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第4話 初めてのバズり

 私は今日もダンジョンに来ていた。しかし少し緊張している。いや、少し所ではない。めちゃくちゃ緊張している。この緊張の原因は何を隠そう……バズってしまった事だ。


 DX……ダンジョンエックスというSNSで、誰かがアップした私の配信の切り抜き動画を有名な配信者が拡散した事でバズったのだ。その数なんと……10万リポスト20万いいね。


 因みに私の普段の投稿は10リポスト12いいねぐらい。フォロワーも14人程しか居なかった。一昨日までは。


 今ではフォロワーは一気に30万人に増えているし、軽い挨拶や動画チャンネルを書いた固定ツイは7万リポスト10万いいねされてる。


 私のアカウントを見つけた誰かが切り抜き動画にメンションして宣伝したらしい。


 昨日。

 お風呂からあがり、肌や髪のケアが終わってダラダラしていた。


「黒崎、勇悟さん……いい人だったな……」


 帰ってからも彼の事ばかり考えている。だって、あんな風に助けられたんだもん……。今でも抱えられた時の温もり、不敵に笑う顔、神業で攻撃を避け、トロールを真っ二つにした姿……それらを覚えている。


「また、会えるかな……?」


 会えたら……一緒にダンジョン行ったりして、もっと彼の事……知りたい。


 ピロン。


 そんな事を考えていると、急にスマホの通知が鳴り出した。


 ピロン……ピロンピロンピロンピロン。


「え?……え?なに?なになになに!?」


 動揺する私を他所にスマホは『○○からフォローされました』や『○○さんがリポストしました』という通知を連続して画面に映していく。


「ちょっ!うるさっ!設定設定!てか動き重すぎる……!」


 慌てて設定から通知を切ったが、プロフィールを見るとフォロワー欄が増える増える。この事に只管恐怖を覚えるのだった。


 そしてDtubeのチャンネルも15人から10万人に増えた。


 軽く調べてみると、1番上に表示された1つの切り抜き動画が目に入る。


『お手柄!?黒衣の剣士が刀1本でボスから少女を救う!』


 そんな見出しが着いた動画は彼がトロールを圧倒する所をバッチリ映していた。


〈まさに神業!カッコよすぎ!〉

〈これ移動系のスキルも攻撃系スキルも使ってなくね?〉

〈スキルエフェクト無いし多分素の剣術とかだけですね〉

〈やばっ!一撃じゃん!〉


 動画のポストにはそんなコメントが溢れている。


 いや、どういう事よ???


 しかも最後にはご丁寧に配信切り忘れた私の呟きがオチにされている。


〈金髪ちゃん可愛い〉

〈ほの字ですねこれは〉

〈青春を感じる〉


 大勢の人に……一目惚れした私の痴態が晒されている……!


 そんなこんなでベッドの中で亀の甲羅に籠るように悶えるのだった。そして現在に至る。


「いやほんと、恐ろしい事になった……」


 今日だって配信するか迷った。だって、全部では無いだろうがあの数が配信に押し寄せると思うと……うっ、胃が痛い。


 こちとら会話苦手でソロでダンジョン行ってるクソザコ初心者やぞ?切り抜きのコメント欄見てないからこんな私に何求めてんのか分からへん。


 思わず故郷の関西弁になっちゃった……。まあでも……数字が増えて嬉しいと言うのも本音ではある。人並みの承認欲求はあるし。


 そんな訳で、怖いけどこの気を逃すのは配信者の端くれとしては勿体ない訳で……頑張って今日も配信する事にした。


「そうだ……予告ポストどうなっただろ?」


 配信の数時間前には配信する旨をDXで投稿するようにしている。配信者の常識だ。ゲリラもそれはそれで出くわして嬉しいとか味はあるが。


 3時間前に投稿したその数字を見て私は更に驚く。


「せ、8000リポスト、1万いいね……?」


 知っての通り、いつもは10リポスト10いいねぐらいだったのが配信予告だけでこれだ。怖い。嬉しい……やっぱ怖い。


 やっぱ配信やめよっかな……。


 プレッシャーから気持ちが後ろ向きになる。そんな中、恐る恐る待機所のコメントを見る。


「うわっ!人多っ!」


 飛び込んできたのは2万人が待機中の文字。


〈まだー?〉

〈黒衣の剣士さん出る?〉

〈はよ〉

〈初見。期待してます〉


 待機所なのにコメントは前の本編より断然早い。それが人の数だと思うと更に圧を感じる。


「やっぱやめ……」


 そう言おうとして、私は止まる。1つのコメントが目に入ったから。


〈いつものゆいちゃんで大丈夫だからね〉


 いつも見てくれてるユズさん……!


 それだけでは無い。他にもよく見ると常連さんが優しい言葉を書いてくれている。


 そうだ……。この中の殆どがバズったから来た人だとしても……私の配信を楽しみにしてくれてるのは変わらない。そしていつも楽しみにしてくれてる人がいる。


「なら……やる……!」


 私は勇気を振り絞り、取り出した指輪を付ける。そして早見結花からダンジョン配信者『ゆい』へとその姿を変える。


 これは言わばルーティン。演技をする役者がスイッチを入れるように、茶髪から金髪に、茶色の瞳から紺碧の瞳へ変える事で配信者の心になる。


 無口で無愛想で臆病な私にも、みんなの前に立つ勇気をちょっぴりくれるルーティン。そして……2万人に増えた視聴者の元へ踏み出す。


「よし、行くぞ……!」


 こうして私は今日も配信を開始した。


「あ……みんな、見えてる?こんゆいゆい〜」


〈きちゃ!〉

〈きたー!〉

〈こんゆいゆい〜〉

〈可愛い!〉

〈初見です〉

〈初見です〉


 コメントが雪崩のように流れる。私はそれに一瞬戸惑うが、それに負けじと声を出す。


「初見の人が殆ど……だよね?ゆいです。ダンジョン配信者やってます」


 概ね反応は良好。震える声でも何とかなるもんだ。


「みんなはどうやってここに来た?って、やっぱり切り抜き動画からだよね。まさか切り抜かれて……こんな、大勢の人が来るとは思わなかった……」


〈切り抜きから〜〉

〈そりゃびっくりよね〉

〈緊張してるの可愛い〉

〈今日はあの人居ない感じ?〉


「あ、あの人は居ないよ。昨日も偶然あっただけだから……」


 そう。黒崎勇悟さんは居ない。つまり私1人でこの大勢集まる配信を乗り切らねばならない。


「期待してくれた人には悪いけど、今日はソロでダンジョン行くよ」


〈そうなんだ〉

〈大丈夫よ〜〉

〈残念。でもゆいちゃんのダンジョン配信気になる〉


「私だけでもいい?ありがと。じゃ、やってくね」


 私は淡白に返していつも通りダンジョンの中に足を踏み入れる。


 1人でも頑張るぞ……!


 心の中でガッツポーズして気合いを入れる。すると、後ろから声をかけられた。


「あ、昨日の」


 振り返ると、そこには黒衣を纏い、黒髪を後ろに流した精悍な顔立ち、そして切長の赤い瞳をした男性……黒崎さんが居た。


 な、ななな!なんでいるのおおおおっ!?


 ソロ配信頑張ろうとした矢先に偶然にも出会ってしまった。


〈うおおおお!〉

〈噂をすれば!〉

〈もうカッコイイ〉

〈おるやんけ!〉


 コメント欄も爆速になってる。どうしよう……!


 混乱して固まっていると、寧ろ彼の方からこちらに来る。


「えと、ゆいだっけ?昨日はありがとな」

「えっ……!えと、はい!こちらこそありがとうございましたっ!」


 めちゃくちゃ声上擦った!恥ずかしい!


 緊張がそのまま口から出てしまった。顔が熱っぽくなるのを感じる。そして心臓もバクバク鳴り響く。色んな意味で。


「いや、別にいいさ。今日もダンジョン行くのか?」

「はい……あっ。言うの遅くなったんですけど……配信中です……」

「うーんと……配信……?ダンジョンで?」


〈えっ?〉

〈まさかダンジョン配信をご存知でない!?〉

〈マジか!?〉

〈嘘やろ?〉


 私の心情を代弁するようにコメントのみんながザワつく。


 そういえばそうだった。この人初心者で、しかも説明も色々聴き逃してるんだった。


「えと、見えるようにしますね?」


 私はカメラの透過をオフにする。


「うおっ!箱が浮いてる!?」


 驚く黒崎さん。ちょっと可愛い……あ、そうだ。コメントも見えるようにっと……。


「文字も出てきた!?」


〈草〉

〈ガチでダンジョン配信初めてのそれじゃん〉

〈そんなことあるぅ?〉


 コメントの皆も楽しげに反応を見ているようだ。


「えと、これがダンジョンで生放送する時のカメラでして……これを外の世界で見てる人がコメントしてくれてるんです」

「へぇ〜。凄いな」


 そう言って黒崎さんはカメラを覗き込む。


〈見ってる〜?〉

〈うおっイケメンすぎか?〉

〈これが噂の黒衣の剣士……!〉


「見えてるみたいですね。えと、自己紹介とか……します?」


 何とか配信者らしく話を振ってみた。黒崎さんはそれに頷き快く引き受けてくれる。


「俺は黒崎勇悟。昨日からダンジョンに来た。よろしくなみんな」


〈名前も黒い!〉

〈昨日!?ガチ初心者やんけ!〉

〈初心者であの大立ち回り……?やばっ〉


 コメントがまた私の反応とリンクして早くなる。やっぱりみんなも黒崎さんの事が気になるんだなぁ。


「俺もダンジョン行くとこだ。階層や日によって作りが変わるらしいから楽しみだな」


 ワクワクした様子で語る彼。そんな中、私は今日彼を見てからずっと頭の中で言おう考えてた言葉を口にする。


「あ、あの……良かったら一緒に……行きませんか?」


 

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