2026年 3月 ――引っ越した翌日【33】
見慣れた街を24階の高さから、 一望している。
この街で唯一のタワーマンションの最上階は見晴らしがよかった。
7000万円くらいの中古の角部屋を一括購入した。
17歳で俺は自立することができたし、自分の家を持つことができた。
2LDKのこの物件は18畳のリビング・キッチンに、7畳の洋室が2つある作りだ。リビングは、白い大理石調のフロアタイルが張り巡らされている。前のオーナーが、リフォームでフロアタイルを張ったらしい。
一人暮らしをするには十分すぎる設備だ。
2005年に建築された物件で、築21年になるらしい。
まだ、家具を買っていないから、リビングには自分の部屋から持ってきた机と椅子しかない。リビングから一番近い方の部屋を寝室にすることにした。昨日、引っ越しが終わり、買った家電も一緒に搬入してもらった。
インターホンが鳴ったから、俺は外を見るのをやめて、インターホンの方へ歩き始めた。
*
「成功者って感じだね」
山本瑠奈は、がらんとした白い部屋のなかを落ち着きなさそうに、うろうろとしていた。
「YouTubeできそうでしょ?」
「確かに、みんなこういう感じの家住んでるけど、タワーマンションみたいなところに住んでるんだね」
山本瑠奈は、窓の前に座った。白いTシャツに、青いワンピースを着ていた。いつか見たことあるセットアップだけど、最高に似合っていた。
「ねえ、どうやって買うの?」
「一括だよ。全額振り込んだ」
「未成年でもそんなことできるんだ」
「金があれば、信用される世界みたい」
悪者みたいなことを言うと、山本瑠奈は笑ってくれた。
別にここまで大きな物件を買う必要なんてない。だけど、お金を持ったままより、さっさと資産にしたほうがいいと発信している誰かの動画をたまたま観て、それだったら、早いうちに資産作っちゃうかと思い、この部屋を買った。
それに法的な書面を作れば、誰にだって、こんなのあげることができる。来週、その書面を作りに行く予定になっている。
家を出てほっとしたのか、俺は本当に久しぶりに熟睡することができた。珍しくうなされることもなかったし、夢すら見れないほど、深い眠りだった。
俺は机に向かい、引き出しに入れていた鍵を取り出した。そして、山本瑠奈の方まで、歩き、山本瑠奈の隣に座った。
「なあ、親と喧嘩して、ここ買ったって言ったじゃん」
「そうだね。可愛そうだけど、大先生の川崎くんになっちゃったからね」
「もう、親のこと、信用できないんだ。だから、これ持ってくれないか。手出して」
そう言うと、山本瑠奈は素直に右手を出してくれた。だから、俺はこの部屋の鍵をそっと、山本瑠奈に渡した。
「そんなに私のこと信用してるんだ」
「当たり前だろ。だって、小説を書かないかって誘っただろ」
山本瑠奈は、じっと俺のことを見つめてきた。いつもの何を考えているのかよく読み取れない、表情だ。山本瑠奈は目を細め、すっと息を吐いた。そして、山本瑠奈は鍵をそのままぎゅっと握った。俺は左手の小指を山本瑠奈に差し出した。
「約束してほしい」
「――わかった。何かあったら、走ってここに来るから」
そう言って、山本瑠奈は左手で小指を結んだ。
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