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第11章

私と太郎は、パソコンでコミックとティーンズ文庫の全国支店の売上順位を見ながら、ニヤニヤしていた。


「少年コミック部門の売上げ、全国5位おめでとうございます。」

私は太郎の腕をつんつんと突いて言った。


「イヤイヤイヤ…ティーンズ文庫の売上げ、全国5位もおめでとうございます」

太郎は深ぶかと頭を下げた。


「やっぱさ~、この店に来るお客さんってアニメ系好きが多いんだよね。

このままいけば…全国1位も夢じゃないっ!!かも??」

「なーッ!!」

私達は顔を見合わせてニヤついた。


「甘いなぁ…お前ら」

稀一さんが、いつの間にか横にいて口を挟む。

いつの間に現れたんだ、この人。


「お前ら、一位の店がどこか見たか?」

「一位?どこだろ?東京の方の支店?」

私達はパソコンで一位の店を確認する。


すると、コミックの売上げもティーンズ文庫の売上げも、どちらも未来屋本荘店が一位だった。


「本荘店っ!?」

私と太郎はビックリした。


本荘店は秋田の本荘市にあり、うちの店がある酒田市とさほど人口的にも変わらない、都会とは無縁の場所にある支店だ。

そんな場所にある本荘店が全国一位??都会の支店を差し置いて全国一位だなんて。


「お前ら、今まで売上げなんか全く気にしちゃいなかっただろうから知らなかったと思うけど、本荘店は5年以上ずっと一位の座をキープしてんだぞ」


「マジで??」

「しかも2位との売上げの差は、ほぼ倍」

「マジーッ!?」

私達は更に驚いた。


「何でですか?なんで本荘店がそんなに売上げいいんですか??店自体が大きいとか?」

私は食いついて聞いてみる。


「広さ的には、うちの店と同じぐらいじゃないかなぁ。

でも…棚の数は向こうの方が多いけどな。


なんつーんだろ…ホラ、良く倉庫みたいに商品を山積みしてるような店があるじゃん?ディスカウントショップみたいな、色んな商品が所狭しと並んでるような店。本荘店はそんな感じなんだよな。


うちの店は結構キレイ目に整然と本が置かれてるけど、向こうはとにかくコミックとティーンズ文庫に力入れてるから、品数がうちの倍はあるんじゃねーの?


棚も上の方の本は、脚立無しでは取れないぐらいの高さまであるし、ビッシリ並んでるもんな」

稀一さんが腕組みしながら話す。


「じゃあ、うちの店のティーンズ文庫の棚ももっと増やしてくださいよ!!」

私は叫んだ。


「増やすっつったって…何かの棚を減らさない事にはなぁ」

「じゃあ、コミックの棚減らしてくださいよ。一番棚数が多いんだし」

私は太郎を裏切る。


「お前…今まで仲間だと思ってたのに…明智光秀のような人間だな!!今すぐ切腹しろ!!」


「ってかさぁ、エロコミックの棚、無くしてもいいんじゃないの?

目ざわりなんだけど。あんなの無くったっても誰も困らないって」

私はエロ撲滅を推奨してみる。


「ダメだ、俺が困る」

稀一さんがキッパリと言いきった。

お前が困るんかい!!私は心の中でツッコミを入れた。


「俺も困る」

青登さんが来る。


お前もか!!…ってか、今すぐ散れ!!

私は青登さんをシッシッと手で追いやった。


「ま、でも棚数だけの問題じゃなくて、売上げがいい最大の理由としては、本荘市には大きな本屋がうちの本荘店しかないって事だな。つまり、ライバル店がどこにもないから一人勝ちな訳。」


「うっわ!!ズルじゃん、そんなの!!」

私は叫んだ。

「切腹ものだな」

太郎が横から言った。


酒田市には、ざっと数えてもうちの店の他に2つ本屋がある。1つはショッピングセンター内にあるし、もう1つは市内中央に君臨している。

前はもっと本屋が沢山あったのだがやはり本が売れない時代になったのか、次々に潰れていった。


うちも…同じ運命を辿るのだろうか。ああああ…。

私はこめかみを押さえた。


「ちょっと太郎。他の本屋消してきて」

「お前、恐ろしい事言うなよ」

「あの2つの本屋さえなければ、うちも本荘店のように売上げがドカーンと伸びるはずなのにぃ!!あ~今すぐ抹消したい。潰れてくれないかなぁ…」

「無茶言うなよ」

太郎が呆れた顔で私を見つめた。


「しかも!!」

稀一さんが声を張り上げる。

「しかもっ??」


まだ他に理由がっ??

私と太郎はゴクンと唾を飲み込んだ。


「本荘店のティーンズ文庫の担当が…凄く美人だ」

「だから何なの!?」

私は一気に不機嫌になる。

美人だから、何だっつーのよ。えぇ?


「それは実に大問題だ」

太郎が呟いた。


「何が!?ぶつよ!?」

私は太郎の頭を思いっきりぶっ叩く。

「もう叩いてんじゃん!!」

太郎が頭を押さえながら叫んだ。


「しかもしかも!!本荘店のコミック担当は、超イケメンだ。

嵐の松潤に似てる」


「あぁ…松潤似の店員かぁ…。それは間違いなく大問題だね」

私は太郎の顔をチラリと見てため息をついた。


「ま…松潤など、俺様が小指でひねり潰してくれるわ!!あーっはっはっ」

太郎は虚ろな高笑いをする。


私と稀一さんは、気の毒そうな目で太郎を見つめた。


「そんな目で見んなよ…」

「なんか…虚しいな~って思ってさ」

私は同情的な目をして言った。


「お前の方こそ、向こうのティーンズ文庫の担当者は超美人なんだぞ。

相当なハンデを負ってるんだぞ、人に同情してる場合か」

「あのねぇ。美人にも色々あるでしょ?大体、稀一さんは、女の趣味が物凄く悪いんだからさ?そんな人の言う事なんか真に受けてどうすんの?

どうせマニア受けする個性的な感じの女に決まってるし」

私は言い切った。


「お、俺の趣味をバカにすんなよ!!マジで美人なんだっつーの!!

ってかお前ら、一回本荘店を偵察してこいよ。仮にも全国一位も夢じゃないかも~とか豪語してるぐらいなんだから、まず敵を知ってから大口叩きやがれ!!ってなもんよ」

稀一さんが言った。


私と太郎は顔を見合わせた。

全国1位がどんな感じなのかちょっと興味はある。

本荘店偵察か…よし、行ってみるか。

私は心の中で行く事を決意した。


仕事が休みになり、本荘店偵察の日がやってきた。


なぜか太郎と一緒に行く事になり、私は朝の9時に職場近くのお好み焼き屋のタヌキの置物の脇で太郎を待っていた。


太郎が車でやって来て、私の目の前で止まる。

そして助手席側の窓を開けると

「おは。どっちがお前か見分けつかんかった」

隣のタヌキを指さしてクスッと笑った。


「…車、傷付けてもいいかな?」

私は殺意のある目で呟いた。

「お前、バカか?買い換えたばっかなんだからな、車。とにかく早く乗れ」

私は不機嫌になりながらも仕方なく車に乗りこんだ。


太郎の車はミニバンなのだが、見た目も大きく見えるし、中も普通のワゴンぐらい広かった。


「ふうん。独身なのに、よくこんな無駄に大きい車買ったよね。意味分かんない。」

私はシートベルトを締めながら言った。

「ランクルに乗ってるお前には言われたくない」

「私は、四角い車が好きなの」

「じゃあ、軽トラにでも乗れ」

「…あんた、喧嘩売ってんの?」

私は太郎を睨んだ。


太郎は笑いながら車を発進させた。

少し走るとコンビニが見えてくる。

「なんか飲み物でも買う?」

「そうだね、買っていこうか」

私達はコンビニに立ち寄る事にした。


店内に入り、飲み物の棚の前で何にしようか考える。よし、あれにしよう。私は冷蔵庫を開くとジュースに手を伸ばす。と、同時に太郎が同じジュースに手を伸ばした。


「太郎もこれにすんの?」

「ん?お前も?」

「うん」

「ふーん」

太郎は自分の分と私の分の2本を手に取るとレジに歩いて行った。

太郎とは、何気に好みが合う。


「あ、お金払うよ」

私は財布を広げた。

「いい、さっき待たせたお詫び」

「いいの?ありがとう。じゃあ、お菓子もついでに。これとこれ、はい」

私は選んだお菓子を太郎に手渡した。


「お前には遠慮という文字はないのか?」

「だって、太郎だし」

「太郎だし、の意味が分からん」

太郎はそう言いながらも、お菓子も買ってくれた。


私達は再び車に乗り込み、車は走り出した。

私はお菓子の袋を開けると、パクパク食べ始めた。太郎はマジメに運転している。


私はチラッと太郎の方を見た。

ふうん。黙って運転する姿はなかなか良い感じじゃん。


太郎は私の視線に気付いた。

「なんだよ?」

「鼻毛出てるよ」

「マジっ!?」

太郎が慌てる。

「嘘」

「お前なぁ…いい加減にしろよなぁ…」

太郎がホッとした顔をして言った。


「うちの店の男達ってさぁ…みんな、話さなければイケメンなんだよねぇ」

私はお菓子を食べながら言った。


「…それに俺も含まれてるのか?」

「太郎も、運動神経さえ良ければイケメンなんだけどねぇ」

「運動神経には触れないでくれ」

「大丈夫大丈夫、ドジでノロマな亀も、地道に頑張ればウサギに勝てるんだからさ」

「それって、一応励ましてんの?」

「イヤ、別に励ましてるつもりはない」

「お前って性格悪いよな」

「小悪魔って言ってくださる?」

「イヤ、どう見ても大魔王レベルだろ。」

私達は言い合いをしながら車を走らせた。


「でもさ~太郎が車でアイドルの曲とか聞いてたらドン引きだったけど、意外とマトモで良かったよ。この曲私も持ってる。意外といいよね、この人達の歌」

私は車内に響いている音楽を聞きながら言った。


「いいよな、このバンド。俺こないだライブ行ってきたんだ。」

「えっ?マジでっ??え~何で言ってくんなかったの?私も行ってみたかったのにー!!あ、もしかして…彼女と行ってたりして??」

私はニンマリする。


「違う、友達と!!勿論男。…ってか彼女なんかいないし、俺、女に興味ないから。」

「えっ…まさか…ゲイ?」

私は怯えた目で太郎を見た。


「アホか!!俺はラストサムライだぞ?ゲイな訳あるか。」

「侍にもゲイはいるでしょ、絶対」

「ま、いるのかも知れないが…俺は断じてそういうんじゃない!!

女に興味がないというか…苦手なんだよな」


「ま、苦手なのは知ってたけどもさ?太郎ってお姉さんが2人いるんだよね?そんなに女が苦手になるぐらい嫌な事でもされた?散々パシリさせられたりとかさ?」

私は少し笑いながら聞いてみた。


「イヤ、姉ちゃん…ていうよりも、母親って感じかな。うちのオカン…実はバツ3なんだ。」

太郎が言いにくそうに答えた。


バツ…3。つまり…3回離婚したって事?

私はビックリする。


「ビックリしただろ?あんま誰にも言ってねーんだけどな。」

「ま、まぁ…ビックリしたけどもさ…」

私は正直に言った。そしてジュースを一気にゴクゴク飲んだ。


「だから、上の姉ちゃんと下の姉ちゃんと俺と…全員父親が違うんだ。

ま、そんな事は別にいいんだけどもさ。で、今は4回目の再婚して、今んとこ落ち着いてはいるけどな。

なんか俺、メチャクチャどうでもいい事しゃべってんな」

太郎が恥ずかしそうに頭をかいた。


「ううん、大丈夫だよ。でもさ?太郎のお母さんが今幸せなら、それでいいんじゃないの?バツが何個だろうが、過去は過去なんだし。」

私は言った。


「俺も、別にオカンの過去にとやかく言うつもりはないんだ。

ただ…こんなにも簡単に離婚して再婚して離婚して、って…


女って怖い、っつーか…。俺は…俺はな?やっぱ本気で好きになった女を一生好きでい続けたいというか、軽々しくとっかえひっかえみたいな感じで人を好きになりたくないというか…。


なんつーか、女がみんなそういうんじゃないって頭では分かってるし、うちのオカンだって、いつも軽々しく考えてた訳じゃないって事も分かってるつもりではいるんだけど、でもなんか…好きとか言われても信用できないというか…。好きって、何?みたいな。

あー俺、何言ってんだろ。悪い、忘れてくれ」

太郎が慌てて撤回する。


「ま。太郎君落ち着いて、これでも食べたまえ」

私はお菓子を1つ太郎の目の前に差し出した。

太郎はそれを受け取ると、パクッと口に放りこんだ。


「ん、うまいな。これ何味?」

「東北限定、芋煮味。」

「芋煮味…。売れなそうな味だよな、食べたらうまいんだけど」

太郎は苦笑いをする。


「それだよ、それ。いい?太郎君。

芋煮味って聞くと、なんか不味そう…って感じで敬遠してしまいがちだけど、食べてみたら、あらビックリ!意外と美味しいじゃないの、ってなもんでさ?

何事も試してみなきゃ分かんないんだよ。


女だっても、一見おとなしそうな感じだけど、実際は凄く強気で我儘だったり、でもその反対になんか性格悪そうって思っても、意外と優しかったり…そういうのって、深く付き合ってみないと分かんないと思うんだよね。


そりゃ、付き合って嫌な思いしたり、騙されたり、裏切られたりする事もあるかも知れないけどもさぁ。それはたまたまハズレだっただけで、次は大当たりかも知れないじゃん?


人は悲しみが多いほど、人に優しくできる生き物なんだよ?」

私はしみじみと語る。


「お前…良い事言うな」

「うん、武田鉄也が言ってた。」

「パクッたのかよ」

「一部変えておりますので、パクッてはおりません。」

私達は笑った。


「でもさ?ま、別に焦って誰かとどうのこうの、って考えなくてもいいんじゃない?


太郎のそういう不器用な所もちゃんと理解してくれる人が現れたら、その時に付き合うかどうかって考えればいいんだし。太郎にもそのうち、そういうトラウマ?をも越えるぐらいの好きな人が現れるかも知れないしさ。


太郎が一生一途に想えるぐらいの人に出会えるまで、でも、そんな堅く考えないで色んな人と接してみて、こういうのはダメ、こういうのはありだな、って観察していったらいいんじゃない?」

私は言った。


太郎は運転しながら頷く。

「そうだな。芋煮味も食べてみて初めてうまいって分かった事だしな。

怖がらずにトライしてみる事も必要なのかもな」

太郎は何かを決意したかのように言った。


「ま、私は太郎のそういう不器用な所も嫌いじゃないけどね。真っ直ぐな所とか結構好きだよ」

私はニッコリして言う。


すると急に太郎のハンドル操作が乱れ、車が蛇行した。

「ちょっと!!何やってんのよ。危ないじゃん」

私はビックリして叫んだ。


「あ、悪いッ…。だ、だってお前がイキナリ俺の事をす、す、好きだなんて…言うから。

俺のその、この真っ直ぐな侍らしさみたいな所が」

太郎が赤くなりながらブツブツ呟いている。


「あ。あそこじゃない?本荘店」

私は身を乗り出して前方を指さした。


「お前…俺の話、サクッと無視か」

太郎はため息をつきながら、車を駐車場に留めた。




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