表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI、100%小説で空なんて飛べない  作者: 蜃気羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/35

2024年12月 ――中3の秋、最終選考に残った話【16】



 いつものカフェレストランで、いつもと同じ席に座り、山本瑠奈と向かい合っている。

 テーブルにはホットのカフェラテが二つ置いていある。大きめのカップがソーサーに乗っている。店内の音楽はいつもは、洋楽のPOPSが流れているのに、今日はクリスマスソングが流れている。ポール・マッカートニーの『Wonderful Christmastime』が終わり、ボビー・ヘルムズの『Jingle Bell Rock』が流れ始めた。


 たまたま今日は終業式だったから、ちょうどお昼時にこの店に入り、パスタを食べた。食べる前から、今日もお互いに話しが弾んでいた。

 9月に席替えがあり、教室ではもう、山本瑠奈とは隣同士ではない。

 席が隣同士だったことは、すでに過去の出来事になっていた。

 それでも、タイミングがあえば、山本瑠奈と一緒に学校から帰ったり、たまにカフェレストランで話したり、お互いに書いた小説を読み合ったりした。


 今日も、カフェレストランで同じような過ごし方をしている。

 相対性理論の『気になるあの娘』を最近、無限ループしているとか、やくしまるえつこの『少年よ我に返れ』もいいよねとか、そういう話をしていた。あと、11月に文化祭での演奏で、俺と久保田のバンドがコピーしたWurtsの『分かってないよ』が、何回も言うけど、かっこよかったって言ってくれたり、オリジナル曲の『炭酸電池』の歌詞も、めっちゃほめてくれて嬉しかった。


 そんな穏やかな時間だった。俺は気が重いけど、山本瑠奈には隠したくないと思ったから、勇気を出してこのことを言うことにした。


「実は言ってないことがあって」

「え、なに? 怖いんだけど」

「怖い話じゃないよ。ただ、黙ってたんだ。俺が弱くて」

「弱い?」

「そう、俺は弱い人間なんだ」

「あれだけステージでギター演奏して、歌ってるのに?」

「そう、度胸はあっても、弱い人間なんだよ」

 俺はため息を吐いたあと、カップを手に取り、カフェラテを一口飲んだ。

 そして、覚悟を決めた。


 嫌われたら、これで最後かもしれない。

 だけど、雑誌に自分のペンネームが載って、世の中にこの事実が公示されたあとに伝えるほうが、かっこ悪いし、不誠実だ。少なくとも、山本瑠奈の前では、誠実でいたい。

 

「7月末に小説応募したじゃん」

「そうだね」

「読んでもらった方じゃない、もう一つの作品も実は応募したんだ」

「えー、早く言ってよ。すごい読みたい」

「そうじゃないんだ。その作品が今、最終選考まで行ったんだ」

「えっ!? すごいじゃん!」

 一気に山本瑠奈の表情が明るくなった。俺は思わず、何度か瞬きをしてしまった。瞬きをしてしまう理由くらいわかりきっている。それは、喜んでくれている山本瑠奈のことを傷つけるかもしれないからだ。


「すごくないんだ。全部、生成AIで書いた作品だから」

「え……」

 俺が予想していた通り、山本瑠奈の表情は一気に曇った。俺はため息を吐き、思わず山本瑠奈から視線をそらした。左側の窓を見ると、窓の外では灰色の空から、雪がちらつきはじめていた。


「7月にお互いに作品読みあったじゃん。あの日の夜と、次の日の1日半くらいの時間で、AIに10万字の小説を書かせた。俺が書いた8万字の小説と今まで書いた短編小説、それと作詞した詩をAIに読み込んだんだ。そして、1万字くらいでプロットを書いて、俺の作風で小説をAIに書かせたんだ」

「その小説が最終選考まで行ったってこと?」

「そうだよ。昨日、編集の人から連絡あった。最低だよな、俺」

「え、待って。それってAIが書いたけど、プロットは自分で書いているってこと?」

「そうだよ。あとはAIがすべて書いた」

「へえ」

 山本瑠奈は、抑揚を抑えた声でそう返した。そして、なにかを訴えかけるように目を細めたあと、カップを手に取り、カフェラテを一口飲んだ。


「どうせ、最終選考で落ちるだろうけどさ」

「卑下しないでよ」

「卑下じゃない。だって俺は書いてないから。それに編集の人から連絡来たときに言えなかったよ。言える空気じゃなかったし。改稿しても、どうせ落ちるだろうから、落ちればこれで終わりだから」

「それでも、川崎くんの作品でしょ。最後まで責任持ってよ。こんなことなんてたぶん、人生で滅多にないことだと思うし」

 そう言われて、俺はなにも言えなくなった。


「川崎くん、人って前提条件で生きている生き物だと思うんだ」

「前提条件って、これが普通だろうとか、そういうこと?」

「そう、小説は今まで人間が書いていて、当たり前だから、AIで小説を書いたなんて思わないよ。たぶん、世界で初めてのことをやったんだよ。川崎くんは。ライト兄弟が飛行機を飛ばした日のように」

「初めてではないと思う」

「いや、今まで短編がAIで書かれているのとかは、ニュースで見たことあるから、私くらいの凡人でもわかるよ。だけど、長編小説書いた人なんて、今までいた? まだ、いないでしょ。それにエンタメ小説のなかでは、ランク上のほうの新人賞の最終選考に残った人なんて、一人もいないよ」

「――ありがとう」

 それが適切な返しではないことくらい、自分でもわかっている。山本瑠奈が言いたいこともわかる。わかるけど、俺の気持ちは晴れないままだ。自分自身が一番わかっているつもりだ。気持ちが晴れない理由は、完全に自分の力だけで書き上げたものではないからだ。


「自分の手でなにかを成し遂げたっていう手応えがないんだ」

「あのね、川崎くん。甘ったるいこと言わないでくれない? これ以上、弱音言ったら、私が惨めになるからやめてほしい」

「これのどこが甘ったるいんだ?」

「小説書いている人たち全員、みんな一生懸命やってるんだよ。それでも届かない場所に今、川崎くんはいるのに、それを喜んでないからだよ」

 山本瑠奈は俺のことをまっすぐ見つめていた。目の奥に怒りを感じる。まったく面白くもなんともない。山本瑠奈の怒りになんて、触れたくなんかなかったんだ。俺は。


 だから言いたくなかった。

 だけど、言わないわけにいかないと思ったんだ。

 山本瑠奈だけには、わかってほしいって思ったから。


 そういう面で言えば、俺は考えが甘かったんだ。もしかすると、山本瑠奈なら、このモヤモヤした感情を受け入れてもらえると思い込んでいた俺が甘かったんだ。


「何回も選考に落ちて、どこが悪かったとか、なにが原因で自分の小説が選考に落ちたのか正確な理由を知ることもないまま、また前向きになって、小説を書き続けてるんだよ。私も四度目の応募で、今回は二次選考も越えて、新人賞取れると思い込んでたし」

「まさか、こんなことになるなんて思ってなかったんだ。実験的な気持ちだったんだ」

「実験?」

「そう、思いつきでやっただけに過ぎないんだ。2作品送ったうち、自分で書いた8万字の小説の方が本命だった。AIのほうは、おまけに過ぎないんだ。AIのほうは、仮に一次選考突破できたら、小説として成立しているってことが証明できればいいと思ってくらいだったんだ。それが一生懸命書いた本命の8万字は一次選考も通らないで、AIは最終選考まで進んでしまった。笑えるよな」

「――全然、笑えないんだけど」

 山本瑠奈はすっと、息を吐き、またカフェラテを一口飲んだ。ソーサーの上にカップを置いたとき、がちゃんと乱雑な音がした。俺はそれを黙ったまま見ていた。その間に、鉄琴のイントロが流れ始め、そのイントロの数音だけで、マライア・キャリーの『All I Want For Christmas Is You』だとわかった。


「川崎くんは、一回目の応募で最終選考までいけたんだよ。だったら、書いたのがAIでも胸張ってよ。それだけすごいことしてるんだから。あとで私にも読ませてよ。作品送ってほしい」

「嫌だって言ったらどうする?」

「川崎くんの推しなんかやめてやる。AIに負けるのなんて悔しいから自分の小説書きまくる」

「――だよな」

 すっと息を吐き、再び窓の外を見ると、大粒の綿雪が降り始めていた。これ以上、強く雪が振り続けたら、電車は止まってしまうかもしれない。いや、電車なんて止まってしまえばいい。多くの人が困ってしまえばいいんだ。その群衆のなかに山本瑠奈も、俺も巻き込まれてしまえばいいんだ。暗い気持ちのまま、山本瑠奈を再び見ると、なぜか山本瑠奈は声を出して笑い始めた。


「なんだよ。また甘ったいなって思っただろ」

「ってのは、冗談だよ。絶対、送ってね」

「わかった、作品は送るよ」

「絶対、読むからね。だって私、川崎くんの推しだから」

「――悪かった」

「いいよ。川崎くんのこと、このやりとりでより知れた気がするから」

 そう言って山本瑠奈は微笑んだ。俺は本当に弱くて惨めなやつだなって、自分自身に幻滅した。


 こんな俺でも、山本瑠奈は俺に呆れないんだ。どうせなら、呆れてくれたほうがよかったかもしれない。

 きっと、俺はAIを使ったことで、開いてはいけない扉を開いてしまったのかもしれない。


 その扉の先は天国か地獄かなんて、今のところわかりやしない。

 ただ、扉が開いてしまった以上は、歩き続けるしかないのかもしれない。






読んでいただきありがとうございます。

感想、ブックマーク、☆を★にして応援いただけると、とても嬉しいです。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ