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AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


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31/35

【31】






 駅ビル五階のレストランフロアにある、いつものカフェレストランで話している。

 学校が終わり、そのままいつも通り、ふたりで駅まで歩き、店に入った。

 金曜日の16時前の店内は、閑散としていて、何組かの主婦や、老夫婦がいるだけで、俺らと同じような10代は見当たらなかった。


 ふたりは今、ボックス席に向かい合っている。

 窓側の席で、窓から白い午後の日差しが入っている。


 俺と、山本瑠奈はの白い光の中に入っていて、その光の終点は、右側の通路の塩ビ製のふたりにしては広すぎるテーブルの上にグラスに入っているアイスカフェオレが2つがそれぞれの前に置いてある。グラスには、微かな浮力を持った赤色のストローがささっている。


 山本瑠奈は、最近、カヒミ・カリィの『ハミングがきこえる』をリピしていて、カヒミ・カリィにハマったらしい。92年発売のアルバムのなかに入っている『mike alway's diary』という曲が特に気に入ったから聴いてほしいって言われた。俺は、ドレスコーズの『愛に気をつけてね』と毛皮のマリーズの『ビューティフル』を聴いていることを伝えた。


「渡したいものがあるんだ」

「それ、メッセージでも言ってた」

 山本瑠奈はすぐにそう返して、ふふっと笑った。山本瑠奈が笑っている間に、バッグから見本誌が入った紙袋を取り出した。そして、紙袋から、見本誌を取り出し、それを山本瑠奈の前に置いた。


「2冊目、おめでとう」

「ありがとう。ようやくデビュー作ができたよ。2冊目だけど」

「タイトル変わったんだね。『空なんて飛べない』のほうが好きだったな」

「仕事だから仕方ないよ」

「そうだよね。『宙に舞う青春パズル』って真逆だよね。話の内容と」

「一作目と作風も違う小説だから、一作目の尖ったイメージじゃないくて、柔らかいイメージにするのが狙いらしいよ」

 永瀬さんにこのタイトルにすると言われたときに、言われた理由をそのまま、山本瑠奈に話した。すると、山本瑠奈はふーん。と言った。そして、本を手に取り、裏側を見たあと、本を開いた。パラパラと数ページめくったあと、再び本をテーブルの上に置いた。 


 俺はふと、一年前、初めてこの店で山本瑠奈と話したことを思い出した。

 本来だったら、中学生から高校生になっただけに過ぎない変化だった。

 なのに、俺はなぜか今、小説家になっていた。


「帯も編集の人が書いてるんだよね?」

「そうだよ」

 本の帯には、こう書いてある。


『リアル10代著者が綴る感動的センチメンタルな愛』

『小説八雲新人賞 最年少受賞後 第一作!』


 この小説を書いたとき、センチメンタルさを求めて書いていなかった。つまり、感傷的に書くつもりなんて一切なかった。これが本来の俺の書き方だし、表現方法だっただけにすぎない。

 とにかく、作詞をするときのように、一文、一文が輝くように書いた。


 そのことを編集の永瀬さんは『今回は文体が違って、センチメンタルな雰囲気ありますよね』と表現した。おそらくその感想をそのまま、帯のキャッチコピーにしたのかもしれない。


 だから、AIが書いた1作目と、2作目とでは、だいぶ文体が違うから印象が違うんだと思う。AIが書いた『人生なんてろくでもない!』はセンテンスも短く、明確な表現が多かった。ただ、そのなかでも、自分の力で加筆した部分は例外だった。


 『人生なんてろくでもない!』で、AIが書いた文章を改稿し、自分で加筆したところは、『空なんて飛べない』と似たような、文体にした。


 ただ、その部分が悪目立ちしたのか、読書感想サイトのマイナスレビューでは『ただ、文章が急に長くなったシーンは不要に思えた』とか、『中盤の一部のシーンは本筋に対して、必要性を感じられなかった』とか、『時折、詩的な表現と、韻を踏んでいる箇所があったが、ただ単に読みにくくしていて、悪目立ちしていた』とか、『主人公に共感はできなかった。老婆心で言うと、こういう人と居ると人生が狂うから、この結果は当たり前だと思った』とか、そういうことばかり書かれていた。


 つまり、AIが書いた文章のほうが評価されていて、俺が自分で加筆した部分は受け入れられていないということだ。

 そういう感想を書かれて、一つ星ばかりつけられると、滅入る。本を出版するまでの自分の頑張りって一体何だったのかって、虚しくなる。

 いくら褒められても、その虚しさの穴は埋まらないことを知った。

 もしかすると、作家なんて、その虚しさの繰り返しなのかもしれない。


「それでもさ、去年の夏、私が言ったこと、本当になるなんて、やっぱり川崎くんはすごいよ。本当に」

「こうやって形にはできたよ。この小説でデビューしたかったけどね」

 そう返すと、山本瑠奈は優しく微笑んでくれた。その表情を見れただけで、俺はもう、この小説を本という形にした意味があったなと思った。もう、売上なんてどうでもいい。俺は山本瑠奈に喜んでもらえることだけで、もう十分だ。


「川崎くん、帰ったらゆっくり読むね。今度、感想言ってもいい?」

「読んでくれるだけでも嬉しいよ」

「わかった。絶対、感想言うから。こう見えても私、川崎くんが相当、苦労して書いたってこと、一番わかってるつもりだから」

「――ありがとう。だけど、自信ないんだ」

「えっ、どうして?」

「初稿の段階で、あまり好意的な反応じゃなかったんだ。それで、ストーリーラインを編集部好みに寄せたんだ。つまり、オーダーを受けたから、そのオーダーに寄せるってことしたんだ。もう、一冊目は、50万部も刷ってもらったから、期待に答えなくちゃって、自分なりに苦しんで頑張ったつもりだよ。俺はもしかすると、作品を褒めてほしいんじゃなくて、頑張ったことをただ褒めてほしいのかもしれないな」

 すっと息を吐き、俺はグラスを手に取り、ストローを咥えた。そして、アイスカフェオレを一口飲んだ。


「気に病まないでって言うのも、慰めにならないかもね。それだけ進んでるんだよ。川崎くんは」

「それでも、その頑張りや、疲弊したことなんて、誰にも知られないで、また無条件に叩かれるのかなって思うと、とても自信なんて持てないよ。どう受け入れられるかなんて、わからないから」

「――持つ必要ないよ。だって、自分のために文章を書いてるんでしょ?」

「――覚えてくれてたんだ」

「当たり前でしょ。だって私、川崎くんの推しだよ?」

 もう一度、山本瑠奈は微笑んだ。




 

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