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誰の子供かわからない子を産めと言われたけれど、誇りを失わなかったわたしは、真実の伴侶に出会いました

作者: すじお

昏睡◯加害などDVみたいな表現が出てきます。注意

アメリアは伯爵家の令嬢。


 両家の勧めによる婚約を受け入れ、将来の伴侶を信じようとしていた。


 しかしある夜、婚約者は残酷な言葉を告げた。



「眠っている間に、子を作ればいい。……誰の子かは関係ない」


 薬で昏睡させられたうえでの強要。

 アメリアは目覚めた後、全身を震わせながらも理解した。

 ――この男は、自分を守るどころか、利用することしか考えていない。

 表向きは立派な貴族令息。

 だがその裏では、自らの欲望のために婚約者を踏みにじる、卑劣な人間だった。


やがてお見合いの席が設けられた。

 だがアメリアは思った。


(誰の子かもわからぬ子を抱え、父親かどうか疑わしい男と縁組されれば、待っているのは悲惨な未来だけ)


 彼女は足を運ばなかった。

 家の事情もあり、金銭もなく、ただ静かに部屋に閉じこもるしかなかった。

 世間からは「身持ちを崩した女」と囁かれ、家族からも責められた。

 だがアメリアは心の奥で誓っていた。


(わたしの尊厳は、誰にも奪わせない。たとえ孤独でも――)



 そんな彼女の噂を聞き、近づいてきたのは黒髪の青年貴族、エドウィンだった。

 冷静な瞳を持ちながら、彼は決して彼女を軽蔑することはなかった。


「君は、誰のものでもない。君自身だ」


 その言葉に、アメリアの胸に張り付いていた重い鎖が解けていくのを感じた。


「だが……わたしは、もう穢れてしまったかもしれません」

「穢れているのは、君を踏みにじった男のほうだ」


 エドウィンは即座に言い切った。

 彼はアメリアに、過去ではなく未来を見てほしいと願っていた。


 アメリアは少しずつ変わっていった。

 誰かの噂ではなく、自分の誇りを糸にして、新しい人生を縫い直していった。

 夜ごと不安に押し潰されそうになるたび、エドウィンは手を取り、こう言った。


「君が守ろうとしたものは正しい。だから誇っていい」


 その言葉は何度も彼女を支え、やがてアメリアは心から信じられるようになった。

 ――自分は一人ではない、と。



 やがて二人は夫婦となった。

 アメリアは過去の痛みを抱えながらも、それを「生き抜いた証」として胸に刻んだ。

 そして未来を歩むために、隣に立つ伴侶を選んだのだ。


「ありがとう、エドウィン様。わたしは、ようやく幸せです」

「これからは二人で築いていこう。誰にも邪魔されない未来を」

 こうして、裏切りと暴力に抗った少女は、真実の愛と誇りを手に入れたのだった。


 結婚から一年後。


 アメリアはエドウィンと共に、静かな幸福を味わっていた。


 しかしある日、宮廷に不穏な噂が広がる。


 ――かつてアメリアの婚約者だった男、ハロルドが、再び縁談を画策しているという。


 ハロルドは前年、別の容疑で逮捕され貴族牢から出たばかりだった。

 アメリア以前に付き合っていた元恋人に婚約を申し込んだようだが、元恋人の女性は王太子との結婚が決まっていて取りつく島もなかった。


 それに、彼はすでにあの悪行の数々が暴かれており、まともに縁組を受け入れる家などない。


「誰の子かもわからない子を押しつけようとした男だ」と。

「未婚の女性を薬で眠らせるような者に、家を託せるはずがない」と。

 貴族社会は彼を冷笑し、彼の背を見て陰口を叩いた。


 そしてある夜会。

 アメリアとエドウィンが夫婦として招かれた場に、失意のハロルドが現れた。

 彼は見るからにやつれ、かつての尊大さは消え失せていた。


「……アメリア。なぜ、私を見捨てた」


 その問いかけに、会場はざわめいた。

 エドウィンは妻の肩を支え、冷たい眼差しをハロルドに向ける。


「見捨てた? 違う。君が誇りを捨て、自ら堕ちたのだ」


 アメリアもまた、静かに口を開いた。


「わたしに『誰の子かわからない子を産め』と告げたのは、あなたです。

 わたしの人生も尊厳も、玩具にしようとした……そんな人に、誰がついていくのでしょう」


 その声は広間に響き渡り、誰もが黙した。

 貴族たちは冷ややかな視線をハロルドに注ぎ、もはや彼に味方する者はいなかった。


「……っ、違う、違うんだ!」


 必死に否定する彼の姿は、惨めなほどに哀れだった。

 だがその夜を境に、ハロルドは完全に社交界から姿を消す。

 彼に残されたのは、借財と軽蔑と、取り返しのつかない孤独だけだった。

 一方、アメリアはエドウィンの腕の中で微笑んでいた。


「過去に縛られることはありません。わたしは、もう自由です」

「そうだ。君は誇りを守り抜いた。だからこそ、今こうして幸せを手にしている」


 二人の手が重なり合う。

 その温もりは、冷たいざわめきを一瞬でかき消すほどに確かなものだった。


 ――理不尽に眠らされ、踏みにじられた日々は遠い過去。

 報いを受けた男の姿を見届けた今、アメリアの心にはもう迷いはなかった。



ハロルドは、「婚約」というテイで近づき、

誰かわからないようにアメリアを襲わせ、子供の父親ではない男(自分)と会わせて婚約破棄→

アメリアが誰とも再婚できないようシングルマザーに無理やりさせたかったみたいです。こんな非道な人間がいるものですね


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