【21】
*
ホテル近くの地下鉄駅にたどり着いた。永瀬さんに指定された改札口の前のベンチに座って待っていると、永瀬さんらしき人がこちらに近づいてきた。
「川崎さんですよね?」
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
俺は立ち上がり、永瀬さんに会釈した。
「もう、打ち合わせとかしてるから、初めましてではないけど、改めて、よろしくお願いしますね。川崎先生」
永瀬さんはzoomでの打ち合わせのときのように、明るく笑いながら、そう言った。永瀬さんは、大人っぽい黒いコートを着ていた。
打ち合わせのときに28歳で入社5年目になるって言っていた。
肩にかかるくらいの髪の長さで、髪色は画面越しで見たときの印象よりも明るめのブラウンだった。画面越しと違うのは、いつもはレンズが大きめの細い黒縁メガネをかけているのに、今日はコンタクトをつけているのか、メガネはかけていなかった。
それでも、接しやすいお姉さんという印象は変わらず、多少、緊張していた俺は少しだけ緊張が和らいだような気がした。
俺は歩き始めた永瀬さんの横につき、歩き始めた。
「先生って言われると仰々しいですよ」
「今のうちに慣れといたほうがいいですよ。今日は会場でたくさんの人に、言われるかもしれないから覚悟しておいてください。というのは、まあ半分冗談で、川崎さんは、この新人賞の最年少記録更新者ですし、最優秀賞受賞者ですから、会場のなかで注目度が高いのは確かです」
「そんな、せっかく緊張和らいだと思ったときに、追い打ちかけるようなこと言わないでください」
笑いながら返すと、永瀬さんも笑ってくれた。
「大丈夫ですよ。私、もう一人の受賞者の話ってしましたっけ?」
「優秀賞の人が、いるとだけで、詳しくは聞いてないです」
「あら、やっぱり私、話してなかったですね。優秀賞の瀬戸セノト(せとせのと)さんとも一緒になります。瀬戸さんは21歳みたいで、今回の『小パチ賞』はお二方とも、とても若くて、社内でも結構、話題になっています」
「そうなんですね。あまり関係ないですけど、『小パチ賞』って呼んでるんですね。賞のこと」
「うちは純文学雑誌もあってややこしいから、こういう呼び方してるみたいなんです。『小説八雲』の小説の『小』に八雲の『ハチ』の略です。純文学の方の雑誌は『八雲』なので、向こうの新人賞は、『純パチ賞』って呼ばれてます」
「そうなんですね」
正直、小山書店の社内のことなんて興味はなかった。ただ、俺はほとんどをAIで書いた小説でこんな、歴史ある賞の受賞者として、登壇することが、また怖くなってきた。
「これも、前に話したかもですが、うちの新人賞の授賞式は純文学の新人賞と合同で行っています。今回、純文学の受賞者も2名なので、合わせて4名の新人の方がいることになります」
「そうですか」
「私、川崎さんに直接、お会いしたら言おうと思ってたのですが、川崎さんの小説って、本当にミスが少ないですよね」
「えっ」
「あ、いや、これは褒めているんです。とても15歳とは思えないくらい、完成度が高く、磨かれていることに、私もそうですが、編集部内でも驚いているんです。これは前にも言ったかもですが、ストーリー構成も上手で緻密ですし、本当に感心しています」
「そうですか」
思わず、ぎゅっと両手を握りしめてしまった。もしかして、AIが書いたって、勘づかれているのだろうか――。
「ここからはちょっと真面目な話しますね。ご存知かと思いますが、うちの会社、戦前からある会社なので、レガシーに忠実である分、若い人には、堅苦しく感じることもあると思うんです。作家さんからすると、それがプレッシャーに感じることもあるみたいで、大人でもたじろいじゃうんです」
「じゃあ、子供がそんなところ行ったら、ヤバそうですよね」
「いえ、私はそうは思いません。川崎さんはまだ中学生ですから、それを盾に使ったほうが上手くいくと思います」
「盾ですか?」
「そうです。若さは盾になります。おじ様たちからも、若いから大目に見てもらえると思うので、なんとかなると思います!」
「今のうちから、深呼吸しておきます」
そう返すと、また永瀬さんは比較的大きな声で笑った。
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