表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/346

70.5話:香のような人

四月も終わりに差し掛かったある日。羽鳥政庁の一角、晴人の執務室では、山積した文書が机上を埋めていた。


 一面に広がる紙の波。筆を走らせる音だけが、静寂の中に規則的に響いていた。


 「……移住希望者の登録、農地の配分、寺子屋の開設希望……」


 晴人は小さく嘆息し、額に手を当てて机にもたれかかる。ここのところ、政務も外交も立て込んでいた。思えば、食事をとったのは昨日の夜が最後だ。


 そのとき、障子越しに低く、落ち着いた声が届いた。


 「晴人様。河上にございます。少々、お時間を頂戴できますか」


 「……どうぞ」


 障子が静かに開かれ、羽鳥政庁の警護責任者、河上彦六が姿を見せた。その背後には、一人の和装の女性の影があった。


 河上はきちんと膝をつき、深く一礼してから言葉を発する。


 「本日は、晴人様のお身体について、少し申し上げたく存じます」


 「……またその話か。倒れてなどいない。ただ、少し食事を忘れていただけだよ」


 「それこそが、一番危ううございます」


 静かに言い返す口調は、長年の信頼を背景にしていた。


 晴人は苦笑しながらも、肩を落とす。その様子を確認した河上は、控えていた女性へと視線を送る。


 「つきましては、ある方をお連れいたしました。晴人様の身辺をお世話申し上げるに、これ以上の適任はおらぬかと存じます」


 その言葉に従って、女性が一歩前へ出る。


 浅葱の小紋に霞模様の帯。白粉を薄く施した面立ちは、若々しくも落ち着きがあり、所作の一つ一つに、艶やかさと気品が宿っていた。まさに“花柳の世界”で生きてきた者の空気を纏っている。


 彼女は畳に音もなく膝をつき、芸妓としての完璧な作法でゆっくりと頭を下げた。


 「はじめまして。斎藤お吉と申します」


 その名を聞いた瞬間、晴人の手がぴたりと止まった。


 ――斎藤、お吉……?


 胸の奥に、小さな針が刺さるような驚きが走った。その名は、記録の中に確かにあった。下田で、アメリカ総領事ハリスの身の回りを世話したという女性。安政四年、幕府により支度金二十五両、年手当金一一二両という破格の待遇で召し抱えられた。


 羽鳥政庁の役人でさえ、大奉行で年千両(相当石高一〇〇〇石)、中奉行で五〇〇両、町役人で一〇〇両である。芸妓として、しかも奉公経験のない者に与えられる額としては、異例を通り越して異常と言えた。


 ――だが、三日で暇を出された。


 世間は「妾にされて捨てられた」と勝手に噂し、彼女の名を貶めた。だが、その裏には真実がある。


 「……まさか、本当にその“斎藤お吉”なのか?」


 問いかける晴人に、お吉は静かに、そして誇りをもって頭を下げた。


 「はい。そう呼ばれております。下田では、“ハリスの妾”とも……」


 そこまで言ってから、ふっと口元を緩めた。


 「けれど、事実は一つもございません。あの方に、指一本触れられたこともありません。……ハリス様は、厳格なクリスチャンでいらっしゃいましたから」


 その声には怒りも嘆きもなかった。ただ、揺るがぬ“誇り”がある。


 晴人は河上に視線を向ける。


 「なぜ、彼女を?」


 「本人より直々に志願がございました。“羽鳥は、居場所を与えてくださると聞きました”と。その言葉に、偽りは感じられませんでした」


 「……芸事以外の素養は?」


 「調薬、香道、文の素読に礼法。加えて、台所と湯殿の段取りにも通じております」


 お吉は一歩進み出て、正座のまま、背筋をぴんと伸ばして言葉を紡ぐ。


 「私はもう、“誤解される人生”には戻りとうございません。……今度こそ、自らの足で立ちたく存じます」


 その一言に込められた決意は、穏やかながら胸に響いた。


 晴人はしばし視線を落とし、それから小さく頷いた。


 「わかった。河上と連携し、私の身の回りを頼む。食事、入浴、睡眠時間――何より、“働きすぎ”を戒める役目として」


 「……ありがたき幸せにございます。命を賭して、お仕えいたします」


 お吉の瞳が、わずかに潤んだ。その光は、ただの雇用ではない。“居場所”を求め続けた者がようやく辿り着いた、光のような約束だった。


 こうして、羽鳥政庁――いや、晴人の傍に、“香のように柔らかく、されど芯の強い存在”がそっと加わったのである。

春の陽は柔らかく、庁舎の障子越しに淡い光が差し込んでいた。


 その中で、お吉は静かに歩を進めていた。晴人の部屋へと向かう廊下。擦るような足音も立てず、襟元を整え、袂を揃えて歩く姿は、まるで“しつらえそのもの”のようだった。


 最初の朝。彼女が政庁へ“仕事”として足を踏み入れるのは、この日が初めてだった。


 晴人の部屋の前に立つと、軽く、だが律儀に襖を叩く。


 「……おはようございます。斎藤にございます」


 中から返事はない。だが、予想はしていた。


 お吉はそっと戸を開けた。


 部屋の奥では、晴人が文書に向かっていた。まだ朝餉も摂っていないのだろう。烏の濡れ羽色のような髪が、微かに乱れている。


 「失礼いたします」


 お吉は膝をつき、一礼してから、手にしていた盆を静かに机の端に置いた。中には、白粥、味噌を薄めた汁、小鉢に入れた梅干しと煮物。どれも、胃にやさしいものばかりだ。


 晴人がふと顔を上げた。


 「……もう、そんな時間か」


 「はい。ご無理をなさらぬよう」


 お吉の声は、柔らかくも芯があり、耳にすっと馴染む調べだった。芸妓として培った声の出し方――響きすぎず、消えすぎず、残響だけが心にとどまるような、心地よさ。


 晴人は筆を置き、眉根を寄せながらも口角をわずかに緩めた。


 「君は……驚くほど、音がしないな」


 「芸の基本でございます。……たとえば、男衆の夢を壊さぬように、立つも座るも、まるで影のようにと教わりました」


 そう言って膳を整える所作にも、無駄がない。椀の蓋を開ける音さえ、風に溶けるように静かだった。


 晴人が箸を手に取り、一口、白粥を口に運ぶ。


 「……温かいな」


 その小さな一言に、お吉はわずかに目元を緩めた。


 「それが何よりの薬にございます」


 食事を進めながら、晴人はお吉を改めて観察していた。


 所作、言葉遣い、表情――すべてが“つくられた美しさ”ではなく、“馴染みきった優美”だった。自然であることの難しさを知る者にしか出せぬ気配だ。


 やがて食事が終わり、お吉は静かに膳を下げた。


 「午後に少し湯を張らせていただきます。肩をお召しになった方がよろしゅうございます」


 「……まるで、誰かの妻のようだな」


 からかい半分の言葉に、お吉はにこりと笑った。


 「そういう場面も、芸の内でございますゆえ」


 艶やかながら、どこか寂しげなその笑みに、晴人は言葉を止めた。


 それは、遊郭や花柳界に身を置く者だけが持つ、独特の“諦念”にも似ていた。見世物でありながら、魂は見せない。心を売らずに微笑む術――それを、お吉は身に染みつくほど知っている。


 それでも今、彼女は“仕える”ことを選んだのだ。誰かの夢ではなく、現実の誰かの暮らしを支えるために。


 その覚悟に、晴人は胸の内で小さく敬意を抱いていた。


     *


 その日から、お吉の姿は政庁内のあちこちで見られるようになった。


 庁舎の台所で食材の目利きをし、火加減を指導し、給仕の所作を整える。さらには、侍女たちの身だしなみを整え、香の炊き方を伝えることさえあった。


 羽鳥政庁は、実務に特化した集団であり、女中の数は決して多くない。その中で、お吉の存在は、まるで“文化そのもの”を持ち込んだようだった。


 「斎藤様に教わってから、手元の動きが違うって言われました!」


 「庁舎に入る前に、香で空気を整えるなんて、江戸の奥女中でもしないってさ」


 そんな声が、政庁内の女性職員から聞こえてくる。


 もちろん、すべてが順調だったわけではない。最初は“ハリスの妾”“大名の寵姫崩れ”と揶揄する声もあった。だが、お吉は一つ一つ、丁寧に応え、下にも置かぬ礼で接し、日々の働きで信頼を積み上げていった。


 ある日、町役人のひとりが小声で言った。


 「羽鳥の奉行でも、年八十両……だろ? あの人、昔は年に百十二両ももらってたって話だ」


 「そんな人が、今は台所で芋の皮剥いてるんだぜ。なにが違うって、“覚悟”が違うよ」


 人々の見る目が、少しずつ変わっていくのがわかった。


 お吉は、過去を引きずってはいなかった。だが、過去を捨てたわけでもない。


 彼女は、そのすべてを包み込んだ上で、“今”を生きていた。


     *


 夜。晴人が執務室を出ると、外はすでにとばりが降りていた。


 「……明かりを、落としました。お身体、お冷やしになりませぬよう」


 控えていたお吉が、袂を揃えて頭を下げた。


 晴人は思わず小さく笑みを浮かべる。


 「君が来てから、私の生活は少しずつ“人間らしく”なっているよ」


 「それは光栄にございます。……ただ、あまりご無理をなさらぬよう。羽鳥は晴人様おひとりのものではありませんゆえ」


 その言葉に、晴人は一瞬、胸を打たれる。


 彼女の言葉には、媚びも遠慮もなかった。ただ、誠意だけがあった。


 ――これは、芸妓の言葉ではない。ひとりの“仕える者”の、魂の声だ。


 こうして、羽鳥政庁のまつりごとの背後に、静かに、香のように漂うもうひとつの力が芽生えつつあった。

五月の初風が羽鳥の町を吹き抜けていた。


 若葉が日差しを弾き、朝市には山菜や筍、早摘みの茶葉など、春の名残と初夏の気配が入り混じって並べられている。人々の装いも軽やかになり、笑顔の交わる声に混じって、どこか鼻をくすぐるような上品な香りが漂うようになった。


 「……あれは、政庁のだな」


 市場の一角で、年配の商人がぽつりとつぶやいた。


 お吉が政庁に現れてからというもの、羽鳥の空気に微かな変化が訪れていた。


 朝には白檀や沈香を焚いて空気を整え、客人の出入りには香気の流れを読み取るように障子や簾を調え、台所では旬の食材に合わせた調理と盛り付けが始まっていた。


 だが、それらは決して“華美”ではなかった。


 むしろ、政庁という実務の場に“過不足なき心地よさ”をもたらすための、徹底された“配慮”だった。


     *


 その日、政庁では江戸からの来客を迎えていた。


 勘定奉行配下の役人で、歳若いながらも態度の厳しい男だった。書面を前にした彼は、開口一番、刺すような声を放った。


 「羽鳥政庁は、公私の境が曖昧ではありませんか? 役所であるならば、香など焚く必要もない」


 晴人は静かに笑った。


 「必要ないものを、なぜ人は求めるのでしょうね」


 「必要のないものに金をかける余裕があるとは、羽鳥は潤っているようだ」


 場が凍りかけた瞬間、お吉が、膝をついてお茶を供した。


 その所作は、まるで時を止めるようだった。


 音もなく茶碗を差し出し、襟を正し、ふと目線を下ろす。


 無言のうちに、彼女の“立ち居振る舞い”そのものが、場に流れる空気を変えていく。


 役人は、受け取った茶碗を口にした。


 ――その瞬間、眉をひそめた顔が、わずかに緩む。


 「……これは、抹茶ではないのか?」


 「はい。乾燥させた桜の葉と、干し椎茸の粉末を混ぜた“香茶”にございます。胃をいたわる効果もあり、長旅のお疲れを和らげます」


 お吉は淡く微笑んだ。


 晴人は、その背を見つめながら言った。


 「これが“無用の用”というものです。羽鳥にとっての“まつりごと”は、ただの数字や法ではありません。“空気”こそが、民の心をつなぐ道具になるのです」


 役人は黙って茶碗を見つめ、そのまま何も言わず頷いた。


     *


 日が暮れ、庁舎が静けさを取り戻すと、お吉は小さな提灯を手に、廊下を歩いていた。


 日々、政務を終えた晴人のもとを訪れ、湯を用意し、夜食の支度を調え、そして何より、“話し相手”となる。それが、彼女の仕事のひとつでもあった。


 その夜も、晴人の部屋では蝋燭の灯が揺れていた。


 「……今日の客人は、難物だったな」


 「はい。けれど、最後には、晴人様のお言葉に耳を傾けておられました」


 お吉は、酒器を小さく整えた膳に並べる。そこには、焼いた鰆と筍の木の芽和え、小鉢にした湯葉と胡麻和え、炙った海苔と、白湯の徳利が並んでいた。


 晴人は湯飲みを手にしながら、ぽつりと問うた。


 「……君は、なぜ本当に羽鳥に来た?」


 お吉は手を止め、少しだけ、目を伏せた。


 「……“香のない場所”に居たかったのかもしれません」


 「それは、どういう意味だ?」


 「香は人を酔わせます。ときに、真実を覆い隠します。……私は、それで何度も、誤解を生みました」


 お吉の声は淡々としていたが、その奥には、幾重にも積もった過去が静かに横たわっていた。


 「……羽鳥には、そういう“匂い”がなかったのです。飾らず、誤魔化さず、真っ直ぐに生きている人たちがいて、そして――まつりごとが、誰かのために行われている」


 晴人は、黙ってその言葉を噛みしめた。


 「それでも、君が来てから羽鳥は“香る”ようになった」


 「……それが、良い香であれば、よろしゅうございますが」


 お吉は、そっと笑った。だがその笑みは、いつもの芸妓の面差しではなく、ひとりの“人”としてのものだった。


 晴人は、そっと湯を飲み干した。


 「……ありがとう」


 その言葉に、お吉の指がぴたりと止まる。


 「……いえ。私の方こそ、ありがとうございます。ここでは、誰も私を“妾”と呼ばぬのですから」


 部屋に、しばし静寂が満ちた。


 その静けさは、言葉よりも多くを語っていた。癒えない傷と、それを包む温もり。どちらも、そこにはあった。


     *


 その夜、お吉が退室しようとすると、晴人はふと声をかけた。


 「君は“香のない場所”を望んで来たと言ったな。……だが、私はこう思う」


 お吉が足を止める。


 「君のような人こそ、香として在るべきだ。誰かを惑わす香ではなく、心を鎮める香として、傍に居てほしい」


 沈黙のあと、お吉はゆっくりと、頭を下げた。


 「……かしこまりました。では私は、晴人様の香となり、羽鳥の香となりましょう」


 障子が静かに閉まり、その後には、ふわりと残る香のような余韻だけが残った。

初夏の朝。羽鳥の空は、うっすらと霞がかかっていた。


 庁舎の廊下を歩くお吉の足取りは軽やかだった。掌に乗る木箱には、梅肉を溶かした湯と、昨夜仕込んだ小さな甘菓子が入っている。昨今、晴人の夜食は減り、代わりにこうした“滋養と香り”を重んじるものへと自然に変わっていた。


 戸口にそっと膝をつく。


 「お目覚めにございます、晴人様」


 障子越しに返ってきた声は、わずかに掠れていた。


 「……うん、すぐ開けてくれ」


 中に入ると、晴人はまだ書簡の束を前に目を通していた。その傍らには、空になった湯呑と、読了した文書が無造作に積まれている。


 お吉は言葉を発さず、机に残る紙片を整え、手元の木箱から湯を差し出す。その所作はもはや儀式のようで、晴人もまた当然のようにそれを受け取った。


 「……君が来てから、俺はずいぶん健康になった気がするよ」


 「それは結構にございます」


 お吉の返しはいつも通りだったが、その声の温度には、わずかな弾みがあった。


     *


 その日、政庁には近隣の寺子屋を統括する教師たちが招かれていた。話題は、新たに開設された女児向けの学び舎について。


 「女性に文字を教えるのは時期尚早では――」と述べた老教師の声に、若い教師が反論を重ねる。


 議論は続いたが、その最中、お吉が一歩前に進み出た。


 「失礼をば。私は、学びが“誰かにとって無用”であったことを、ただの一度も見たことがございません」


 場が静まる。


 「私は、読み書きを覚えたことで、自らの言葉を持つことができました。香を学び、調薬を学び、語り、書くことで、自分の名誉を守る術を知りました。……それが無意味であるとは、どうしても思えません」


 彼女の言葉には、どこまでも静かな説得力があった。


 晴人は、その横顔を見つめながら、思わず笑みを浮かべた。


 “本物だ”――河上の言葉が、今も胸に響く。


     *


 夕刻、来客を見送ったあとの廊下にて。


 お吉はひとり、軒下の風を感じていた。どこからか風鈴の音が聞こえ、空には早くも夏の鰯雲がのびていた。


 「……この町には、香りがございます」


 背後から声がした。


 晴人だった。


 「それは、お吉さんが持ってきてくれたものだ」


 「いいえ。私は、ほんの香袋にすぎません。……香そのものは、晴人様と、この町の方々が持っておられるものでしょう」


 ふと、沈黙が流れた。


 「……私は、江戸でも、下田でも、“誰かのために飾られる存在”でしかありませんでした。けれど、羽鳥では違いました」


 お吉は、風に揺れる髪を抑えながら言う。


 「私が選ばれたのではなく、私が“選んだ”。それが、こんなにも嬉しいことだとは思いませんでした」


 晴人は、しばらくその言葉を噛みしめた。


 「……この町は、誰かの居場所であると同時に、自分の居場所を作る場所だと思っている。君がそう感じてくれて、良かった」


 お吉の目が、静かに揺れた。


 「……今夜、少し香を焚いてもよろしゅうございますか。月が綺麗に出そうですので」


 「構わないさ。今日は、君に“羽鳥の夜”を託すよ」


     *


 夜。政庁の広間では、薄く沈香が焚かれていた。


 白い煙が天井へ昇っていく。その中に、灯りを落とした障子の向こうから、町の音が聞こえてくる。人の気配、風の音、遠くの笑い声。


 お吉は、香を見つめていた。


 香は、目に見えず、手に取れず、けれど確かに“存在”するもの。


 その静けさが、人の心を動かすのだと――この町でようやく知った。


 ふと、襖の向こうに声がした。


 「……まだ、起きていたのか」


 晴人だった。


 「はい。香が落ち着くまで、少しだけ」


 晴人はその傍に腰を下ろす。


 「……君のような存在が、この町に居てくれて、本当に助かっている」


 お吉は、何も言わず、ただ微笑んだ。


 香は、何も語らずとも、人の心に染み渡るもの。


 そしてその夜――羽鳥の政庁には、静かな香とともに、確かな“信頼”が根を下ろした。


 誰かを癒し、誰かに寄り添いながら。


 彼女のような香が、この町の風景を、ひとつずつ変えていくのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


もし本作を楽しんでいただけましたら、

ポイント・ブックマーク・感想・レビュー・リアクションで応援していただけると励みになります。


引き続き、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ