第2章 ヒガシズム
私の父は私の幼い時に亡くなった。 母曰く、交通事故で交差点を歩いていた時に車に轢かれ⬛︎⬛︎だったらしい。
それだけしか聞いていないし、父のことはあまり覚えていなかったので、それ以上は母には聞かなかった。
私の母は、父と共に過ごした時間を忘れ去る為なのか葬儀が終わって1ヶ月もしない内に引っ越しを決め、S区から現在住んでいるC区へと住居を変えた。
別にそこまで不便な場所でもないし、私は友人との関係も上手く築けていっているつもりだ。
しかし、日頃から常に新言語秩序の監視下にあると考えると正直精神的にも⬛︎⬛︎なってくる。
⬛︎⬛︎と感じた時、私は誰にも侵害されない、私だけの特別な場所に向かう。
そこは私が父との記憶で唯一覚えている場所なのだが、どこにでもあるような道で坂を降りるとその道と平行線状に川が流れていてその上に坂の上の道と反対側の道とを繋ぐ一本の橋が架かっている。
この橋には車で2車線ずつ定められていてその端っこにはぶっきらぼうに歩道橋のスペースを確保するための縁石が設置されている。
私は、当時この橋上で父と見た今にも破裂して爆発しそうな夕陽を鮮明に覚えている。
瞳の色、肌の色、髪の色、、、嫌になる程の⬛︎。吐き気がする程の⬛︎。死にたくなる程の⬛︎。これが現実なのかと疑いたくなるような景色を私は宝物の1つとしてしっかりと保管している。
少々遠回りとなるが久方ぶりに学校の帰りに思い出の地へと赴いた。
今日は午後から曇天模様で雲が多かったが夕方に差し掛かる時間帯だけ夕日を拝めることができるはずだった。
日が傾き、夜がやってくる直前に私は到着できた。
しかしそこでは、当時と何ら変わらない橋上に季節外れの黒いパーカーを着て、白い一本の線が入っているスキニーパンツを履き、くせっ毛とは裏腹に凛とした顔立ちの男が太陽の光で長い影を作り私の前で日食を始めていた。
私はその男を知っている。この男は毎日のようにあらゆる広告手段で指名手配されている。学校や街中で、ポスターや雑誌やテレビ、ラジオ、インターネットetc......彼は今や言葉ゾンビのリーダー的存在、希明だ。
希明は橋の手すりに腕を置いて何か物悲しそうに、懐かしそうに遠くの夕日を見つめていた。
しかし、その瞳には怒りと憎しみとまるでディストピア物語を見たかのような絶望感を漂わせていた......