2024年7月 ――中3の夏休み、応募する前の話【13】
読んでいただきありがとうございます。
感想、ブックマーク、☆を★にして応援いただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いします!
上りエスカレーターを降り、右側に進むと、カフェレストランが見えた。初めて山本瑠奈と長話をした駅ビルのカフェレストランだ。カフェレストランの食品サンプルが並ぶ、ガラスのディスプレイの前に山本瑠奈が立っていた。
右手をあげ、軽く手を振ると、山本瑠奈は笑みを浮かべて、手を振り返してくれた。
山本瑠奈は、青色の半袖ワンピースに白いTシャツを着ていた。
その姿が涼しさがあるように見え、山本瑠奈が存在しているだけで、-1℃、周囲の気温を下げる効果があるようにも見えた。
「似合ってるね。おまたせ」
「ありがとう。待ってないよ。私も着いたばかりだから」
山本瑠奈の頬が若干、赤くなったように見えた。俺はそのまま、店に入り、店員に二人であることを伝えると、好きな席に座っていいと言われたから、6月に山本瑠奈と話をした同じ席に座った。
「私、最高傑作できたかも」
「めっちゃ楽しみなんだけど。その前にチョコレートパフェ食べない? あと、カフェオレも」
「いいよ。私もそのつもりだったから。ねえ、川崎くん」
「なに?」
「私も、早く読みたいな。川崎くんの小説」
「パフェ食べてからね」
そう言いながら、メニューを開いた。前に来たときから、気になっていたチョコレートパフェを指差すと、山本瑠奈は頷いた。だから、俺は呼び鈴を押し、店員を呼んだ。
*
パフェを食べ終えた。食べている間は、本当に平和な時間だった。
書いているときになに聴いてたって話になって、俺はリーガルリリー聴いてたって言うと、山本瑠奈はラブリーサマーちゃんの『あなたは煙草 私はシャボン』が収録されているアルバムをずっとリピしてたって言ってた。そこから、ラブリーサマーちゃんの話とか、フロントメモリーのカバーの話とか、川本真琴の話とか、90年代のJPOPの話とかして、盛り上がった。
「私ね、小説書きながら、大人になりたくないなって思いながら書いてたんだ」
「ピーターパンシンドロームチックなこと書いていたの?」
「違うよ。今は学生って身分だから、自由に時間使えるわけじゃん。青春っていう大義名分があるわけだから。だけど、大人になったら、仕事して、お金稼いで、生活しなくちゃならないわけでしょ。仕事ってどんなことなのかなんて、まだわからないけど、仕事しながら小説書けるのかなって思ったんだ」
「あっという間に書いてるイメージだったけど、実は大変だったってこと?」
そう聞くと、山本瑠奈は照れくさそうに、小さく頷いた。その頷きでボブの毛先が揺れ、6月のあの日みたいだなって、その日のことを思い出した。
「もちろん、書いてて楽しかったけど、こんなに疲れることだったかなって思ったんだよね。今回、それだけ真剣に書いたってことだよねって、自分には言い聞かせているけど、やっぱりちょっと疲れたかも」
「そうなんだ」
俺も疲れたよって一瞬、言いたくなったけど、かっこ悪いかもなと考えにいたり、口にするのをやめた。疲れたって言っていいのは、山本瑠奈みたいに真剣に他人が楽しんでもらえるような文章を書いた人が口に出していいことだ。一方の俺は、自分のために書いた文章に過ぎない。人のために書いたわけじゃない。
――いや、今回だけ、多少、山本瑠奈に読んでもらうことは意識したかもしれないけど、感覚としてはいつもと一緒だった。
それに山本瑠奈は、何度も読み返し、バグ取りをして、推敲をしているはずだ。一方の俺は、バグ取りをAIに丸投げした。それに少しだけ罪悪感を感じている。
「――ごめんね。疲れたとか言っちゃダメだよね」
「ダメじゃないよ。それだけ、一生懸命やったってことだよ。それに山本さんの言う通りかもしれない」
「言う通り?」
「そう。大人になって、普通の仕事しながら、小説書くって無理かもなって、今、話聞いて、俺もそう思った。小説を書くだけでこれだけ大変なのに、朝から晩まで仕事して、帰ってきてから小説書くとか、できないかもなって思った」
「だよね。ねえ、川崎くん。もし、大人になって川崎くんと話していられるなら、大人になってもこうやって、小説の話とか、お互いに書いた小説見せあったりしたいな」
「まだ、気が早いよ。それにまだ、小説見せあってもいないから、今から読み合おう」
バッグからiPhoneを取り出し、小説を表示させた。山本瑠奈も同じようにiPhoneを取り出し、操作しはじめた。山本瑠奈の顔を見ると、少しだけ寂しそうな表情をしていた。




