さん、ありがと」
私は一言そう言って門次郎の方に歩いて行った。
「門次郎~」
私は声をかけた。
門次郎はハッと私の方を向くと
「沙和ちゃん、どちたの?もう落ち込んでない?大丈夫?」
ニッコリと優しい笑顔を向けた。
「うん。大丈夫」
私もニッと笑った。
「沙和ちゃんはやっぱ元気でなくっちゃ。笑顔が一番似合う女の子だもん。この職場の太陽的存在なんだから。ねっ?」
門次郎は軽くウインクを投げかけた。
門次郎のこの歯の浮くようなセリフも投げウインクにも慣れてきた自分が恐ろしい。
「うん、ありがとう。で?何マジメにやってるの?」
私は作業台の上を覗きこむ。そこには大量のポップが置いてあり、中には文字が切りぬかれた物とか様々な工夫を凝らしたポップが数多くあった。
「凄いね…これ全部門次郎が作ったの?」
私はビックリして聞いてみた。
「うん、そうだよ。やっぱいくら得意だっても、そう簡単に成功する訳でもないしね?
試しにこう描いてみたらどうかな?とか思考錯誤しながら作ってたんだ。俺、結構陰で努力するタイプ。あんま人には言いたくないんだけどね。」
門次郎はおどけた表情をして笑った。
「あんま努力しなくても出来る人だと思ってた」
私はポップを手に取って、それをじっくりと見ながら言った。
「俺んちね、子供の頃からすげー貧乏だったんだ。ボロボロの小さい家に、俺の両親と兄ちゃんと妹の5人で暮らしてたんだけど、なんか毎日ご飯とふりかけ、とか…味噌汁とご飯、とかね?そんな感じ?
おかずがないのが普通。貧乏だから友達からもバカにされたりしてね、よくイジメられたりしたんだ。
でもね、ある時自分の書いた標語が優秀賞に選ばれてさ?市役所の入り口の所に看板になって飾られる事になったんだ。
そしたら友達も先生もみんな、凄いって褒めてくれて喜んでくれてさ、うちの親もすっごく喜んでくれたんだ。
自分の考えた文字でこんなにもみんながが喜んでくれるって分かった時、俺、すっごく嬉しかったんだ。うちは貧乏で、友達とかを喜ばせるゲームとかお菓子とか買えなかったけど、言葉や文章で人を笑顔にする事ができるって分かったんだ。
だから沢山言葉で伝えたり手紙書いたりしてたら、それが得意になっちゃって。小さい頃からませたガキでしょ?俺」
門次郎が頭をかきながら照れくさそうにペロッと舌を出した。
「よく…よくそれで我慢できたね…ご飯とふりかけだけで」
私は凄くひもじい気持ちになって悲しくなる。
「沙和ちゃん、そこは今の話で重要じゃないから。ご飯の話よりも俺がなぜ書くのとか得意になったかの経緯の方が重要なポイントね?」
門次郎は苦笑いをして言った。
「分かってるよ、そんなの。私バカじゃないもん」
「だね。少しアホなだけだよね?」
「…門次郎?人を喜ばせるのが得意だったんじゃないの?」
私はジロッと横目で門次郎を睨んだ。
「ジョーダンだよ、沙和ちゃん。でもね、俺、調子良い事ばっか言ってるように思えるけど、嘘は付かないってのがマイルールだからさ。
全部本心だよ、間違いなくね。」
門次郎はまたウインクを1つした。
「うん、そう思う。門次郎嘘つかないもんね」
「ありがとう、沙和ちゃん。信じてくれて。
でも、俺…今まで色んな店で働いてきたけどさ?やっぱ調子いい事ばっか言ってるって見られて良く思われなかったりとか…俺の売上げがいいのは、女を垂らし込んでるからだとか言われて、誰も俺の仕事を評価してくれなかったんだ。でも…この店のみんなは違う。
俺の仕事を評価してくれるし、何だろう…俺の本当の部分を見てくれるというか、だから凄く嬉しいんだ。だからこそこんな俺を受け入れてくれた皆の為に、俺一生懸命頑張りたいと思ってる。
閉店の話も聞いた。俺みんなとずっとこの店で働いていたいんだ。
だから少しでも閉店しなくても良くなるというんなら、なんでも頑張りたい。今回の大会も絶対に優勝したいんだ。沙和ちゃんは無理しなくていい。その分俺が…大差で一位になるから。ねっ?沙和ちゃん。俺に任して。」
門次郎は熱く語ると、最後に私の両手を強く握った。
「門次郎…」
私は門次郎を見つめた。
「はい、そこの2人!!仕事しろ、今すぐ仕事しろ!!はい、すみやかに手を離せ門次郎。店でそういうハレンチな事禁止!!はい、沙和はもうとっとと向こうに行け!!」
太郎がまたズカズカとやってきて、私と門次郎の手を引きちぎるかのようにひき離すと、私を向こうに追いやった。
ったく、何なの?一体…。
私は不服そうな顔をして太郎を見ながら歩き出した。
「言っとくがな、これは醜い嫉妬とかじゃないからな?
店の風紀を守ってるだけだからな?勘違いするんじゃないぞ、分かったな!!」
太郎が私を指さしながら叫んでいる。
何一人でムキになってるんだか。お前が一番勘違いしてるとしか思えん。
私は相手にしないでスタスタと歩いて行った。
私は発注書を取りに行き、文庫の棚を見ながらバインダー片手に発注を開始した。でも頭の中はまるで発注モードにはなっておらず、ただ棚をガン見しながら別の事を考えていた。
実凛さんも門次郎も…何食わぬ顔して凄く頑張ってた。2人共努力なしであれだけの技術を誇れてるんだとばかり思ってた。
でも、本当は凄く努力してたんだ。味醂さんは手にあんなに沢山ヤケドしてたし、門次郎だって指にペンだこが出来てた。相当の時間書いてなきゃ、あんなタコできないよな。
それに比べて私は…。
私は自分の傷1つない手をチラリと見た。何もしてない…私。
私は深いため息をついた。
この店に入ってまだ間もない二人が、店の為に、そしてみんなの為に一生懸命頑張ってるというのに、長く務めている私が店の為に全く頑張ってないだなんて…。たかがお遊びな大会、としか思ってなかった自分が凄く恥ずかしく思った。
大会云々ではなくて、こういう事で一致団結というか店の絆を深めるという事に意味があるのだ。苑子さんも前に言ってた通り、こんなに凄い店なんだぞ!!いい店なんだぞ!!って全国の店に知らしめる為にも私…頑張りたい。
私は心に強く誓った。
それからの私は、家に溜まっている雑誌を片っ端から集めて、その雑誌に色んな物を付録に見立てて挟み込んで紐で縛る特訓をした。
お姉ちゃんの部屋からも月順に並んでいるアイドル雑誌を勝手に棚から拝借した事がバレて、猛烈な勢いで怒られた私だったが、大会の優勝賞金100万円は店員で山分け、という素敵な情報を教えると、快く貸し出してくれた。
お金の力って偉大だな、としみじみ思った。
でも、誰もお姉ちゃんにあげるとも、何か奢るとも一言も言ってはいないのだけど。
しかし、お姉ちゃんはお父さんとお母さんにも賞金の事を話したらしく、なぜか3人共俄然燃え上がり、毎日がスパルタ特訓状態に陥ってしまった。
お父さんは常にタイムを測り、お母さんは頭にハチマキをして応援団気取りだ。お姉ちゃんは
「さあ、今度はこれを挟んで縛ってみなさい!!」
と、野菜は付録には付きませんけど?というような物ばかり紐掛けさせるようになった。
こんなに家族中を巻き込んで、しかも家族の方が燃えてる状態になって…
これじゃ、優勝して一人2万ぐらいは渡さないと家から追い出されそうな雰囲気になってきた。
大会の勝ち負け以上に、この家族に対してのプレッシャーで胸が押しつぶされそうになった。
でも、こうやって協力いてもらえるのはありがたい事だ。
ありがとうみんな。私頑張るね。お金の為に…じゃなくて、みんなの為に。
私は更に気持ちを強くした。
とうとう東北大会の前日になり、私と実凛さんと門次郎の3人は、仕事が終わった後に明日の打ち合わせと称してファミレスでご飯を食べながら話をしていた。
明日の大会は仙台で行われるので、門次郎の車で移動する事に決まった。
「じゃあ、集合は8時で店の前でいっか」
私は時間を確認しながら言った。
「何なら俺が家まで迎えに行ってもいいけどね?自慢の熱血お姉ちゃんも見てみたいし」
門次郎がニヤッと笑った。
「ヤダ、ぜーったいにヤダ。ってか、お姉ちゃんに甘い言葉なんか囁いたら確実に惚れるよ?門次郎に」
私は目の前のポテトをつまみながら言った。
「…この薄っぺらでハゲちらかしたオッサンの頭みたいにスカスカな具の物体がゲロ吐きそうなぐらいマズイのだが、フリスビーのごとく投げてみようか迷っておる。」
実凛さんが頼んだピザが相当お気に召さないようでブツブツ呟いていた。
「投げないで?投げないでよ?実凛さん。こういう所のピザなんて全部こんなもんなんだって。だから言ったでしょ?やめといた方がいいって」
私は慌ててたしなめた。
「しかし、このメニュー表ではこのように美味そうではないか。
これは詐欺だ。ピザピザ詐欺に違いない!!おのれ~」
ピザピザ詐欺って、俺俺詐欺みたいなニュアンスで言うのやめてくれない?
「こ、今度おいしいピザのお店紹介する!!ねっ?だからここは1つ、気持ちを落ち着けてどうどう。どうどう」
私は、馬をなだめるかのように落ち着かせてみた。
「そうだよ、実凛。このピザが美味しくなくてもお店の人が悪いんじゃないんだから。事件は厨房じゃなく会議室で起きてるんだからね?」
門次郎がニッコリと笑って言った。
全く意味分かんない。ってか、何かのドラマのセリフパクッてるよね?
まぁいい。この二人といると、なんか自分が一番マトモな人間に思えてくる。私、一番若いのに。
「あれ?門次郎じゃん。」
誰かが声をかけてきた。私達は後ろ振り向くと、男が2人そこに立っていた。
「あ、高藤君と小田君…久しぶりだね」
門次郎が少し驚いて言った。
その男達は、私と実凛さんをジロジロと眺めて
「さすが、女ったらしの門次郎君。また女2人を手玉に取ってるの~?」
「あんだけ客に手を出して、店中引っかきまわしてまだ懲りないってか?」
2人して門次郎の事を悪く言い出した。
「…何なの?この人達」
私は怪訝そうな顔して門次郎に尋ねた。
「高藤君と小野君は、前の店で一緒に働いてた同僚なんだ」
門次郎が少し困ったように微笑んだ。
「ねえ?君達。門次郎の言葉に騙されちゃいけないよ?コイツ、ホント口だけは上手いからね。女がいなくちゃ力が出な~い、みたいな?」
「言えてる言えてる。同じ男として本当に情けねーよ、マジで。
ね?これから俺ら合コンのなんだけどさ?君達も特別に来ない?楽しいよ~」
2人はヘラヘラと笑いながら言った。
私は席から立ち上がる。
「うわ、背小っさ!!あんた中学生?ブーツ脱いだら私と同じぐらいの背なんじゃないの?残念だね」
私は平然と言いきった。
「な、なんだと!!」
背が小さい方の男が赤い顔して叫んだ。
「あのさぁ。自分らがモテないのを門次郎のせいにしないでくんない?
門次郎にばかり女が寄って来て、あんたらが相手にされないのって、単にあんたらの魅力不足なだけなんじゃないの?」
私はキッパリと言い放った。
「沙和ちゃん、もういいから」
門次郎が慌てて止めに入った。
「この女!!マジでぶっ飛ばすぞ!!」
一人の男が手を挙げた。
と、その時ピザがフリスビー状態で男の顔に飛んできて命中した。
「悪い。手が滑った。」
実凛さんが口をナプキンで拭きながら平然と言い放った。
「み、実凛っ!!」
門次郎が慌てる。
「ご、ゴメンね。高藤君、あのこれハンカチ」
門次郎はカバンからハンカチを取り出すと男に渡そうとする。
私は門次郎の差し出した手を掴んで、ハンカチを奪い取る。
そして、門次郎の手を男達の目の前に突き出した。
「ホラ見なさいよ、この門次郎の手!!ペンだこが出来てるの見える!?
しかもマジックだらけでしょ!!これはねぇ、門次郎が一生懸命仕事してるって証拠なの。門次郎は、顔だけじゃなく仕事も完璧に出来る男なの!!
分かる?しかもねぇ、うちの店ね門次郎に負けず劣らずのイケメン揃いの店員ばっかだから、だーれも門次郎の事僻んだり嫌味言ったりしないの。
だって…門次郎以外の他の店員もぜーんいんモテモテなんだもん。
だから、喧嘩になんかならないの~。門次郎ばかり人気があるのは、門次郎のせいじゃないって事。言ってる意味分かるでしょ?」
私は多少過大評価を含めながらフンッと鼻で笑いながら言った。
「この女…マジ許さねぇ!!」
男達は真っ赤な顔で叫んだ。
「なになに?喧嘩?俺の同僚がどうかした?」
丁度そこに、うちのイケメン代表の咲真さんとお姉さんの紗弓さんがやって来た。
男達は、咲真さんのイケメンオーラと180㎝という高身長に圧倒されている。
「ん?何?門次郎の元同僚なの?へ~…。門次郎は本当にいい仕事するから返さないよーん」
咲真さんは門次郎の肩を組んでニッコリと笑った。
ああ…イケメンが2人並ぶと眩しいぐらいのオーラが放たれる。
「こっちが新しく入った門次郎君ね?うちの弟よりイケメンなんじゃないの?よろしくね」
紗弓さんがニッコリと笑った。勿論向こうの男達には一切の興味も示さない。
「行こうぜ…」
「あぁ…」
男達は逃げるように席に帰って行った。
私はその後ろ姿にベーッと舌を出した。
「一時はどうなる事かと思った…」
門次郎はホッとした様子で椅子に座った。
「あのクソ野郎共から情けないお前を助けてやる為に、私のピザが犠牲になったんだから弁償しろよ。勿論マンハッタンピザな?」
実凛さんはオレンジジュースを飲みながら言った。
それが本当の目的だったのでは…?
あえてそこは突っ込まずグッと呑み込んでみた。
「でも…沙和ちゃん、実凛、それから咲真さんに咲真さんのお姉さん。
みんなありがとう。俺…凄く嬉しかった。
俺、明日メチャクチャ頑張ります!!」
門次郎が元気に叫んだ。私達はそんな門次郎を笑顔で見つめていた。
おし!!明日は私も頑張る!!何が何でも1位目指すぞ!!
私は自分自身に言い聞かせた。