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第18章

それから1週間後。稀一さんは新しく採用した2人を朝礼で紹介した

。2人は稀一さんの隣に立って私達と向かい合う形になった。


私も初出勤の時はこんな風に稀一さんの脇に立って緊張してたっけな。

私は当時を振り返って懐かしく思っていた。きっとこの2人も緊張してるに違いない。…あくびしてやがるけど。

私はあくびをしている男の方を見つめた。


「今日からこの店で働いてもらう事になった、

佐々木門次郎君と市川実凛ちゃん、どちらも22歳。みんな仲良くしてくれまたえ」

稀一さんが軽く紹介した。


佐々木…門次郎。恐ろしく厳かな名前の割に外見は茶髪の長髪で軽くパーマがかかっている

線の細い身体付きのいわゆる中性的なタイプ。


犬で言ったら確実にジョン、みたいな名前だったに違いない。間違いなく門次郎とは命名されないだろう。しかしこの人もかなりのイケメン。

こんなにイケメンばかり勢ぞろいさせて、ホストクラブでも作る気か?と疑わしくなる。


門次郎が一歩前に出た。

「佐々木門次郎22歳。美容・健康を担当する事になりました。俺の事は、もんちゃんって呼んでください。こんなにキュートな子猫ちゃん達と一緒に仕事が出来るなんて、本当に嬉しいです。よろしくお願いします。」

門次郎は、みんなにウインクした。

祭が卒倒しそうになるのを私は必死で抑えた。


軽い。恐ろしいぐらいに軽い男が入ってきてしまった。キュートな子猫ちゃん…。ゲロが出そうだ。私の隣では、太郎が思いっきり不快感を示しながら眉間にしわを寄せている。


あーダメだ。太郎とは真逆なタイプだ。太郎は、キュートな子猫ちゃん、などと言うぐらいなら舌を噛み切って死んだ方がましだ、ぐらいのタイプだからなぁ…。硬派と軽い男…相反する匂いがする。

うまくやっていけるのか?この二人。


私は2人に軽く不安を覚えつつ、その隣に平然と立っている市川さんを見た。


市川実凛さん。一瞬、調味料の味醂か?みたいな誰しも一度は思うであろう事が頭をよぎったわけだが、顔が可愛いせいか名前も可愛く聞こえるのはなぜなのだろう。

可愛いってズルイと思った。実凛さんは、多分ハーフだろうと思う。

目が少し青いというか本当にお人形さんのような透き通った白い肌に高い鼻。祭が日本人形だとすると実凛さんはフランス人形って感じの雰囲気だ。


髪は強めのパーマがかかっていてクリンクリンしていて、それを高めの部分でポニーテールにしている。苑子さん同様に上品なお嬢様っぽい気がする。


今度は実凛さんが一歩前に進んだ。

「私の名前は市川実凛。ベルギー人の父が日本人の母に手を出しやがって避妊もせずに快楽に溺れた結果産まれたのがこの私だ。少女コミックを担当してやるから貴様ら、よろしく頼む」

ペコリと頭を下げた。


何だろう、今の…顔とのギャップの有り過ぎる挨拶は。

可愛い顔して言葉遣いが恐ろしく間違ってるような気がする。


みんな、しばしボー然としながら実凛さんの顔を見つめた。


「えっと、門次郎は今まで鶴岡の赤山堂書店で働いてたんだが、門次郎を巡って女性店員と客との間に争いが絶えない事からクビ寸前になってた所をスカウトしてきたわけ。

赤山堂書店は美容・健康部門は県内ナンバーワンの売上げを誇ってたから、その担当者である門次郎を辞めさせるのは、ホント辛い決断だったとは思うが…ま、トラブルメーカだったからしゃーないわな。」

稀一さんが門次郎の肩をポンッと叩いた。


「もう俺の為にこれ以上醜い争いをして欲しくなかったんです。女の子にはいつも笑顔で居て欲しいから」

門次郎が髪をかき上げる。


私は呆れて軽くため息をついた。太郎が隣で小さく舌打ちをした。


「で、こっちの実凛は1年前までずっと海外で暮らしてたんだがお母さんの都合で日本に戻ってきたんだそうだ。

で、実凛は鶴岡の富山書店で働いてたんだが、この通り間違った日本語を覚えて帰ってきてしまったせいで、接客態度が悪いとのクレームが殺到しクビになった所をスカウトしてきたというわけ。

とにかく頭がいいから物覚えは抜群で、この間違った日本語の他に10ヶ国語以上話せるらしい。

しかもかなりのアニメオタクのようで、少女コミックに関しては右に出る者がいないぐらい詳しいぞ。うちの店にはなくてはならない逸材だと思わないか?」

稀一さんは実凛さんの頭を軽くポンポンと触った。


「便所で洗ったかも分からないような手で馴れ馴れしく触れられるのは不愉快だが、ま、見る目はあるようだから勘弁してやってもいい」

実凛さんは、言葉とは裏腹に少し照れたように微笑んだ。


異様な空気が私達のまわりを流れていた。

大丈夫か?大丈夫なのかこんな人達などを雇って。他の店をクビになるような人達だぞ…しかもその理由は明白だし。

あぁ…稀一さんの人選能力の低さは、私を選んだ時点でたかが知れてるし…って、自分を卑下してどうする!!

私は頑張ってる、うん。頑張ってる頑張ってる。クビになるような事は何1つしてないもんねーだ。


私は最終的に自分を擁護してみた。


稀一さんは、一番左にいる苑子さんから順に紹介を始めた。ま、今日休みの青登さんと咲真さんはいないが、その他のメンバーは一通り紹介をしてもらって朝礼を終えた。


果たしてうまくやっていけるのかな…私は内心凄く不安に思っていた。ま、何とか…やるしなかい。稀一さんが決めた人事だもん。

私は無理矢理自分を納得させた。







最初はどうなる事かと思った2人だが、何気に仕事は出来るし、すんなりと私達に溶け込む事ができた。

他をクビになるような変わった2人が、すんなりと溶け込める職場って…もしや私達も十分に変わってる人間の集まりだったのでは?

という疑問が頭をよぎったが、ま、深く考えないでおこう。


でも、1つ意外だったのが門次郎と祭が意外とうまくやってると言う事だ。

「祭たーん、健康関係の文庫、少しこっちにも置いていいかな?キュートで知的な祭たんの感性で選んでくれて構わないから」

門次郎が祭にすり寄って行く。


「そうだね…じゃ、選んどく。各5冊ぐらいで何種類ぐらい欲しい?」

「5種類ぐらいでよろしく」

「うん、了解。あ、そうだ、昨日発売になった新刊のポップ書いて欲しいんだけどいいかな?」

「キュートな祭たんの頼みごとであれば、何を差し置いてもやるよ俺。どの本?内容見てから書くから」

「うん、この本なんだけど」

祭は門次郎に本を手渡した。


「了解♪この…男門次郎。皆が買いたくなるようなポップ書いてみせますからご安心を」

門次郎は手で敬礼しながら可愛い笑顔を祭に向けた。祭はそんな門次郎を見て少し笑った。


なぜなんだ。なぜ祭は門次郎には笑顔で普通に話せるんだ??どう考えても、間違いなくこの店にいる店員の中では恐ろしく歯の浮くような事を平気で言うような軽い男なのに。


私は少し時間を置いて、祭の所に駆け寄ると

「ねえねえ、祭。なんで門次郎と普通に話せるの?仲良くやってんじゃん」

私はこっそり小声で聞いてみた。


祭は少し困った顔で笑う。

「なんか自分でもよく分からなかったんだけど。うちの…死んだ犬に似てるんだよね。名前も『モン太』だったし、もんちゃんって呼んでたし…毛もクルクルして長めだったから、なんか同じ匂いがするの。あ、体臭とかじゃなくて雰囲気的にね」


犬と同等?私はビックリして近くでせっせと棚整理をしている門次郎を眺めた。


犬か。確かに犬っぽいな。太郎が柴犬だとすると門次郎はダックスフンドぐらいの愛くるしさがある。ま、私としては柴犬の方が好きなんだが。


「それにね、もんちゃん…ポップ書くのがハンパじゃなく上手なの。

美的感覚が凄いっていうか…独学で学んだとは思えないぐらい絵も上手に描けるんだよ」

祭が飾ってあるポップを指さした。


今流行っているダイエット本のポップなのだが、本当に購買意欲をそそられる感じに仕上がっている。


「ねえ、門次郎。ちょっとちょっと」

私は年上である門次郎を呼び捨てにして、手でおいでおいでしてみた。

門次郎は犬にように駆け寄ってきた。

「どうしたの?沙和ちゃん」


私は、ポップの付いているダイエット本を手にとる。

「これ、本当に痩せるのかな」

真剣な顔で質問してみた。


「うーん、そうだね。一応軽い運動ではあるから、とりあえず身体の歪みを直す事によって痩せやすい体質になるって言う感じかな?

いくらダイエットしたって、ダイエットを止めた途端リバウンドしたら元も子もないからね。置き換えダイエットとかと違って、痩せやすい身体にすれば今まで通り食べてもいいんだし、リバウンドはしなさそうだよね」

「そっかぁ…だよねぇ」

私は門次郎の説明にひどく納得した。


「でも、沙和ちゃんは痩せる必要なんか全くないよ?凄く女の子らしいふんわりした身体付きしてるんだから。痩せれば可愛くなるなんてナンセンスだよ。沙和ちゃんは今のままで十分キュートなんだから。ま、でももっとメリハリのある身体付きになったら、それはそれで女度が更にアップするかもしれないね」

門次郎が可愛らしい笑顔を放ちながら言った。


「門次郎、私…この本買う事にする。一冊取り置きしといて」

私はまんざらでもないような感じで言った。

「うん、了解♪」

門次郎がウインクした。


そうだよね。門次郎…さすがに良い事言うわ~。

突然、門次郎が私に近づいてきて顔をジーッと凝視した。その距離15㎝。


「沙和ちゃん…肌白いんだね。肌が白いから

余計に目の下のクマが目立っちゃってるよ?

もっと早く寝なくちゃね。可愛い顔が台無しだよ」

門次郎は私の顎を持ち上げてニッコリ笑った。


「あ、うん。気を付ける」

私はポッと顔を赤らめた。

ヤバイ。この至近距離で見つめられると、この垂れ目具合にキュンとしてしまう。しかも言う事が憎いほど心を動かすのがなぜだろう。


恐るべし…門次郎の魅力。これじゃ、客と店員、喧嘩にもなるわなぁ。

私はひどく納得した。



向こうでは、恐ろしいほど手際よく実凛さんがシュリンクをかけている。あの速さであのキレイさ。同じ時間で太郎の2倍は多くかけている気がする。


「おい太郎。少女の方はもうシュリンクが終わったが、不器用な貴様の方はまだ終わってないみたいだから手伝ってやってもいいが?」

実凛さんが太郎に言っている。

「あ、じゃあ…お願いします」

太郎が低姿勢でお願いしていた。


太郎は女性と話すのは苦手だが、実凛さんの悪代官並みの口の悪さが逆に女らしさを感じさせないようで、なかなか良い感じでコミック担当を2人でこなせてるように思えた。


「あの~、頼まれてきたんだけど…女性コミックで『恋まで届け』の最終巻ってありますか?」

男の人が、実凛さんに声をかけた。


実凛さんは大きな目でジッとその男を見た。

大きな澄んだ目で見つめられた男の人は、ポーッとなって立ちつくしている。


「頼まれた?」

「は、はい。嫁に…」


「嫁に尻に敷かれてるであろう腑抜けな貴様の為に良い事を教えてやるが…発売日は明日だ。このクソど田舎は首都圏と違って、発売日よりも1日遅れて新刊が届くのだ。

文句があるならこんなど田舎に産まれた己自身を恨むか、お前を産んだ両親を呪うがいい。

それより…大体嫁からパシリにされて、のうのうと生きてる奴隷的存在のお前が不憫でならないがな」


実凛さんは可愛らしい顔立ちに似つかわしくない険しい顔つきでズバッと言い放った。


ひーッ!!

私は焦りながら猛ダッシュしてきた。


「いっイヤイヤ…ち、違うんですよっ?そういう意味じゃないんです、間接的な激励方法というか、イヤ、違うんですよっ?めちゃくちゃ励ましてるんですよ、今の!!」

私は大慌てでお客様に手振り身振りでフォローした。


「感動しました!!」

お客様は感無量な顔をして実凛さんに向かって頭を下げた。

…えっ?

私は思わぬ展開に驚く。


「俺ももう少し強くなりたいとずっと思ってたんです!!

もう嫁なんかにコキ使われてたまるか!!ありがとうございます!!

あなたがハッキリ言ってくれたおかげで、自分変われそうな気がします!!

頑張ります!!」

目に涙まで浮かべながら叫んだ。


「そうだな。ドMじゃない限り奴隷などにはなりたくもないだろう。

男としての威厳を貴様のメス豚に見せつけてやるがいい。

おっと、明日の新刊買いにくるのを忘れたら丸焼きにして食っちまうぞって伝えておけ」

実凛さんは、客の肩に手をかけて洗脳するかのように言った。


「イヤ、伝えなくて結構ですからっ!!とりあえず新刊は明日って事だけお伝えください~!!どうも~すいませーん」

私は丁寧に客を追い返した。


私は、棚に向かってうな垂れる。

はぁ…フォローが大変だ。こっちの身が持たん。私はため息をついた。


「最近の男どもは腰貫けばかりで役に立たんな。沙和ぐらいドSな方が男らしくていいと思うんだが」

「イヤ、私、ドSじゃないから」

私はキッパリと否定した。

実凛さんはニヤリと笑ってまたシュリンクを一心不乱にかけはじめた。

本当に…不思議な人だ。フォローが大変だけど、本当によく働くマジメな人には違いない。うん、うまくやって…いけそうだ。…多分。

私はそう判断した。




「えっ?大会??」

私達は仕事が終わって、休憩所で稀一さんの奢りのピザを食べながら集まっている。

今日の仕事休みは祭と太郎だけで、後は全員出勤なので、休憩所も賑やかだ。

私と苑子さん以外の4人はいつもの椅子に座って、私達はソファーの方にピザを持ってきて食べている。

稀一さんの分の椅子がないので、仕方が無く立ったまま腕組みして壁に寄りかかりながら話しだした。


「大会って何の?」

青登さんが口の周りにケチャップを付けながら聞いた。


「だーかーら、支店対抗の大会っつってんだろ?シュリンク部門とポップ部門、あとは付録がけ部門の3つの部門で競い合うの。で、総合して1位を決定するわけ」

稀一さんは面倒臭そうに答えた。


「そんな大会があったなんて今まで知らなかったわ」

苑子さんがコーヒーを飲みながら言った。


「だって今まで言った事ねーもん。今まではずっと棄権してきたからなー。結局大会の本選に出るまでには予選とかもあったりして、うちの店の人数を考えたらまず不可能だったんだ。店を休む訳にも行かないからな。

でも今年はホラ2人も増えたし、しかも得意分野みたいだし?

それに全国の支店にうちの名を広めるには、持ってこいの場なんじゃねーかなと思ってな。」


稀一さんは炊事場の方に歩いて行ってコーヒーを飲もうとガチャガチャ騒がしくしながら言った。


見兼ねた苑子さんがソファーから立ちあがって稀一さんの手伝いに行く。

全く…コーヒー1つ用意できないなんて不器用な男はどこまでも不器用だな…と私は呆れた。


稀一さんはコーヒーを苑子さんにお任せして戻って来た。


「でもさぁ…全国にうちの店の名前を広めたって、だからって閉店を免れる訳じゃないんだろ?」

青登さんがピザを頬張りながら言った。


「なーんか、頑張れば頑張るほど気の毒に思われそうな気がしない?」

咲真さんが椅子に寄りかかりながら苦笑いをする。


「賞金は1位100万円。勿論店員で山分けな?」


「よーし、やろうぜ!!」

「やるやる!!俺、新しいミシン欲しい!!」

青登さんと咲真さんはイキナリやる気を出して立ちあがった。


「俺は何でも協力しますよ、みんなが笑顔になるのなら」

門次郎がニコヤカに言った。

「そういう気取った言い方が最高にムカつくの」

青登さんが門次郎をジロリと睨んで呆れた顔で笑った。


「実凛さんはどう思う?」

私は、黙々とピザを食べている実凛さんに声をかけた。


「そうだな。このようなありきたりなピザで皆を釣ろうなどという魂胆には、さほど心は揺れ動かないが、全国の支店の低能な奴らが泣きながら私に平伏す姿を見てみたい気もする」


そう言いながらも、ピザは相当お気に召したようで両手に持ちながらパクパク食べている。さすが外国育ち。ピザはお好きなようだ。


苑子さんがコーヒーを持ってやって来ると、稀一さんに手渡した。

「私も賛成だわ。だってうちの店には、個人的に能力の優れた人達ばかりいるんですもの。それを披露しないのは勿体ないわ。

それに、私達の団結力というか、仲の良さを他の支店に見せつけたいなーっなんて思って。」

苑子さんはなぜかウキウキした感じで言った。


団結力かぁ。

「ってか、俺のピザ全部食ったろ!実凛!!」

稀一さんが叫ぶ。

「貴様が食べるなどと、誰も知る由がなかったのだから、言わなかった貴様の落ち度だ戯け」

実凛さんは美味しそうにピザを口に頬張りながら言った。


「青登、お前…人のピザの上にピーマン乗せるのやめろよ。こんな小さいピーマンぐらい食えんだろ。お子様じゃあるまいし。」

咲真さんは文句を言いながら、青登さんが乗せたと思われるピーマンを青登さんのピザに戻した。


「あー、せっかくよけたのに何すんだよ!!こんな小さいピーマンでも、俺にとっちゃ存在感はハンパなくデカイんだよ!!

苦くて食えねーんだから、こんぐらい食ってくれてもいーじゃねーかよ、ケチ」

青登さんはブーブー文句を言った。


…団結力、仲の良さ…。大丈夫か?こんなんで。

私は小さくため息をついた。




大会の詳細を詳しく聞くと、シュリンク部門は、30分間でどのぐらいコミックにシュリンクを掛けられるか。速さ、数、そして綺麗さを競うらしい。そして、次の30分で大きさの違うそれぞれのコミックに、ちゃんと適したサイズの袋を選び全部のコミックにシュリンクをかける。

ちゃんとしたサイズを選んでないとやり直しになり、これは全部シュリンクをし終えたタイムを競うらしい。

勿論、ただやみくもにシュリンクすればいいって訳じゃなく、いかに綺麗に出来るかも重要なポイントになるそうだ。


次はポップ部門。これはその名の通り、いかに優れた購買威力のそそるポップを書けるか競うらしい。コミックのポップ、文芸書のポップ、色んな分野のポップを数種類作成してその出来栄えを競う。

ま、これは間違いなく門次郎がやる事になるだろう。


次は、付録がけ部門。雑誌には色々な付録がついているが、これは全部本屋側で付ける事になっている。

最近はファッション誌や、幼年誌など様々な雑誌に付録がついており、付録がついてる雑誌が沢山来ると、朝から大忙しになる。

ゴムで取りつけられる付録と、紐でしっかり括らなければならない付録の2パターンがある。付録かけ部門は、いかに早く決まった量の雑誌に紐で付録を付けられるかを競い合うらしい。



そこでとりあえず、全員でそれぞれの種目?で競い合ってタイムを測ってみた。

やはり、ポップは門次郎がピカイチだった。

実凛さんも、なかなか絵は上手ではあったが

文章が口に出すのもはばかられるような内容ばかりで、絶対に店には飾れそうにもないという事であえ無く却下という事になった。

ポップ部門は、門次郎が出場する事になった。


シュリンク掛けは、やはりいつもやってる太郎が良いタイムを出したが、実凛さんの手際の良さと綺麗さ、的確さにあえ無く敗北し、

男としてのプライドと長年コミック担当として培ってきた技術に対するプライドがズタズタにされたようで、隅の方で暗く凹んでいた。


残るは付録がけだが、こういう単純作業はなぜか私は大得意で、他を圧倒して断トツのタイムを叩き出した。しかし、2位の青登さんが納得できない様子でギャーギャー喚いていた。


「絶対に俺の方が上手いじゃん!!沙和なんて、何、このテキトーな感じ!!すぐに紐が外れそうじゃん!!ホラ、外れた!!ホラ見ろ、外れたぞ!!」

青登さんが外れた紐をブラブラさせながら叫んでいる。


「…今、無理矢理ヒモをむしり取りましたよね」

祭が冷ややかな目で言った。

「と、取ってねえから!!ちょっと触ったらすぐに外れたんだって!!」

青登さんが焦って弁解する。


「貴様、男として○玉ついてないんじゃないのか?ミジンコ以下だな。

…散れ!!」

実凛さんも軽蔑の眼差しを青登さんに向けながら言った。


「イヤ、だから違うって!!本当に外れたんだって!!」

青登さんは皆から責められて泣きそうになっていた。


「でも、青登。そういや山形予選の日ってお前…じーちゃんの法事で休み取ってた気がすんな」

稀一さんが勤務表を見ながら言った。


「ほ、法事っ??…沙和、俺の代わりにじーちゃんの法事に出てくれ、頼む」

「無理です」

私はキッパリと言い放った。


私が法事に行ってどうする。そこまでして出たいのか?私は別に出たくはないけど。

私は、ドップリと落ち込んでいる青登さんを見て思った。


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