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AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


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19/35

【19】



 午前10時半のカフェレストランは閑散としていた。

 店に入って、いつものように好きな席に座ってもいいと言われ、いつもと同じ席に座った。と言っても、1ヶ月ぶりに過ぎなかったから、懐かしいともなんとも思うわけでもなかった。


 去年の7月に俺と山本瑠奈は、チョコレートパフェを食べた。

 だけど、今日はストロベリーパフェを食べた。


 パフェを食べている間に、ここ最近、羊文学の『more than words』をリピしまくってる話から、また音楽の話になった。俺はこの1ヶ月の小説を書く作業中のときに、TOMOOを聴いていて『Greapfruit Moon』が気に入ってるって話をしたら、最近、TikTokで流行っているSerani Pojiの『さよならいちごちゃん』もそう言えばリピしてるって話を聞いた。

 

 こういう、何気ない会話ができることが嬉しかった。

 山本瑠奈と1ヶ月話さなくても、別に孤独ではない。

 クラスには久保田翔がいるし、軽音の部室に行けば、誰かしら、仲間がいる。


 ただ、山本瑠奈と話さなかったこの1ヶ月はものすごく虚しかった。休み時間とか、ふとしたときに、山本瑠奈のことをちらっと見たりした。クラスでの山本瑠奈もいつも通りの笑みを浮かべて、楽しそうに過ごしている姿を見て、余計、虚しさが胸の中に広がった。


 どうして、俺のことを無視するんだろう。このまま、12月のあの日、カフェレストランでAIが書いた小説で最終選考に進んだと告げた日で、あっけなく、山本瑠奈との関係が終わってしまうではないかと思い、そんな今の状況がたまらなく嫌になっていた。

 ストロベリーパフェを食べ終わり、空になったグラスを店員が片付け、そのあとホットのカフェラテを持ってきた。


「おめでとう」

 山本瑠奈はそう言って、カップを手に取り、こちらに差し出して来たから、俺もカップを持ち、山本瑠奈が持っているカップに軽く当てた。


「ありがとう」

 そう返し、カフェラテを一口飲み、そっとカップをソーサーの上に戻した。


「空なんて飛べない」

「え?」

「私はそっちの小説の方が好きだった。川崎くんのパッションが文章から感じ取れた。どう考えても、川崎くんにしか思いつかなそうな、言葉の組み合わせばかりで、読んでるだけで踊ってるような気持ちになれた」

「――ありがとう」

 俺から先にこの話題に触れようと思ってたのに、山本瑠奈に先に触れられてしまい、自分のことがダサいなって思った。謝らなくちゃいけないのに、なんでお礼なんかを先に口に出してしまったんだろう。


「山本さん」

「あ、川崎くんダメだよ」

「え、なにが?」

「謝らないで。私は私なりに、時間が必要だと思って1ヶ月間、川崎くんに話しかけないって決めてたから。私だって、話したい気持ちを抑えられないくらい、寂しかったんだから。川崎くんが一方的に悪いわけじゃないんだよ。私が意図的にそうしていたほうが要因が大きいから」

「そうだったんだ――」

 どうして? とは聞けなかった。先月は自分のことしか考えられずに、一方的に自分の気持ちをわかってもらうおうと、無意識に理解を強要していたのかもしれないと、この1ヶ月で気がついたからだ。


 例えるとこういう心情だった。

 夜のプールの水面は、近くのLEDの街灯の白を反射して揺れている。


 その光の揺れ、波未満の水面のゆらぎの凹が平行世界への入口になっているのを知っているけど、飛び込む勇気が出ずにプールサイドで膝を抱えて、それをただ眺めているような歯がゆさだった。


 平行世界の先にお互いに、小説ダメだったんだ。悔しい、賞に落ちちゃったね。また、頑張っていこうか。15歳のふたりの未来なんて、無限にあるんだからって、笑いながら、ふたりで言い合っているほうのパラレルもあるのかななんて、虚しさのなかで考えていた。


「そうだよ。1ヶ月間、話さなかったのはね、私の心の整理がつかなかったからなんだよ。川崎くんがAIを使ったうんぬんとか、そういうことじゃなくて、ただ、AIに負けたような気がして悔しかったの。別に私は別の賞に応募したし、AI川崎くんの小説と勝負したわけではないけどね」

 そう言ったあと、山本瑠奈は、目を細めて、微笑んだ。

 そして、再びカップを手に取り、カフェラテを一口飲んだ。





読んでいただきありがとうございます。

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