1-7 泣きっ面にハニーフラッシュ!変わるわよ~
そうそう、新しいスマホを手に入れたから、みんなとラインでつながる事が出来たんだ。今日はボクをふくめ、ウェイターの二人も休みだから、みんなで買い物に出かけようって話になったんだ。まあ、ボクが運転する車に乗ってなんだけどね。
カジリコさんはサノバビーチの近くの村に住んでいて、先にカジリコさんを迎えに行ったんだ。待ち合わせの場所にカジリコさんが待っていたんだけど、ボクはそこで初めて島にある神社を見たんだ。
「島にも神社、あったんですね」
「そうそう、ここの神社の神様はヤバミ大島で一番偉い神様なんだよ」
古事記や日本書紀には記されていない島独自の神様、ヤバミコ様が祭られている神社だ。ヤバミコ様はこの島を作った神様で、伊邪那美の要素と天照大御神の要素を持つ神様なんだけど、歴史的には中国の呉から渡来した人らしく、ヤバミ大島に稲作を伝え、ヤバミ大島に文明を築いた人との事だ。せっかくだから、お参りして、それからまんじゅさんの住むマンションに向かう。マンションと言っても3階建ての小さなマンションだ。ビックリ・スリーの近くの田んぼに囲まれた村にある。到着するも、まんじゅさんの姿が見当たらない。だからライン通話をしてみた。
「もしもしー。今、ついたよー」
「え?早くない?」
「え?むしろ5分遅れたんだけど」
約束の時間に5分遅れるはこの島にとって約束の時間の前に到着したに等しいのだ。南国特有の島時間ってやつだ。
「ごめーんごめんごーめん。まじ、すぐに来ようと思ったんだけど~、ゴーヤのツタが足にひっかかっちゃってさー、まじ、固結び状態で~、すぐにほどけなかったの~!だから~、時間かかっちゃった~!」
っと、到着から10分後に嘘を吐き散らしながらまんじゅさんはやってきた。ついでに車に乗った時、ドアをしめるパワーは強。車が揺れたし、風圧で耳がダメージを受けた。
今日、向かう先は二人がおすすめの古着屋さんだ。可愛い服がいっぱいあるそうだ。しかも安いとの事。まだ、手持ちのお金が少ないボクにはとても助かるお買い物だ。その古着屋さんがある場所が、まさかのナンダの街の寂れたアーケード商店街だったのだ。コインパーキングに駐車して、いざ、古着屋へ。
店内は酷な程にレディースものに満ちあふれていた。男用という概念が存在しなかったのだ。だが、2人はボクに似合う服だと言って、どんどんおすすめしてくる。そして無理やり試着室でそれらを試着させられるのだ。
デニムのショートパンツに縮んだように小さいTシャツで、へそ出しのサマービッチスタイルや、夏のサークルクラッシュするであろう真夏の地雷コーデ、見せパンデニムスカートのゲーマー風サイバーパンクビッチカスタム、バーバレラ風のセクシーで宇宙を救うギャラクティックビッチスペシャルなど、どれもこれも女の子のファッションだ。
嫌だ嫌だとボクは言っていたが、心は正直、ボクはボクがかわいくて仕方がない。せっかくだ、新しい自分を開拓しよう!フロンティアスピリットだ!そう、羞恥心と言う名のグランドキャニオンを越えるんだ!
こうしてボクは、本格的に女装に目覚めてしまった。おすすめの服はバーバレラ以外購入したのだ。すると店員が「ここで装備していくかい?」と尋ねるので、「はい」の返事を選択し、ボクは男の娘と化した。
かわいい自分とはなんとも素晴らしい事で、それまで私服を地味にしていた分、何か、殻を破ったような、脱皮したような、進化したような、強くてニューライフをプレイするような、いい気分だ。それに衣装がなじむ!なじむぞ!最高にハイってやつだ!
それから3人でカラオケに入り、ボクはアニソンを熱唱した。完全にオタク向け地雷系女子となった。2人もテンションアゲアゲの小悪魔アゲハ。俺達は今、島で一番輝いていた。途中で尿意を催し、トイレに行く。もちろん男子トイレだ。ボクがトイレに行く姿を他のカラオケに来ている客が見て、ボク達のカラオケルームを覗きに来るし、最終的には知らない人達もいっしょに盛り上がっていた。
帰るころ、ボクの喉は死んだ。限界を超えた熱唱に耐えられず死んだ。声はプロレスラーの本間選手のようになった。だが、とてもすがすがしい一日だった。
2人を送った後、帰宅。車から降りた所を亀さんが目撃。そう、姿が変わってしまったボクを見て、驚いていた。
「・・・都会か、都会の絵具に染まっちまったのか!」
いや、逆なんです。都会にいた時の方が素朴だったんです。