【8】
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夏休みに入る前日から、作業を始めた。
初日にやったことは、プロット作りだった。
以前から何冊か小説の書き方の本を読んでいた。
そのなかで、小説の設計図であるプロット作りの大切さがよく説かれていた。だから、俺は見様見真似で、プロットを作り始めた。
最初はノートに丁寧に書いていたけど、だんだん面倒になってきたから、とりあえず思いついたことをiMacを使って、キーボードで打ち込むことにした。
普段、スマホのフリック入力ばかりしていて、キーボードのローマ字入力は、いまいち手に馴染んでいないように思えた。ただ、小さい頃からタイピングをしていたから、同学年の人たちよりは、タイピングはできるほうだと思う。
感覚的に馴染まないし、フリック入力のほうが楽に思えるというだけだ。
書きたい話は二つくらいあって、それをとりあえずばっと、なにかに乗り移られたかのように、書いていった。そうしているうちに、だんだんと手もキーボードに馴染んできて、マシンガンを打ち込むように文字を打ち込むことができるようになってきた。
ここまでの作業で2、3日かかった。
『意外と楽しいかも』と山本瑠奈にLINEでメッセージを送ると、1分もしないで返信が返ってきた。
『私、もう、2万字書いたよ。すごいでしょ』
山本瑠奈も書いていたことに驚いたが、なにより同じ2、3日を使って、もうそんなに進んでいることに一番驚いた。同じ時間を使っているはずなのに、作業が早いことに少しだけ嫉妬して、返信したくなくなった。
『すごいな! 早く読んでみたい』とまっとうな返信をした。そんな返信をフリック入力している最中ですら、悔しさが胸を占めそうになった。悔しいとあわせて、すごいなとも思った。たった数日で書けるんだから、それってすごい才能だよなって、山本瑠奈のことを認めざるを得ない。
『私、7月中に完成させられるかも』
『じゃあ、俺も7月中に完成させるよ』
『川崎くんは無理しなくていいよ 夏休み中に完成させて、私に読ませてよ!』
『わかった 無理だったらそのときは土下座しとく』
『土下座なんかいらない 書いて! 川崎くんならできるよ!』
『体育会系だな笑 お互い、頑張っていこう』
そう俺が返すと、山本瑠奈から、すぐにスタンプが送られてきた。これで終話していいということがわかったから、俺はLINEを閉じた。
俺の文章は、しょせん自分のために書いているものだ。人のために書いている山本瑠奈の文章とは、タイプが違うんだから、比べても仕方ないことだ。自分にそう言い聞かせ、俺は、そのやり取りをしている最中に、ふと思いついたことがあったから、また脈略もなく、思いついたことをキーボードで書き殴った。
そして、プロットが3万字になった5日目。俺はようやく、小説の本文を書き始めた。
書き始めると止まらなくなった。
できるだけエコで行きたいから、文字数はとりあえず8万字くらいを目指すことにした。原稿用紙換算で200枚以上が応募規定だった。
生成AIにそのことを質問したら、瞬時に色々調べてくれた。その結果、どうやら改行とかスベースで原稿用紙換算200枚は、きっちり8万字にはならないようだ。冷静に考えてみれば確かにそうかと思った。ただ、応募したい賞の応募規定だと、原稿用紙換算でしか指定がされていないから、文字数での指定がない。
それでも原稿用紙換算は、明確に数値化されておらず、漠然としているように感じたから、とりあえず8万字くらいの小説を書くことにした。
小説を書いていくうちに、意外と作詞のように韻を踏んだり、音を合わせたりすることもできることを発見した。だから、発見したことを、最初に書いた部分に反映し直した。
ただ、あくまでも、小説は自分のために書くということを意識した。
正直、人のためなんて、まったくわからない。なにが人のための文章になるかなんて、俺にはわからない。俺にわかることは、自分のなかにある鬱屈した気持ちを整理した言葉だけだ。
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