1-9 国防連隊マモルンジャー!
今日は団体客の予約がある。ビーチパーティが開かれるのだ。だから、ボクは早めに出勤して、パーティーの準備をみんなとせっせと行う。
「しかし、こんな大掛かりなパーティー、どんなお客さん達が来るんだろ」
っとつぶやいたボクに、オーナーさんが少し困った顔をして答えた。
「あのね、英輝ちゃん。これはあまり他所では言わないでほしいんだけどさ、まあ、多分、お客さん達が来たらわかる事だから説明しておくとね、今日の団体さん達は自衛隊なんだよ」
「わあお、自衛隊なんですか!」
「そう、第883離島警備連隊の人達が来るんだ。島の平和を守ってくれる人達だし、ただでさえ停滞している島の経済を少しでもまわしてくれる人達でもあるから感謝しかないんだけどね、その、反対する人達がいるんだよ。だから、プライベートでは肩身の狭い思いをしてもらいたくないんだ。それに、お金もいっぱい落としてくれるしね」
「上客だから政治的なあれこれは無しって事ですね。りょーかいです」
っと、ボクはオーナーさんに敬礼。
準備は万端。浜辺のバーベキューセットに、ビールも多めに用意。吹き太郎さんのカクテルも量産体制を整えたし、ついでに買ってもらいたいお土産もちゃっかりスタンバイ。さあ、稼ごう!国防費で税金取られる分、稼ごう!
第883離島警備連隊の人達はマイクロバスが2台とハイエース1台でやってきた。
「第883離島警備連隊第1大隊第1中隊の50名、ただいま参りました」
と、隊長らしき人がオーナーに敬礼する。多分、自衛隊ユーモアなのだろう。本気の部隊挨拶とは違うだろうし、みんな私服だ。だけど、敬礼姿はびしっとしていてとてもかっこいい。リアルは違うね。
この第883離島警備連隊というのは、南方の第8師団の配下にありつつも、緊急時に現場判断で動けるように特別編成された連隊のようだ。883という数字も第8師団と関係のある数字を意味しているようだが、詳しくはわからない。未来の戦いの変化を意識して結成された部隊である事は確かのようだ。故に、離島の住民とはなるべくフレンドリーに接する事を意識している様子である。
連隊の人達はオーナーに案内され、ボク達が用意したパーティー会場に流れて行く。
「班長!これは素敵なビーチでありますね!」
「班長!私は早速、ビールが飲みたいであります!」
「班長!水着の店員さん達がとてもかわいくて、心拍数が上昇であります!」
「班長!私の心に素敵な水着のお姉様の視線が被弾しました!」
いちいち班長と言うのも多分、自衛隊ジョークなのかもしれないが、マジなのかもしれない。これはこの連隊の人達にしかわからない。
連隊の人達は各々、バーベキューにいそしむ。
「安全確認!よし!着火!」
この掛け声も自衛隊ジョークだろう。
ボクはみんなにバーベキューの食材を運んだ。
「国防の皆様、これはヤバミ大島の特産の黒豚のバラ肉です。じっくり焼いて、焼きすぎても柔らかくてジューシーなお肉ですよ」
食材の説明をしながら連隊の人達に近寄ると、まだお酒を口にしていない隊員の顔が赤くなったのがわかった。あ、今、この人、ボクにキュンとしたね。ボクに胸キュンしたね!そうわかるとなんか面白い。男心をもてあそぶ楽しさがわかった気がした。
「は、はい!黒豚の輸送、ありがとうございます!兵站は前線の命綱!じっくりと味わいます!」
と、顔を赤らめた隊員はボクに敬礼をした。ごっついガタイをしながらピュアな感じがたまらなくかわいくて、少しちょっかいを出してみたい気持ちになる。
「お兄さん。もう飲んでるの?顔、真っ赤だよ~」
「あ、こ、こ、これは、太陽が、日差しが強くて赤くなっているのであります!」
「そうなの~。ねえ、ビールなんかより、もっと刺激の強いのい・か・が?」
い・か・が・わ・しー!ボク、マジやべえ女みてえ!面白いぞ!これは面白い!
「谷村~。お前、そんなに簡単にデレデレしてたら見てるこっちまで恥ずかしくなっちまうぞ~」
「や、山岡士長!そ、そんな、私、デレデレしてましたでしょうか?」
っと、山岡士長は谷村さんを押しのけて、ボクの前に立つ。
「刺激の強いやつ、俺とこの谷村の分、頼むよ」
女の子と会話するのは慣れているアピールをしているみたいだ。士長って呼ばれているって事は、きっと、谷村さんはそれより下の人なんだろう。
「おいおい、かわいいからって問題起こさないでくれよ二人共~」
っと、笑って言う隊員はその話し方と風貌から上官なのがよくわかる。
なんか、今まで相手してきたお客さん達とは違う人種って感じ。とても新鮮な気分だ。
パーティーは楽しく盛り上がり、隊員のみんなが帰り際、山岡士長がボクに近寄って来て、ラインの連絡先交換を隠れてしてくれと頼まれた。
「でも、いいんですか?ボク、男ですよ?」
そのまま連絡先を教えるのも流石に罪悪感があるので正直に伝えた。
「ええ!そうだったの!わからなかった~!でも・・・また来たいからさ、連絡先教えて~!」
こっそりと去ろうとする谷村さんを捕まえた山岡士長。
「こいつもいっしょに連れて来るから!」
ボクが出勤している日にあわせて来てくれるそうだ。なんとも逞しい常連客を手に入れたものだ。
こうして激しい一日はあっという間に過ぎて行った。
夜、寝る前に宇宙の母と交信した。
「今日、自衛隊の人達と知り合ったけど、母さんの力になれるかな?」
「「無理よ。今、私が戦っている宇宙人相手じゃ地球の兵器をいくら使っても勝てないわ」」
母さんは人知を超えた勢力と戦っている。頑張れ母さん・・・