2025年4月 ――入学式からいきなりスターになった人間の話【25】
3月、モチベが上がらず、全然進まなかった書籍のゲラを無理矢理、片付け、その次の週、入学式を迎えた。
掲示板に張り出されていたクラス名簿から自分の名前を探し出し、新しいクラスに入ると、いきなりクラスメイトの視線を感じた。教室前方の窓側で付属中学で一緒だった顔なじみの一軍の4人が俺のことを指さしていた。俺は「おはよ」とその4人に言って、右手を上げた。
とりあえず、違和感は無視しようと黒板に張り出されている席の名簿を見ようとした。
「川崎先生、おはようございます。サインくださーい」
「は?」
野球部の一軍くんにそう返すと、ゲラゲラとその取り巻きが笑い始めた。そのあと、見たことない、おそらく他校からの受験で入った、一軍っぽい男子に後ろから声をかけられ、肩を叩かれた。
「これ、お前なの?」
明らかに茶化しにくるようなトーンで聞かれてげんなりした。肩をいきなり叩かれたから左側を見たけど、そもそも、お前誰だよって感じだし、普通に調子乗ってそうなタイプの人間そうだしで、お前の面みてるだけで、嫌気がさすわって感じだしで、もう、それだけで嫌になった。
「なんだよ。印税でもカツアゲする気か? クラスでの第一印象、カツアゲって、お前エグいな」と返すと、クラスがどっと笑いに包まれたから、これでバカにされるのは回避できたかなって、思いつつも、内心イライラした。
*
入学式が終わり、ホームルームも終わり、ようやく帰ることができると思ったら、放送で俺の名前が呼び出された。担任の声ではなかった。というか、担任はまだ、ホームルームが終わった直後で、教室にいるから、驚いた表情をしていた。それで、担任も一緒にいくわと言われて、半ば、38歳のおじさんに職員室に連行されるっていう、初日から嬉しくない展開になった。
俺のことを呼び出したの学年主任を名乗る50代くらいのおばさん先生で、俺のなかでの第一印象はヒステリックそうだった。職員室の奥にある小さな会議室につれていかれて、小説家デビューしたのは本当かとか、どうして学校に報告しなかったとか、附属中学のときになぜ言わなかったとか、収入は得るのかとか、いろんなことをとやかく言われた。
会話の全部の枕詞に『すごいことだけど』とか言われて、本当にすごいことだと思ってるのか? って聞き返したくなるくらい、イラついた。結局、俺のことを詰問した理由は、学校で対策や特例を検討するためだと言われた。『あなたは当校の生徒であるから、報告義務があります』とか言われたけど、入学初日に義務とか言われても、ロジックがなく、説得力、必要性に欠ける説明だった。
それで、とりあえずこの紙を書いてと言われて、用紙を渡された。用紙には《アルバイト許可申請書》だった。
*
会議室を出たあと、担任に小声で「悪かったね。それにしても、すごいね。今度サイン頂戴」って言われて、いや、もういいよって感じだったけど、担任なりにフォローしてくれたのかなと感じたから、許すことにした。
職員室を出ると、右側の壁の掲示ボードの前に立っている見慣れた女子が手を振っていた。山本瑠奈だった。
「おつかれ。やっぱり呼び出されたんだ」
「見ればわかるだろ」
そう言って、右手に持っていた《アルバイト許可申請書》を振りながら、わざとらしく山本瑠奈に見せた。山本瑠奈は数秒、用紙を凝視したあと、ゲラゲラと笑い始めた。
「小説家ってアルバイトなの?」
「とりあえず書いてって言われたから、アルバイトなんじゃない? 知らんけど」
「ふふ、めっちゃ怒ってるじゃん。めずらしく」
「制服似合うね。スカート青だからかな。やっぱり、青が似合うよ」
「ありがとう。ねえ、明日、土曜日だし、パフェ食べに行こう」
「いいよ。3月は急に断って悪かった」
「許してあげる。今日がその埋め合わせだよ」
山本瑠奈は、微笑みながらそう言った。
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