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小さな踏切

作者: 39-Rock
掲載日:2025/12/07

サトウ。

28歳 派遣社員。


とにかく、一人でいることを好む。

昼も休憩室へは行かず、正門前の公園に行く。

休憩室での興味のない話題の騒音。

意味のない迎合、忖度の不快さ。

そういうものに嫌悪感を覚えた。


ベンチに寝転んだ時、何かが触れた。

可愛いいカバーが付いたスマホ。


帰りに交番に届けよう。

そう思い、ポケットにそれを入れた。

このスマホにはロックがかかっていない。

それがサトウを迷わせた。



1Kのアパートに戻って

いつもより高いテンションで

ベッドに寝転んだ。


壁紙は、80歳くらいのおばあさんと

沖縄風な家屋の塀、そして青い海。

そんなコントラストの画像だった。


トークルームには

「ばあちゃん」だけだった。

トークは、そのばあちゃんからの

「助けて」のみだ。

日付は令和5年5月3日 8:30


ギャラリーを開いた。画像は2枚しかない。

踏切に向かって走る制服少女の後ろ姿。

持ち主だろうか?

でも自撮り風ではなく

このスマホの持ち主が撮影した

そんな雰囲気だった。


残りの一枚はメモを写したもだった。


「電話がかかってきても

 絶対に出ないでください。

         

       浜田さとみ 」

日付は令和5年5月3日。


サトウは何か、背中に冷たいものを感じ

そっと電源を切った。


深夜、ようやく少し眠りに落ちた時

あのスマホが電話を受けて鳴った。


電源は切ったはずだ・・。


画面には「ばあちゃん」。


「もしもし?」


「ツーツーツー」


切れた。

電源を切り、布団を被った。

再び鳴った。

画面には「ばあちゃん」。


「もしもし!!!」


サトウは大声になっていた。

今度は切れなかった。

ただ、何も言わない。

だが、誰かいる。

それをはっきりと感じられた。


「ツーツーツー・・・」


サトウは思い出した。


「決して出ないでください。」


もう電話は鳴らなかった。



サトウが休憩する公園の横に小さな踏切がある。

今日はそこに数名の人が集まっていた。

サトウは気になって尋ねてみた。

1年前の事故見分だった。


サトウは、興味本位で検索してみた。

あった。


令和5年5月3日

16歳の女子高生が

快速列車にはねられて死亡していた。

場所もあの踏切だ。

記事には「女子高生」

としか書かれていなかった。

さらに検索を続けた。

サトウは全身が凍り付いて

昼休みが終わっている事にすら

気付かなかった。


女子高生の名前は「浜田さとみ」


踏切に入っていく老人を助けようとして

事故に遭ったと記されていた。

助けられた人の情報は全くなかった。

その助けられた人も、見たという人と

そんな人はいなかった、そういう人とで

意見は様々だった。


「あのスマホだ・・。」


事故は8時30分頃となっていた。

でもあのメモ画像の撮影日時は

令和5年5月3日 8時31分になっていた。


帰宅したサトウは

「ばあちゃん」からの着信に震える手で

発信した。


プル。


「おかけになった電話番号は

     現在使われておりません。」


サトウは電話を切った。


「警察へ届けておけばよかった・・・」。


深い後悔が、さらにサトウを追い詰め

そのまま意識を失った。





「サトウさん? わかりますか?」


その声でサトウは目が覚めた。


「ここどこ?」


「病院ですよ。救急で運ばれました。」


ああ、管理会社が電話したのか。


サトウは病室を見回した。

目に留まったデジタル時計は


「令和5年5月2日」を示していた。


サトウは狼狽し看護師に尋ねたが

間違いなかった。


サトウは自宅に戻った。


スマホだ。

サトウはベッドに放り投げてあったはずの

あのスマホを探した。


ない。どこにもない。


日付の事を思い出しテレビをつけた。

そこからは

令和5年5月2日という言葉が

何度も何度も溢れていた。


気が狂いそうになるなかで思い出した。


「明日だ。」


翌朝

薄汚れたジャージ姿のまま電車に乗り

あの公園へと向かった。


スマホの時計は8時22分を表示している。

日付は令和5年5月3日

サトウが調べた時刻表では

おそらく、8時27分ごろに快速が来る。


警報機が甲高い音で鳴り出した。

線路からは、列車が迫るレールの共鳴。

そちら側に目を向けたサトウは

踏切内に老人が入っていくのが見えた。


「あ、危ない!!」


サトウは自分のスマホをベンチに置いたまま

踏切へと走った。


誰もいなかった。


8時27分。通過列車の轟音が響いた。


サトウは

何かの力でそのまま踏切内へと押し出された。


ベンチに置かれたサトウのスマホには

踏切へ走るサトウの後ろ姿が写されていた。





昭和30年5月3日。

この踏切では

当時15歳の少女が轢死する事故があった。

彼女の未来があったならば

        今年85歳になっている。


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