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AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


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26/35

【26】




 駅ビルのカフェレストランは、少しだけ、いつもより混んでいた。

 まだ13時過ぎで、ランチの名残が店内に残っているのかもしれない。


 それでも、席には余裕があり、また好きな席をどうぞと言われたから、いつもの窓側のボックス席に座った。

 店内のBGMは、なぜか今日はビートルズの『A Day In The Life』が流れている。


 抹茶パフェを待っている間、春だからクリープハイプの『栞』を聴いていたという、山本瑠奈の話から、また音楽の話が始まった。最近は、おいしくるメロンパンの『look at the sea』を聴いていたって話をすると、吉澤嘉代子の『月曜日戦争』を聴いていたと、会話が膨らんだところで、店員が抹茶パフェ、2つを運んできた。


 パフェを食べている間も、そんな何気ない、会話が続いていった。

 そして、あっという間にパフェを食べ終えた。少ししてから、店員がそれに気がつき、空になったグラスを店員が片付けた。

 そのあとホットのカフェラテを持ってきた。ここまで、授賞式の話とか、ゲラの話とか、一切しなかった。そして、山本瑠奈は自分の小説の話もしなかった。


 変に気を使わせているように思えた。

 ここ最近の山本瑠奈とのLINEのやり取りを考えると、確かに気を使わせるようなメッセージになっていたかもと思った。

 だから、俺が自分から触れない限り、小説の話題にならないかなと思っていたら、山本瑠奈はバッグから『小説八雲』を取り出した。


「大嫌いな作品だけど、結局、買っちゃうのどうしてだろうね」

 ニヤニヤしながら、山本瑠奈はそう言ったけど、これが嫌味ではないことは、俺はわかっている。言い方に嫌味がなく、ちょっかいをかけるような言い方だったからだ。


「ここ最近、授賞式から、刺激が強すぎてさ。自分が一番追いついてないと思う」

「ねえ、受賞の言葉、掲載されてたでしょ。あれ読んで、私、泣いちゃった」

「すべてを知ってるから?」

「そう、すべての秘密を知ってるからだよ。私、この受賞の言葉読んで、嬉しかった」

「全部、山本さんのおかげだよ。ありがとう」

 そう返すと、山本瑠奈はふふっと小さく笑った。だから、俺も照れくさくなって、同じように笑い返した。雑誌に掲載されている受賞の言葉は、スピーチの原稿をスマートにしたものだ。


「瀬戸セノトって人、なんか、当てつけみたいな受賞の言葉だよね。いつも二番手だとかなんとかって。AIに負けるのに、偉そうで感じ悪いよね」

「その人に授賞式で、『お前がいなければ、俺が最年少で、しかも最優秀賞だったはずだ』って耳打ちされたよ」

「本気で言ってる? やばいね。その人。可哀想な川崎くん」

 先にため息を吐いたのは、山本瑠奈だった。ダメだ。やっぱり、小説家デビューの話になると、なぜか愚痴ばっかりになってしまいそうだ。せっかく触れてくれているんだから、なんか、楽しい話がしたいなと思ったけど、考えても、すぐに話題は見つかりそうになかった。


「そんなのはどうでもいいんだ。それより、3月中に会えなかくて、悪かった」

「いいよ。ゲラやってたんでしょ? お仕事してたなら、川崎くんの邪魔できないよ。私はさ、まだわからないけど、ちょっと話聞いただけでも大変そうだよ。だって、ずっと神経使ってるんでしょ?」

「それもあるけど、最近、うなされてるんだ。夢のなかで」

「眠れないの?」

「いや、寝ることはできてるんだけど、ほぼ毎日、うなされてる」

「それだけ大変な作業してるんだよ。きっと。なにか私にできることある?」

「いつも通り、話してくれるだけで嬉しいよ」

 俺はそう言って、微笑んでみせた。カップを手に取り、カフェラテを一口飲んだ。今日、久々に話した久保田翔ですら、どこかよそよそしくて、腫れ物に触るみたいな感じだったのが、ショックだった。


「目立ちすぎたんだよ」

 俺はカップを置きながら、話を続けた。そう、俺は最年少ってだけで目立ちすぎたんだ。

「そうだね。暇な大人に燃やされてさ。やっかまれてるよね。川崎くんって」

「SNSだけでしか、大口を叩くことができない人間に、たまたま目つけられただけだよ。顔つきで」

 そうだ。俺は結果発表のニュースが出て数日で、SNSのトレンドワードの人になってしまった。


『15歳の小説』

『史上最年少』

『中3小説家』

『究極の中2病』

『文化破壊』

『中3が人生語るな』

『小説八雲』

『文学終了』

『人生なんてろくでもない!』

『人生なめるな』

『ガキが人生語るな』


 他のワードもたくさんあった。それだけ俺が小説の賞を取った話題が独り歩きした。しかも、記事に掲載された俺の顔写真と一緒にポストされ、その記事を引用したポストで、トレンドワードになった悪口をたくさん書かれた。


『【悲報】文学終了 中3が小説家デビュー 人生語りはじめるwwwwwwwwwww』

『中3が小説家になる日本、終わってる』

『大御所が絶賛って、ただ話題が欲しかっただけでしょ 本なんて売れないから』

『オワコンがガキを使って汚い商売し始めた 怒りを覚える』

『お前ら、秒でガキを叩いてるの草』

『文学と人生、冒涜してて 胸くそだな なんで優秀賞の人が最優秀じゃないんだよ』


 新人賞のニュースが流れたあとから、俺は日本中の暇人に叩かれまくった。

 ひとつのポストの表示が347万回表示され、3万5千人がいいねを押していた。

 他のポストも100万回以上表示されているものが多数あって、この日の俺は、そのSNSのなかで犯罪者扱いだった。


 このことを出版社が知っているのかはわからない。

 というのも、永瀬さんからこのことについて、なにも連絡をもらっていないからだ。


「俺は犯罪者なのかもしれないって思った。いや、実際にAIで全編書いてるってこと、公表してないから、天からの懲罰かもしれないな」

「川崎くん、あの日、気がつくの遅くてごめんね。私、あの日、川崎くんの傍にいてあげるべきだったって、後悔してたんだ」

「いいよ。俺から、断ったんだから。それに声かけてくれたじゃん。それだけで嬉しかったよ」

 そう、あの日、炎上が本格化した3月29日、山本瑠奈から着信があった。





読んでいただきありがとうございます。

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