第12章
本荘店も、うちの店同様にショッピングタウン内にテナントとして入っている。
が、うちの店と決定的に違うのは、すぐ隣の店舗が大型スーパーだという所だ。やはり、スーパーがあれば、買い物に来たついでに本屋に立ち寄るお客様も多いだろうし、うちのような雑貨屋さんと空き店舗に挟まれた場所よりは、はるかに集客数が多いと思われる。
「このスーパー潰れないかな」
私はスーパーを見ながら呟いた。
「お前、本当に負の発言しかしないな」
太郎が呆れる。
私と太郎は車を降りると、本荘店の外から店内を覗いてみた。本荘店の入り口付近の窓は全て曇りガラスになっており、かろうじて上の部分だけが普通のガラスになってるので、中の様子を見るには上のガラス部分から覗くしか方法がない。
「太郎、見える?」
私はイマイチ背が低くて中が全く見えない。ピョンピョンと跳ねながら太郎に聞いてみた。
「うん、見える事は見えるけども…あんまり良くは見えんなぁ…」
太郎も少し背伸びして中の様子を眺めている。
「中に入るか」
太郎が言った。
「私達ばれないかな?偵察に来たって事」
私は少しビビリながら言う。
「大丈夫だろ。顔知られてないし。」
「そっか。そうだよね。…よし、入ろう!!普通のカップルみたいに、自然にね」
私は太郎の服をつかんだ。
「カップル…」
太郎が胸を押さえながら顔を赤らめた。
「…なに?」
「イヤ…お前がカップルとか言うから」
「さ、行くよ」
「って、また無視かよ」
私は太郎の話をスルーして中に入って行った。
中に入ると、思ったよりそんなにお客さんは多くはなかった。
なんだ、そんなに客いないじゃん。平日の午前中なんて、どこも一緒なんだな。
私は本を探してるようなフリして色々チェックする。
なんか…薄暗い倉庫みたいな感じ。うちの店の方が凄く明るくて雰囲気的にはいいと思うんだけどな。
私はふと気が付くと、太郎の姿が見えなくなっていた。
ったくあいつ、どこ行ってんのよ。
私は太郎の姿を探すと、太郎はコミックの棚をガン見していた。
私は太郎の脇に行く。
「なんか凄いコミックの量だよね。ってか、ゴチャゴチャしてて逆に見にくくない?」
私は山のように平積みされたコミックと、天井まで付きそうなぐらい高い圧迫感のある棚を見ながら言った。
「でも、凄くポップに凝ってる…」
太郎が呟いた。
ポップとは、本をより沢山売るために、絵を描いたり字を書いたり店側が駆使して制作してるものだ。
本荘店のポップは、うちとは気合の度合いがまるで違う。一体誰がこんなのを作ったのだろう。
私はかなり気合の入った、今売り出し中のアニメの絵が描いてあるポップに見入っていた。
太郎はスタスタと色んなコミックの棚を眺めながら歩いて行く。
私は、ふと、ある棚の上から2段目に置いてあるコミックに目をやった。
ウソ…こんなに昔のコミックまで全巻揃えて置いてるの?信じられない。
私はそのコミックに手を伸ばす。高い所に置いてあるのでなかなか取る事ができない。
「こちら、お取りしましょうか?」
誰かがスッと後ろから手を伸ばすと、そのコミックを棚から抜き取ってくれた。
「こちらでよろしかったですか?」
「あっ…はい、ありがとうございます」
私はコミックを受け取ると、取ってくれた人の方を向いた。
そこには、背の高い目鼻立ちのハッキリとした超イケメンが立っていた。
うちの店と同じエプロンを付けてるという事は…この人は店員。
もしかしたら本荘店の松潤は、この人か!!
私は、ジーっとその人を見つめた。
「あれ?この本じゃありませんでした?」
その人は困ったような顔で私を見た。
イヤイヤイヤ…実にカッコイイ。これは、松潤から勝ってるかも知れない。
「あの…どうかしました?」
「あっ…いえ、これです、ありがとうございます!」
私は慌ててお礼を言う。
名前の書いてあるネームをすかさずチェックすると、
中村、と書いてある。
中村さんは、爽やかな笑顔を向けて去って行った。
イヤ~…中村さん、いいわ~…。
私は中村さんの歩いて行く後ろ姿を目で追い続けた。
「おい。」
後ろから太郎が現れた。
「見た?今の中村さん見た?あれだよ、あれ。松潤似の店員って間違いなく今の中村さんだよ。イヤ~…イケメンだわ~何、あの爽やかさ」
私は褒めちぎる。
「俺の方が…純朴だ」
「…は?なに?今、張り合おうとしたの?ってか、純朴って…そんなので互角に闘えるとでも思ってんの?ねえ?」
「男はなぁ、純朴なのが一番なんだよ!!こうビシッと一本芯が通ったような信念というか強さ?俺からはそれらが滲み出てる」
「…いい加減虚しくない?」
「ってか、いいのか?お前そんな事言ってて。向こうに小川さんという超美人な店員がいたが、あれがもしティーンズ文庫の担当だとしたら、間違いなくお前は敗北宣言せざるをえないだろう」
太郎は鼻で笑いながら言った。
私は、太郎を一睨みしてティーンズ文庫の棚の方にズンズン歩いて行った。
ティーンズ文庫も、相当棚が上の方まであって種類の多い事が一目で分かる。
うわ…このシリーズも全巻揃えてんだ。うちの店じゃ無理だわ…棚に置ききれないもんな。
私はビックリすると同時にため息をついた。
新刊台の方を見に行くと更にビックリした。
な、な、なんでこの新刊がこんなにいっぱいあるのっ??うちになんて、6冊しか入らなかったのに15冊はあるじゃん!!
私はその新刊を手に取ると、ワナワナと手が震えた。
あれもこれも…こっちのも、うちには少量しか入荷しなかったのに、なんで…なんでここにはこんなに入荷するんだぁ!!
「居ただろ?」
太郎が来る。
「見てよ、太郎!!こんなに新刊がいっぱい入ってるんだよ!!信じられない」
「知ってる。コミックの新刊も、うちの店の倍は入ってるみたいだった。」
「あーもう、ガバッと盗んでいきたい」
「シッ!!バカ…大きな声で言うなよ、万引き犯に思われるだろ」
太郎が私の口を手で押さえた。
「いらっしゃいませ~」
女の店員がこっちにやって来る。
ひっ…。私は目を疑った。
その店員は、巫女の衣装を着ていて、しかも猫耳としっぽまで付けている。
こ、この人の着てる衣装は…間違いなく、あの小説の有名キャラのではないか。
もしや、この人が…ティーンズ文庫担当?
ネームをチラリと横目で見ると、小川と書いてある。太郎が言ってたのは間違いなくこの人の事だ。
私は顔をチラッと見てみる。確かに美人だ。イヤイヤイヤ、でも苑子さんや祭の方が間違いなく美人度はかなり上だけどねっ?
イヤ、問題は私か。私は…。
もう一度、小川さんをチラッと見る。
…髪の長さと気の強さは多分勝ってる。
って、そんな事で勝ってどうする。私は深いため息をついた。
この衣装を自発的に着る勇気…私にはない。
苑子さんなら、きっと対等に闘ってくれるとは思うが…私には無理がある。
小川さんは美人だから何を着ても許されるし、猫耳なんか付けても、可愛い~で済まされるけども、私が猫耳なんか付けたら、実に痛い人か、もしくは妖怪レベルだ。
出来ない…私には出来ないぃ!!
私は近くにあった壁にもたれかかりながらうな垂れた。
「おい。お前凹み過ぎ」
太郎が背後から声を掛ける。
「あの…もしかして、酒田店の方ですか?」
後ろから誰かが声を掛けてきた。
私と太郎はガバッと振り返ると、そこには小柄な男の人が立っていた。
「はっ…はいっ」
私と太郎は同時に返事をする。
「あ、どうも御苦労さまです。私、本荘店店長の榊原と申します。」
榊原さんは丁寧に頭を下げた。私達も慌てて頭を下げる。
「稀一君から、もしかしたらうちの連中が行くかもしれないからって連絡を受けていまして。」
榊原さんがにこやかに言った。
「そ、そうだったんですかぁ。でも、よく私達がその連中だと分かりましたね」
私はビックリして言った。
「あ、なんか稀一君が、背が高くてガッチリした感じでいつも眉間に皺を寄せてるような、目つきの悪い男と、結構お洒落な感じで個性的なオーラを放ってる女、って言ってたものですからそうじゃないかな~って思いまして」
榊原さんは更に笑顔で言い放った。
そんな微妙なヒントで当ててもらえて…凄く光栄です…。
私と太郎は、ひきつり笑いを浮かべた。
「わざわざ、うちの店を見るために来たんですか?」
榊原さんが私達に尋ねた。
私達はギクッとして顔を見合わせた。
「ま…まさかぁ~。用事のついでですよ、ついで!!秋田市に行くんで、そのついでに寄ってみただけですよ!!ね、ねぇ?太郎」
「あ、うん、そうっす。ついでっす、ついで」
私達は無理矢理話を合わせた。
「もしかして…デートですか?」
榊原さんが直球で尋ねた。
「デートッ!?」
私達は同時に叫ぶ。
「イ、イヤ、その…自分はそんなつもりでは一切なく…」
太郎が真っ赤になってうろたえている。
「違いますよ」
私はキッパリ言いきった。
「あれ?店長お知り合いですか?」
さっきの中村さんがやってきた。
太郎の目つきが更に悪くなる。
「あ、中村君。こちら酒田店の方達」
榊原さんが言う。
「あ、先程はどうもありがとうございました。
酒田店の上仲です。ティーンズ文庫担当をしています。どうぞよろしく。」
私はペコッと頭を下げた。
「自分は小谷太郎。コミック担当で剣道歴15年!!」
太郎が胸を張って言った。
剣道歴…今必要な情報?それ。
私は怪訝そうな顔で太郎を見つめた。
「どうも初めまして。俺は中村総。コミック担当です。小谷君もコミック担当なんだね。よろしく」
中村さんが手を出して太郎に握手を求めた。
太郎はブスッとしたまま中村さんを黙って見つめている。
ったく、何ライバル心むき出しにしちゃってんだか。
「どうも~よろしくぅ~。ホラ、太郎!!」
私は太郎の手首を掴むと、中村さんの方に突き出した。中村さんはニッコリして太郎と握手を交わした。
ったく、お前は子供か!!
私は呆れた顔で太郎を見つめた。
「花音ちゃん、ちょっといいかな~」
榊原さんが叫ぶと、向こうから「はーい」と声がして小川さんが走ってきた。
「こちら、酒田店の上仲さんと小谷君。こっちは、うちのティーンズ文庫担当の小川花音ちゃん。上仲さんもティーンズ文庫担当なんだよ、花音ちゃん」
榊原さんが紹介してくれる。
「どうも初めまして、小川花音です。遠い所、わざわざうちの店の偵察ですかぁ?御苦労さまです」
小川さんが笑顔で言った。
「いいえ~、別に偵察なんかしに、わざわざ来るわけないじゃないですかぁ。ドライブですよ、ドライブ。道の駅でお米アイス食べるついでにちょっとサクッと寄っただけですから~」
私は笑顔でガッツリ言い返した。
「ですよね~、わざわざ来るはずないですもんね~。だって、酒田店ってもうすぐ閉店するんじゃなかったでしたっけ?そうですよね、店長」
小川さんは屈託のない笑顔で、傷口に塩を塗りこむような事を言い放った。
「花音ちゃん、失礼な事言わないの」
榊原さんは焦って言った。
「まだ閉店するって決まった訳じゃありませんから」
私はハッキリと言った。
小川さんは舌をペロッと可愛く出した。
コイツ…マジで性格悪っ!!殴りたい…!!
私は拳をギュッと握り締めた。
「私、もうてっきりダメなんだと思ってたぁ。ゴメンだニャー♪」
小川さんは猫の招きポーズをしながら謝った。
私は、そのポーズにドン引きする。
今、ニャーつったか?ニャーつったよな?
マジ耐えられない…ここまでしないと売上げが上がらないと言うのなら、別に上がらなくても構うもんか。
私は冷ややかな目で小川さんを見つめた。
「でも酒田店頑張ってるよね。コミックも全国5位だったもんね、凄いじゃん」
中村さんが言う。
「…ありがとうございます」
太郎が棒読みでお礼を述べる。
「ま、少年コミック部門だけだけどね」
中村さんが爽やかに言い放った。
太郎は黙りこむ。
「うちは少年も青年もオール1位だけどね。
ま、参考になるか分かんないけど見たいだけ見てったらいいよ、うちの店。」
太郎は返事もしない。
「私、酒田店の店長さん、好みのタイプだったけど…小谷君の方が超好みだニャン♪」
小川さんが言う。
「俺は、上仲さんみたいな子が好きだな。なんか可愛がってあげたくなるタイプ。ねえ、もし酒田店潰れたら、うちの店においでよ。
上仲さんなら歓迎するよ。」
中村さんはニッコリと笑った。
「これで失礼します!!」
太郎はペコッと一礼して、私の手を掴むと颯爽と歩きだした。
「ちょ、ちょっと、太郎!!…じゃ、じゃあ、皆さんどうもお邪魔しました~ごきげんよう~」
私は手を振りながら挨拶すると、太郎に引っ張られるままに店内を後にした。
店の外に出た太郎は、イキナリ立ち止まると
「あーーーーッ!!」
駐車場に響き渡る声で叫んだ。
駐車場にいる人達がみんなビックリしてこっちを見る。
「ちょっと、太郎、何やってんのよ!!ど、どうも~お騒がせしました、すいませ~ん」
私は周囲の人に愛想笑いをして軽く謝りながら
「早く車に乗ってよ、早く!!」
無理矢理、太郎を車に押し込むと、私も助手席に乗り込んでドアを閉めた。
「急に何叫んでんのよ、みんな見てたじゃん!!」
私は言った。
「あの男だけはマジ許さん。」
太郎が呟く。
「あの男?もしかして中村さんの事?」
「あんなのに、さん、なんか付けなくていい!!あんなの、ナカムーでいいんだ、ナカムーで。」
ナカムーの意味が分からない。
「散々人の事バカにしやがって…。コミック全国オール一位だからって、だからなんだってんだ!!」
太郎が怒りに震える。
「ってか、あの女もキモイっつーの。ニャーニャーニャーニャーうるさいし、あの衣装みた?キャラになりきっちゃってさぁ…お前はオタクか?って感じだよ。ホント痛々しい」
私もブツブツ文句を言う。
「とにかく、もう二度とこんな店来るか」
太郎はそういうと車を発進させた。
太郎は相当怒ってるようで、黙ったまま何も話そうとしない。
「ねえ、太郎。」
「ん?」
「私、まだ帰りたくないんだけど…」
「えっ」
太郎がビックリした声を発する。
ふと太郎は前方方向を見てハッとした顔をした。そこは丁度、ホテル街に差し掛かった所だった。
「イヤ、お前!!帰りたくないって、お前!!お、俺を慰めようとしてるのかっ?
お前、もっと自分をだ、大事にしろ。っていうか、俺はそういう行為をするという事はだな、つまり、けっ…結婚…結婚を前提にお付き合いというか、生涯を共に歩もうと心に誓った相手じゃないと、そ、そんな…軽々しくそんな…」
太郎が真っ赤になりながら何かを力説している。
「何ブツブツ言ってんの?私、しゃぶしゃぶ食べたいの、しゃぶしゃぶ。」
「は?」
「だから、せっかくここまで来たんだから、秋田市に行こうよ、秋田市。
秋田市に、しゃぶしゃぶの食べ放題の店があるんだ。酒田にはないじゃん?ね、食べようよ♪しゃぶしゃぶ!!」
私ははしゃぐ。
「お前って…全ての欲求の中で、間違いなく食欲が勝つタイプだよな」
「は?失礼な事言わないでよね。睡眠力もハンパなくあるよ」
「はいはい」
太郎は呆れたような顔で返事をした。
その後、秋田市に行き、しゃぶしゃぶを堪能して、その帰りにスタバに立ち寄った。
私達はコーヒーを持って椅子に腰かけた。
「あ~もう私何も入らない…お腹いっぱい過ぎてズボンキツイ。」
私はお腹を撫でる。
「大体、お前…肉持ってき過ぎなんだよ…食べられる量だけ持ってこいっつーの」
「いいじゃん、結局全部食べたんだしさ」
私はコーヒーをフーフーしながら言った。
「でもいいよね、秋田。スタバもしゃぶしゃぶ食べ放題もあるし、イタリアンの食べ放題もあるし、寿司の食べ放題もあるし、あとは…自然食の食べ放題もあるし…」
私は指折り数えながら言う。
「全部食べ放題ばっかじゃねーかよ」
太郎が呆れる。
「だって酒田に何もないんだもん。スタバも食べ放題もなーんにもないじゃん。」
私はそういうとコーヒーを一口飲む。
「あーやっぱりスタバのコーヒーは美味しいね」
そう言いながら太郎を見ると、太郎はずっとコーヒーを見つめたまま黙っていた。
「どうしたの?太郎、猫舌だったっけ?」
私は聞いてみた。
「俺…。やっぱり絶対、アイツらに負けたくないって思ってさ。考えれば考えるほど、特にあの中村からは絶対に負けたくない」
太郎は真剣な顔でそう言い放つと、一気にコーヒーを口に入れた。そして余りの熱さに口から出した。
「熱っつ!!」
太郎は口を手で押さえながら、服にこぼれたコーヒーを慌ててナプキンで拭いていた。
私はそんな太郎を冷ややかな目で見ていた。
そういう後先考えない行動をするアンタが…あの中村に勝てるのか微妙な所だけどね。
太郎は一通り拭き終わると、今度はゆっくりとコーヒーを口に入れた。
「あ、うまい」
幸せそうな顔で言う。
私はそんな太郎を見てフッと笑った。
「ま、外見だけを見るならばナカムーから負けてる事は認めるが、でも、大体あいつ凄く馴れ馴れしいじゃないか!!お前に対して、なんか恥ずかしげもなく、その…可愛がりたいとか!!
可愛がるってなんだよ?可愛がる…可愛がる…ま、まさか!!」
太郎はハッと何かを思いついた顔をしたかと思うと、イキナリ赤くなって両手で自分の顔を覆った。
「…破廉恥過ぎて言葉に出来ん」
「あんたが変な妄想してるだけでしょう!?」
私は太郎の頭をぶつ。
「痛っ…!!」
「可愛がる、っていうのは変な意味じゃなくって、先輩が後輩を可愛がる的なそういう感じの事でしょうが。」
私は呆れる。
「だとしても、だ!!お前に対する馴れ馴れしさは尋常じゃなかった」
「そう?でも、あの女…小川のヤツだって、太郎の事凄く気に入ってたじゃん?タイプだニャー♪とか言ってなかった?」
私は招き猫ポーズを真似しながら言った。
「…キモイ」
「わ、悪かったわね!!」
「イヤ、お前じゃなく、小川な?大体俺は、ああいう男に媚びるような女は好きじゃないんだ。」
太郎はコーヒーを飲んだ。
「でも、大体の男はああいうのに弱いよね。
雰囲気的に、なんつーの?守ってあげたくなるような感じ?」
「女だって、ナカムーみたいな男に弱いだろ?王子様キャラだしな。」
太郎は気に入らなさそうに言った。
「そう?私は太郎の方がカッコイイと思うけどな」
私はショーケースに入っているスコーンを見ながら言った。
太郎は驚きのあまり、飲んでいたコーヒーが気管に入ったようで思いっきりむせていた。
「おっお前…サラっと今、凄い事を言ったが
それは本気で言ったのか?」
「え?…ねえ、あのスコーン…美味しそうじゃない?」
私はスコーンを指さして言う。
「お前、あんだけ食っておきながらまだ美味しそうなどという感情が湧きおこるのか?お前、どんな胃袋してんだよ…
ってか、そんな事はどうでもいい。俺が聞いてるのは、そんな事じゃないんだ。お前、本当にアイツよりも俺の方が…か、か、カッコイイと思うのかっ?」
太郎が赤い顔して聞いた。
「うん。…ねえ、スコーン食べてもいいかな」
「ああ、いいぞ!!スコーン食べてもいいかな~?いいともーッ!!」
太郎は妙にテンションを上げて叫んだ。
…キモイ。
私は胡散臭そうな顔で太郎を見つめた。
「俺だって、あんな猫耳つけるような女よりも、お前の方がずっといいと思うぞ!!しかしお前がもし、あの猫耳女に対抗して同じような猫耳を付けて、あのお好み焼き屋のタヌキそっくりになったとしても、俺はお前の味方だからな!!
っていうか、猫耳なんかに頼るんじゃない。ドラえもんだって、耳がなくても頑張ってるじゃないか!!お前はドラえもんになればいいんだ。酒田店のドラえもんになればいい!!な、ドラえもん!!」
太郎が力説する。
「あのさぁ。あんたの発言、最高にイラつくんだけど」
私は太郎を睨みつけた。
「え?なんで?こんなにもお前を褒めて応援してるのにか?」
太郎がビックリした顔で私を見た。
「褒めてる?褒めてたんだ?それは気が付かなかったよ、ごめんね」
私は皮肉たっぷりに言った。
「気にするなよ。お前の性格がハンパなく悪いって事ぐらい、俺はちゃんと理解しているつもりだから」
太郎は笑顔で言った。
コイツ…一生女と付き合うのは不可能に違いない。人を不愉快にさせるナンバーワンの称号を与えたいぐらいだ。
「俺、頑張る。ラストサムライの名にかけて、必ずナカムーを…イヤ、本荘店を一位の座から引きずり降ろしてやる!!」
太郎が叫んだ。
「私も頑張る。とりあえず、全国2位目指すよ」
私は地道な発言をした。
「2位?そんな順位に甘んじてていいのか!!」
「甘んじてなんかないじゃん、だって今現在5位なんだからさ。2位だって結構な目標だよ?
大体、本荘店と2位の売上げの差は倍あるんだからさぁ…。ひとまず2位でいいじゃん、2位で」
私は太郎に言い聞かせるようにして言った。
「じゃあ、2位にしとくか」
「うん、とりあえず2位目指して頑張ろ」
「最終的には、ナカムーをギャフンと言わせてやるがな」
「私も、あの猫耳女の猫耳をへし折って、しっぽ引き千切って私の前に平伏させてやる」
私は悪魔のような笑顔を浮かべた。
「お前、言ってる事何気に怖いな」
太郎は怯える。
そして私達はコーヒーで誓いの乾杯を交わした。