全てに見放された人の子よ
彼女は言った。
ー幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ。ー
それが世界の全てだった。
”目が覚めた”
体が熱かった。次に感じたのは冷たさだった。
耳が耳鳴りを起こしていた。
胸のドクンドクンと脈を刻む音のみしか聞こえなかった。
傷口が痛む、全身の傷口が痛い。
ここまでくる際、森林をむやみやたらに歩いた時に木の枝などで出来た傷だろう。
まぶたの隙間から見える世界は水面下で歪んで見えた。
雨粒が水たまりに落ちるたびに水面には水玉が跳ねてる。
死に際で思い出すのは養護施設での時の記憶だった。
それは自分と同じ部屋の3つ年下の子供と遊具の上で喧嘩した時の記憶だった。
(あ、懐かしいな…もうちょい楽しめる走馬灯が良かったな)
意識が遠のく…地面で倒れているのに仰向けで空を見ているような感覚。
吐き気がする…何も食べてないから吐くものもないのに…
ただ、苦しい…死にたい、こんなに苦しいなら楽になりたい…
(もうやだ、つらい、考えたくない、楽になりたい、逃げたい、死にたい…)
必死に願ったけど無意味だ。
そんな話の良い様に事は進まない。主人公補正?そんなのがあったら苦しくないのに…
ただただ動けない…土砂降りの雨で服が濡れて重く感じる。
地面に服を縫われたかのように思えるほどに…
(外が暗い…今は昼だっけ?………いや、どうでもいい………何時だろう?…どうでもいいや…)
ただ自問しどうでもいいと言う自答の繰り返し。無意味だな
ぼやけて行く視界。世界がどんどん暗くなって行く。
手足の感覚が無い…まるで自分の手足で無いようだ。
(もう限界だな…懺悔でもしようかな。そんな事が考えれる程焦ってないのかよ…)
”視界が横に大きく揺れた”
自分が驚いた。感覚の麻痺で手足がけいれんでもしたのか?手足に感覚が無いからあり得る話だ。
もしくは、今動物に襲われて嚙まれたしているが感覚が無いから視界が揺れたのか?
出来れば後者が良いな…こんな僕みたいな命が役に立てそうだ。
役に立ってるのかな?分からない…お気楽な頭だな
(イッタ?!…傷口がヒリヒリする後者の選択肢だったか…嬉しい)
そう考えながらまぶたを閉じた。
「おい!…………か?…………」
遠のく意識の中声が響いた。
さっきまでやかましい程までの脈の音も土砂降りの雨の音も何も聞こえなかった。
その声が私の意識の中でこだまし続けた。
(誰との記憶だろう…思い出せない…)
「おい!…かる………何か…………ろ!」
何か話かけてる?
体に物凄い激痛が走った。
叫びたいが叫べない…痛い、苦しい、
思わず目を全身の体の奥底から発揮し目を開けた。
(まぶしい……白?いや白黒?…顔がある?…なんの記憶だ?)
「おい!意識を保て!」
驚いた、人だ…ぼやけている視界で幻覚でも見てるのだろうか?
死に際だ。多分、僕は死を受け入れずに現状の状況を望み、まほろばを見ているんだろう。
まほろばも幻覚も走馬灯も見れるような奴じゃないのに…
まぶたをそっと静かに閉じた。
「パシッ!!!」
鈍い音が頭蓋骨を通して耳と脳に響き渡った。
(え、殴られた?)
さっきまでの傷口の痛みなど感じぬほどまで痛かった。
自分の脳みそをフル回転させて状況の理解に回したが、理解が出来ない…いや考えるのを途中停止してしまう。
「諦めるな!目を開け続けろ!」
何が何だか分からない…若い女性の声がする…13~15歳くらいの女性だろうか?
あれ…俺って年いくつだっけ?
全身を確認しているかの様な動きをしている…盗人か?
残念だったな…一文無しから何も取れるものは無いぜ…
「大きめの傷口は右足に4つ…左足は…大丈夫か…右手は…」
白黒の女性が腕をつかんだ瞬間、骨が内臓に突き刺さるような痛みが走った
「っっ。」
痛さのあまりはしたない痛み声が出た。
「すまない!…これは多分骨が折れてるな…」
何なんだコイツ…
「ちょっと待て」
そう言い白黒の女性は肩から下げていたカバンから何かを探ってる。
「あった!致命傷を軽症にする事しか出来ないが致し方ない」
「おい、あんた今から魔道具で再生効果を付与させる、だから深呼吸をしろ!」
そんな急に言われても困る。
(深呼吸ってどうやるんだっけ?息を吐くのか?吸うのか?どっちだ?)
白黒の女性が胸の上に何かを置いた。すると手を胸の上あたりで空中にかざし何かをぶつぶつとささやいてる
「ー生きとし生ける命に生命のエネルギーを与えたまえー」
急に目の前の何か緑色の輪っかが複数現れた。魔法陣だった。
(え?なんで?幻覚?…訳が分からない、これは夢?)
状況の理解が一層難しくなって意識が飛んだ。
”また何度も見る夢だ”
意識の中だ。それがすぐにわかった。何度も蘇るあの瞬間の記憶が…私は恐れているのか。俗に言うトラウマなのだろうか…
養護施設の時の記憶だ…
養護施設の門の前に居た。左右に石で出来た柱があって園の周りを点々と配置された石柱が並んでて石柱の間には黒くさびた金属の柵がぐるっと囲われている。門は金属で出来た横にスライドするタイプの柵…よくある小学校の校門の扉の様なものだった。入口の門の上には木の柱にトタン屋根を貼り付けただけの質素な軒下があった。辺りをきょろきょろと見渡す…どこからか泣き声が聞こえる入口の柵の端、軒下に倒れた段ボールがあった。のぞき込むと皮膚が青くなり頭から血を流した赤子が一生懸命泣いていた。
そうだ、これが僕だった…
”自分は両親の捨て子だった。”
ふと後ろを振り向くと影のような黒い世界があるのみだった。
その黒は奥行きが無い黒だ。見てるだけで吸い込まれそうな黒。
ふと思い出した。
この黒い世界の奥には時々黒い人影が見える事に…
いた…
やはりあの人影はこっちを見てる。
なぜだろう?その視線は恐怖も無ければ、敵意もない。
(何でこっちを見つめるんだろう。)
頭に激痛が走った。
目が覚めた。




