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AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


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32/35

2026年 1月 ――世間からすると順風満帆にみえる話【32】



 iPhoneの通話を切り、俺はため息を吐いた。

 永瀬さんからの電話だった。

 なんでこんなタイミングでこんな連絡が来るんだろうと、がっかりした。



 次作の刊行を4月に雑誌で、読み切りの長編を一本出すのが決まっていて、今はそれを書いている。ただ、電話で伝えられた内容は、そのことではなかった。読み切りのちょっとした連絡かと思ってたから、より嫌気がさした。


 書店小説大賞にノミネートが内定したらしい。

 永瀬さんが言うには、この賞にノミネートされること自体、すごいことのようだ。

 書店員の人たちによる人気投票がなされ、順位付けがされるようだ。

 普段、あまり本屋に行かない俺は、あまりピンと来なかった。そんなことよりも、2月中旬までに原稿を完成させなくちゃならないから、そのことのほうが気が気じゃなかった。


 読み切りの長編の話が来た時は嬉しかった。自分で書いたプロット案が通り、雑誌のなかで一枠もらえることになったからだ。それは、自分のネームバリューではなく、初めて自分の実力で勝ち取った仕事のように思えたからだ。


 ただ、原稿が思ったよりも進んでいなかった。

 さっき、永瀬さんに締め切りギリギリになるかもと伝えると『目一杯、時間使って大丈夫です。まだ、1ヶ月弱ありますし。おっと、伝え忘れてました。また2冊とも重版決まったので、近いうちに見本誌お送りしますね』と返された。


 最近は、毎月2回、3回の重版も当たり前になってきた。

 重版し始めた最初の頃は、永瀬さんも毎回、『おめでとうございます!』と言ってくれていたけど、気がついたら、言ってもらえなくなった。

 というか、もう、重版が当たり前になりすぎていて、『重版します』は、事務連絡化していた。


 相変わらず、うなされる日々だ。

 毎日飲んでいる睡眠改善薬もあまり効いていないように思えた。

 

 相変わらず、AIで書いた『人生なんてろくでもない!』がAIで書いていることがバレて、バッシングされる夢とか、自分がAIを使って、得意げになっている夢とか、本当に見たくもない夢ばかりを見る。

 

 そのたびに思う。俺は、ずるいことをしていると。そして、少なからずいる、俺のことを好意的に捉えて読んでくれている読者の人たちのことを、サイレントに裏切っていることへの罪の意識が『重版します』と聞くたびに胸を締め付けられているように感じた。


 そして、書店小説大賞にノミネートまでされてしまった。

 俺は、もう、いろんな人たちのことを裏切り続けているんだ。影に隠れて。








 原稿が一段落し、iMacをスリープした。iPhoneを手に取り、ロック画面を見ると、0時を過ぎていた。明日も学校なのに、こんな時間まで労働してしまったと思いながらも、俺はとりあえず、疲れたから、ベッドに横になった。


 昨日、父親と大喧嘩をした。

 その要因は父親が俺に向けているやっかみだった。


 父親は会社でなにかあったらしい。リビングを通り、キッチンにコーラを取りに行ったとき、ソファに座る父親が『いいよな。学校行きながら俺より稼ぐんだから。父さんなんてもういらないだろ』とぼそっと言われたことがきっかけだった。母親が『やめて。息子にあたる父親なんて最低だよ』と強めに父親に返してから、言い争いが始まった。


 最初、俺はコーラのペットボトルを持ったまま、静観を決め込んでたけど、そのうちに父親の攻撃が俺に向いた。


『俺の若い頃、ベンチャー立ち上げたときは朝から晩まで休み無しで働いた。だけど、お前より稼ぐことはできなかった。なのに、非生産的で、ただの娯楽に過ぎない小説家のほうがなんで、あまり仕事しないで稼げるんだよ。半年で1億も稼ぎやがって』

 そう、すでに2冊合わせて、80万部分の印税が入っている。単行本の定価が1700円で、そのうちの10%が著者印税だ。だから、俺の口座には、すでに印税だけで1億3千万円くらい、振り込まれている。


『俺はどんなに頑張っても、部長クラスですよ。どうせ。逆立ちしたって勝てないわ。いいよな努力しないで稼げるなんてよ。もう、一生安泰じゃん』

 その言葉で俺は、心の中で何かが切れてしまった。父親の尊厳とか、そんなのなんて、もうどうでもいい。知った口で、俺のことを叩くな。俺のことを批判するな。俺のことをひがむな。


「父さんは若い時、ベンチャーで挫折したんだろ。どうせ、最初からその程度の器の小さい人間だったんだよ。だから、今、サラリーマンなんだよ。しょせん、凡人なんだよ」

 俺のその言葉で完全に口喧嘩に発展した。そして、口喧嘩の結果、近いうちに俺は自立して、家を出ていくことになった。





読んでいただきありがとうございます。

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