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異世界魔法陣  作者: 空箱
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2セーブ目

  これが今のステータスか……、あれ? なんかバグってっていうか、文字化けしてね?

  とりあえずは運以外のステータスは問題なさそうだな。

 今のうちに他の画面も確認しとかないと……、そう言えば、もう一つのプレゼントを忘れていた。


 プレゼントボックスに入っていた二つ目の贈り物。

 手紙を読んだ後に開けろと書かれているだけで、中身は不明だが、手紙で言っていたチートアイテムなのでは? と期待が膨らむ。


 恐る恐るアイコンをタップする。

 虚空から不意に直径5cm程度、手の広サイズの透明な球体が出現して、地面に転がる。

 ステータスウィンドを閉じ、まじまじと観察する。なんだこれ?


 手に取ってみる。ガラス玉だろうか? 強くにっぎてみても、割れることは無かったが、ほんのり青白く発光した。

 これがチートアイテム? 何をどうやって使うのか検討がつかない。

 アイテムの説明書くらい付けとけよ! と悪態をつきながらアイテムボックスに収納する。


 するとそこでそのアイテムの名称だけは判明した。

()()()()()()()? って言われても……」

 やはり情報が少なすぎて、今の状態では二進も三進もいかないことを悟る。


 ここに来て初めてアールは冷静に物事を判断する。

 まず始めに自身が降り立ったこの地は、始まりの草原と言うらしい。通りで周りに何もなく、見晴らしがいいわけだ。

 そして、このまま真っ直ぐ進めばアイズという町がある。


 どうして分かるかって? 今更だが、視界右下に小さなアイコンがあり、それがミニマップだと気がついたからだ。

 ずっとここでじっとしている訳にもいかないので、アイズの町を目指すことにした。

 歩くこと約10分。小さな丘を越えると、町が見えてきた。


 幸いと言うべきか、そもそも存在しないのか、道中モンスターらしき敵との遭遇は無かった。それどころか、虫や鳥といった生命を見かけていない。

 ゲームの世界なので、存在していても生命と呼べるのかはいまいち不明だが。


 丘を越えてからは、ものの5分程度で町に着いた。

 アイズの町には関所などはなくすんなりと入ることができた。それれほど大きな町でもないが、RPGなどである村よりも賑わいを見せている。

 

 人が居る。NPCだと分かっていても……本当に?

 行き交う人々、談笑する人。働いている人、木陰で休んでいる人、各々が見せる表情、感情に作り物は無いと思ってしまう。


 田舎から出てきたお上りさんの如く、(ほう)けた顔で中性ヨーロッパ風の町並みを歩く。

 すると屋台からお腹のすく良い香りが鼻腔をくすぐる。同時にお腹もぐ~~と鳴く。


「いらっしゃい! お兄ちゃん見ない顔だね。この町の名物なんだ! 1本どうだい?」

 差し出されたそれは、なんとも(こう)ばしい香りに香辛料の独特な風味を醸し出す、焼き鳥に似た料理だった。

 お腹のすき具合もさらに加速し、今すぐかぶりつきたい気持ちを抑え、冷静に思考する。自分が文無しであることを。


「ちなみに一本おいくらですか?」

「そこに書いてあるだろ? 1本銅貨2枚だよ。なんだい文無しかい?」

「あ……、いや……」

 急いでお金をさがす。


 ステータスウィンド、アイテムボックス、プレゼントボックスのどこにも見あたらない。

 だが、ふと気がつく。ポケットの膨らみに、そして自身の服装が違うことに……今更。

 ズボンの右のポケットから麻布の袋を取り出す。中には銀貨と思われる硬貨が5枚入っていた。


 この世界の貨幣価値が分からない以上、下手に支払いはできないが、空腹には逆らえず、手が勝手に支払いをしていた。

「これで買えるだけ」

「気前がいいね兄ちゃん。1本サービスしとくよ!」

 そう言い、屋台のおばあさんは6本の串焼きを売ってくれた。


 口いっぱいに外はカリカリ、中はジューシーの香ばしい肉をほおばりながら、噴水近くの木陰で一息つく。

 1本銅貨2枚。銀貨1枚で5本と言うことは、日本円に換算すると、銅貨1枚10円。銀貨1枚100円だな。分かりやすい。

 それに、言葉も文字も日本語だったな……まあ、制作者もプレイヤーも日本人だから当たり前か。


 満たされたお腹をポンポンとしながら、

「さて、これからどうするか……」

 と、独りごちる。


「お兄さん、行く当てないの? なら、うちの宿に泊まりなよ」

 アールの独り言に返答するように後ろから声を掛けられる。

 振り向くとそこには、中高生くらいの女の子が笑顔で立っていた。



 時を同じくして、某国、王城。

 豪華な装飾品が至る所に施された廊下を一人の兵士が、血相を変えて走り抜ける。

 ある一室では、煌びやかな衣服を身に(まと)った中年から高齢の男性達が、真剣な面持ちで話し合っている。


 先ほどの兵士が勢いよく扉を開け放ち、間髪入れず

「た、大変です!!」

「貴様! ここがどのような場かわかっているのか?! 控えろ!!」

 兵士が緊急事態を告げに来たのは、この国の王様含め貴族や大臣などが集まり、国の行く末を決める定例会議の会場だった。


「よい、オズロット公! 何があった?」

 頭を垂れ、跪いて兵士は報告する。

「は! 観測班より報告あり! 観測地点Bに高出力の生体(エネルギー)反応あり!」

 兵士の報告を受けた王含め、貴族達はざわめいた。


 ざわざわと各自で話し出す貴族達を一喝し、場を静めた王は、兵士に説明を促す。

「観測地点B、東の草原地帯にて、半刻ほど前、高出力の生体反応を観測。観測班によると、その後、アーティファクトと同様の反応も数秒有りとのこと。現在は移動した模様ですが、方角からして、アイズの町に向かった模様です!」

 報告ご苦労と、兵士を下がらせる。


 貴族達の視線が王に集まる。

 最初に沈黙を破ったのは、王では無く、先ほど忠告を受けていたオズロット公だった。

「アルブル王よ……」

「ああ、急がねばな……、東の連中に先を越されるまえに。大至急だ!」


 アルブル王の大号令により、貴族を始め城内は慌ただしくなった。

 会議室にアルブル王ただ一人になり、大きなため息を付く。心労が祟ってのものなのか、これから起こる事態にたいするものなのか……。


「アーシャ居るな?」

「ここに」

 王以外誰も居ないはずの部屋の隅から、フードを目深にかぶった人物がスッと出てくる。

「監視と報告を頼む。気取られるなよ? 最悪の場合殺すことも厭わない」

 アーシャと呼ばれた人物は軽く会釈をし、また忽然と姿を消した。そしてアルブル王はもう一度大きなため息を付く。



 アイズの町中央広場。

「お兄さんは旅人? それとも冒険者?」

 異世界人(プレーヤー)なんて言っても分からないだろうな、なんて考えながら、どう答えたものかと苦笑する。


「えーっと、君は……」

「あ、そうね! まず私から名乗るべきね! 私はクミン。直ぐそこの酒場兼宿屋の娘なの」

 栗色の髪をなびかせ、髪と同じ色の瞳を爛々と輝かせ、元気いっぱいに挨拶する。

「あー、だからさっき泊まらないかって」

「そう! お兄さんこの辺の人じゃないでしょ? だから宿をおさがしかなーって」


「なるほど、助かるよ。僕はアール。さっきの質問だけど……今は無職かな?」

 苦笑しながら答える。まー、嘘ではないしね。

「だからあんまりお金なくて……宿代って幾らかな?」

 年下であろう彼女に聞くのは実に惨め、と言うより恥ずかしい。


 クリア方法又はログアウト方法が確立しない限りこの世界に留まり続けなければならないので、今後は資金の工面なども考えなくていけないと、途方に暮れる。

 ステータス画面や世界観、先ほどのクミンの発言を考慮すると、やっぱり冒険者かなぁなんて考えていると

「アールさんですね! 安心してください! 安くしときますよ! そうですね……銀貨1枚で一泊と、うちの酒場での簡易的な食事付きなんてどうですか?」


 この世界の宿屋の相場が分からないが、日本円にして100円で一泊食事付きは破格の値段なのは間違いない。それにこの子からぼったくろなんて意思は感じられ無い。

「ならそれで、3日分お願いできるかな?」

「ありがとうございます! では、早速ご案内しますね!」


 衣食住の食と住を3日分確保できたのだから、その間に今後の方針を考えることもできるだろうと、安易な考えで、残り4枚の銀貨の内3枚を消費する。

 宿屋に行く道中、世間話程度にいくつか質問をしてみた。


「どうして、僕がこの辺の出身じゃないって分かったの?」

「あー、それはですねー。髪の色と……雰囲気ですかねー」

 言われてみれば、周りの人々に黒髪の人がいないなーと思う。あと、雰囲気というのは気になるところだが、しつこく聞くのは止めておこう。


「……えぬ、いや、この辺にアイテムショップとか、冒険者ギルドはあるかい?」

 根幹をついたゲーム用語を使ったり、それに関して聞くのはなんとなく良くない気がして、出かかった言葉を飲み込み、無難な質問をしてしまう。

 彼女たちをどうしても、ただのゲームに登場するキャラの1人とは思えない。話しかけなければ話すこともできず、話す内容は、決められた台詞をただ永遠と繰り返す。そんな一昔前のゲームキャラ。主人公の行動次第でストーリー分岐して、その内容によって台詞も変わっていくゲームとも違う。


 ここは本当にゲームの中なのだろうか? そんな疑問が心の片隅からはなれない。


 周辺地図があるらしいので、後で見せてもらえることになった。

 そうこうしているうちに宿屋に到着した。


 一階部分が酒場になっているようで、まだ日の高い時刻でもガヤガヤと賑わっているようだ。

 二階からが宿泊できる宿屋になっていて、酒場に入って直ぐに二階に上がる階段が左手にある。二階に着くとカウンターがあり、クミンが受付用紙をカウンターの反対に回り、差し出してくる。


 用紙は簡易的な物で、名前と宿泊日数を記入するものとなっていた。

 記入した用紙と、銀貨3枚をクミンに手渡し、代わりに部屋の鍵を貰う。部屋は102号室だ。

 部屋に入る前に、クミンから後で下の酒場に顔出してね、と言われた。


 部屋の中は簡素化されていて、簡易的なベッドが1つに引き出しの付いた机、コートなど入れておけそうなクローゼットだけという感じだ。あと、窓が1つ。

 ベッドに腰掛け、ようやく落ち着いて状況整理できると思うと、張り詰めていた気が抜けたのか、段々瞼が重くなり、いつの間にかアールは眠ってしまった。



 



 



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