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AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


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22/35

【22】




 授賞式は、俺の目から見ると、仰々しいように見えた。

 まずホテルの会場に入ると、円卓テーブルが広がっていて、すでにスーツ姿の大人たちがたくさん立っていて、いろんな人が談笑している声が響いていた。


 一段だけ底上げされたステージ上には、


 『2025年度 第六十五回八雲新人賞 第四十七回 小説八雲新人賞 贈賞式』


 と書かれた大きな看板があった。舞台の後ろには、金屏風が設置されていて、その金色がライトに反射し、不気味に輝いていた。


 新人はとりあえず、後ろのほうの卓に座らされた。

 『よろしくお願いします』と言って、円卓に座ると、他の受賞者は、ボソボソと『お願いします』と言ってから、無言になった。


 純文学の2人は、一人は40代くらいの男性で、もうひとりが30代くらいの女性だった。

 そして、俺の隣に座っている瀬戸セノトは、声も出さず、ただ俺に軽く会釈をするだけだった。


 さすがに大人たちから見ても、この3人の社交性が低すぎると感じたのか、すかさず、永瀬さんや、瀬戸セノトの担当編集の人、純文学の2人の担当編集の人が間を取り持ってくれて、なんとか、俺は自分の名前を伝えることができた。


 こんな感じだから、円卓はあまり会話が弾んでいなかった。

 明らかにその様子に、編集者の人たちは、永瀬さん含めて、場を取り持つのが大変そうで、焦っているようにも見えた。なんだよ、永瀬さん。俺にテンパるなって言っときながら、永瀬さんのほうがテンパってるじゃんとかいう所感だった。


 授賞式が始まり、司会に呼ばれ、この3人と一緒に俺は登壇した。

 俺は一番最後に壇上に上がったから、舞台の右端に立つことになった。立ったあと、司会者の呼びかけで拍手に包まれたから、俺はとりあえず頭を下げた。数秒してから、顔を上げ、ちらっと左側を見ると、3人は正面を向いたまま、立っているだけで、それが気味悪かった。


 そのあと、何度も強いフラッシュを浴び、会場の薄暗闇に不自然に青い残像がしばらくの間、浮遊していた。司会者がスピーチを促し、一人ずつ、スピーチが始まった。舞台の左側に置いてあるマイクスタンドに向かって、純文学の男性の人がまず話した。スピーチの内容は『多様性の不条理さ』について持論を交えながら、話していた。次に純文学の女性の人は『ルッキズムが行き過ぎた監視社会』というテーマを思いついたときの話を交えた創作秘話のような話をしていた。

 今度は、エンタメ賞の俺らに主役が変わる。まず、先に瀬戸セノトが呼ばれた。


『えー、この賞の最年少記録を本来は狙っていたのですが、今回はまさかの6歳年下の15歳の少年が受賞したとのことで、ひとつの淡い夢が消えてしまったわけであります』

 瀬戸セノトのこの第一声で、会場がどっと笑いに包まれた。おじさんたちの低い笑い声が、会場中に響き渡る。それと合わせて、俺にも一気に視線が集まった。


 ふと、瀬戸セノトを見ると、瀬戸セノトも俺のことを見ていた。

 さっきの円卓での無愛想とはうって変わり、饒舌に話しだしたと思ったら、俺のことをネタにして、笑いを取られて、俺はあまりいい気がしなかった。


『よく考えてみると、私の人生はいつも二番手ということが多く――』

 そう瀬戸セノトは、俺を皮肉に使いつつ、自分の人生が如何に二番手だったかを語り、日本を背負い、一番になれる作家になるとか言って、話を締めた。瀬戸セノトのスピーチが終わり、会場が拍手に包まれているなか、次に俺の名前が司会者から呼ばれたから、マイクスタンドの方へ向かった。

 マイクスタンドの近くにたどり着くと、瀬戸セノトとすれ違った。その一瞬、こう耳元で囁かれた。


『お前なんか、どうせ一冊しか出せないよ。今のうちに最年少でちやほやされてろ。お前がいなければ、俺が最年少で、しかも最優秀賞だったはずだ。俺の方が話題を作る作家としてふさわしかったんだ』

 ちらっと瀬戸セノトを見ると、瀬戸セノトは、ふっと鼻で笑いながら、元の立ち位置に歩いていった。俺は、胸ポケットに入れていた原稿を取り出し、スピーチを始めた。


『この度、このような素晴らしい賞をいただき、大変光栄です。まだ、私は中学生であり、右も左もわかりません。正直に申しますと、最初、賞をいただけるとお話を聞いたとき、嬉しい気持ちよりも、戸惑いの気持ちが大きかったです。


 自分は本当にこの賞を受賞するのにふさわしい人間なのか。いや、ふさわしくないのではないかと思いに至り、悩む日々が続きました。ある日、最も信頼でき、この賞に応募する直接的なきかけになったに友人にカフェで聞きました。すると友人はこう答えました。


「人って前提条件で生きている生き物だと思うんだ」と。

「前提条件って、これが普通だろうとか、そういうこと?」と私が聞くと、友人は、

「たぶん、世界で初めてのことをやったんだよ。川崎くんは。ライト兄弟が飛行機を飛ばした日のように」と人類が初めて空を飛んだ日のことに例えて、私が小説を書いたことを称賛してくれていたのです。ですが、私はそれを受け入れることができず、

「自分の手でなにかを成し遂げたっていう手応えがないんだ」と答えてしまい友人を傷つけてしまいました。


 その後、1ヶ月くらい話しませんでしたが、和解することができました。

 和解できたとき、「川崎くんが賞取ったことはすごく嬉しい」と言ってくれました。私はこの言葉で、今回、素晴らしい賞をいただいたことの実感と、友人を喜ばすことができたという実感から、嬉しさを受け入れることができました。

 なので、そんな友人に向けて、一言お伝えして、このスピーチを締めたいと思います。


 それでも俺は『人生なんてろくでもない!』と叫びたいんだ!

 この度は、大変感謝申し上げます。ご清聴いただきありがとうございました。』

 小説のタイトルをもじった表現で締めたためか、思った以上に会場は笑った。そして、拍手を聞きながら、一礼をして、マイクスタンドを離れた。

 このスピーチは影からのメッセージで贖罪を償うためのスピーチだ。もし、次の本を書くことになったら、俺は、AIではなく自分の力で、小説を作るんだ――。俺は。





読んでいただきありがとうございます。

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