二条城超太郎はステータス・オープンを知りたい
構想1日、創作2日。
世の中が暗くなってるので少し明るい話を書いてみようと創作しました。
これからとある男に会いに行く。
会いに行くというより注意しに行くといった方がいいだろう。
なぜ注意しに行くかといえばそれは私がこの街の治安を守る騎士団に所属しているからだ。
民の訴えを聞き、治安の守るのが役目なのだから当然といえば当然だ。
それでもやはり足取りが重い。
なぜなら相手は数日前にこの街にやってきた異世界人。
こちらの常識が全く通じない変わり者だ。
「あら騎士のお嬢ちゃん。今日は顔がすぐれないね。大丈夫かい?」
「ええ、ちょっと最近街に来た、超太郎という――」
「!?――シュバッ!!」
奴の名を発しただけで近所のおばさんが逃げ出した。
わかっていたことだ。民たちは皆あの男を恐れている。
なにせ出会ってすぐにいろいろ、いろいろ……本当にいろいろやらかしているからな。
ある人は彼をヘンタイだという。
またある人は彼を連続殺人鬼に違いないという。
とにかく異様な雰囲気から怖がっているのだ。
「はぁ~、なぜ私なのだ。団長とあに……副団長も逃げるし……」
足取りは重いがそれでも奴のいる場所に着いた。
街の憩いの場である広場だ。
中央に噴水があり、その周りで子供たちが遊んでいる。
あの男はどこだと、あたりを見渡す。
――あ、居た!
オープンカフェの店外テラス席に座る奴を発見した。
その店の前まで来たら、奴のほうから声をかけてきた。
「これはこれはメリークリスマス。《鑑定》」
出会い頭に両手の指で四角い枠を作り、そこから覗き込むようにこちらを見て《鑑定》のスキルを発動させた。
スキルとは魔物に対抗するために神の力を少しだけ分けてもらったものだという。
この男はその中の一つである《鑑定》のスキルを異世界からこちらに来た時に手に入れた。
スキルには二つのタイプがある。
一つは神々の祝福によりもたらされる先天性のスキル。
いわゆるユニークスキルと呼ばれるもので、《鑑定》や《魔眼》、《火炎放射》といった特別な人や魔物が有するものだ。
残念なことに魔物たちも魔神という一柱から似た力を得ている。
もう一つが後天性スキルで《剣術》や《料理》など努力をすれば手に入るものになる。
努力すれば誰でも手に入れられるのでコモンスキルとも呼ばれる。
そうなると生まれた時に神々の祝福であるユニークスキルをどれほどもらっているかが一種の地位や名誉になるのは言うまでもない。
神に愛された者がユニークスキルを貰える。
まるで自分自身の存在価値がユニークスキルで決まるような気がして、そこが好きになれない。
こんな性格だと最初から見透かされていたのか、私はユニークスキルを得られなかった。
いかんな。これではひがみではないか。
そんな愚痴よりも今は目の前の男を注意しなければいけない。
「おい、超太郎。前も言ったように所かまわず《鑑定》しまくるのは止めろと言ったはずだ」
「この二条城超太郎もそこは申しわけなく思っている。だがスキルというものが何なのか知るためにも実際に使ってみないといけない」
手で作る窓越しに私を見透かすかのように、そう言うのだった。
言っていることは一理ある。
私だってスキルを獲得したら試したくなる。
それに神々から授かったスキルを使うなとは誰にも言えない。
人を殺めるなどの重罪でない限り、スキルを使うなというのは神の意志に反するからだ。
「それでも、近隣の住民から怪しい男が子供たちを凝視しているから注意してくれと頼まれた、だから少しは《鑑定》を控えてくれ」
「ほう、この街にいまだにこの私、二条城超太郎を知らない者がいるとは思いもしなかった、ぞ」
二条城超太郎、それが目の前の男の名前だ。
「……ああすまんウソだ。本当は二条城超太郎が今度は子供を見つめていてコワいから来てくれと言われたんだ」
「こわい……この私がコワい。こんなにフレンドリーなのにコワい……」
なんかショックを受けているようだが、ほんとうにコワいのだからしょうがない。
「もしや……ステイタス☆オープン」
――――――――――――――――――――――――
名前:二条城超太郎
性別:男
職業:二条城超太郎
年齢:33
レベル:1
体力:1
魔力:1
持久力:1
筋力:1
脚力:1
頑強力:1
知力:1
運力:1
スキル:《劇画調》、《鑑定》
称号:《転移者》
魔法:《生活魔法:D》
――――――――――――――――――――――――
急に超太郎がステータス・オープンをして自らのステータスを空中に表示した。
ステータスというのは自分の能力を知ることができる神の恩寵の一つだ。
これと対になるのが《鑑定》で、他人のステータスを見ることができる。
「これだ。これ、見たまえこの《劇画調》というスキルを、これが私が恐れられている原因だろう」
趙太郎はそう言いながらスキル欄の《劇画調》を指さして見せつける。
たったそれだけの動作でも、やはり圧を感じるのかコワい。コワいよ。
できるだけ超太郎の方を見ないで、スキル欄をマジマジと見る。
たしかにこんなスキルは見たことも聞いたこともない。
「なんなんだこのスキル《劇画調》というのは?」
「分かりやすく言うと、この二条城超太郎は劇画調の世界から来た男、ということになるな」
「だからその劇画調って何なのよ!」
「そうだな深く考えないほうがいい。少々濃ゆい顔つきの人類が大勢いる世界だと思えばそれで正解だ」
「…………濃ゆい……大勢……見渡す限り超太郎…………う、頭が……」
「おやおや、どうやら全員が私の顔の世界を思い浮かべたようだな。だがそう言う意味ではない。証拠にスマホに残っている私の世界の写真を見せてあげよう」
そう言って四角いギルドカードのような物を取り出した。
これは出会ったばかりの時にも見せてもらったな。
その画面を覗くと、超太郎並みに濃ゆい集団が映し出される。
「やっぱ全員濃ゆいじゃないか!!」
「つまりだ。顔が濃ゆいと言ってもそれは君たちと比較すればという話だ。私のいた世界ではこれが普通、これが平均だ。わかったか異世界のっぺり顔族よ」
「誰がのっぺり顔族だ。お前こそ濃ゆい顔族じゃないかっ!!」
「とにかく私は子供たちの成長を見守るのに忙しいから話は夕方になってからにしてくれ」
「さらっととんでもないことを言った!?」
「何を驚いている。大人が子供を見守るのは当然のことだろう?」
「それは社会的に信用を得た大人がいうセリフであって、ある日まったく価値観の違う世界から来た人間がいうセリフではない!」
やはりこの男、変態か!?
異世界人とは変態が多いとは聞いている。
ある時は「ケモミミキター!」と叫びながら発狂し、
またある時は「エルフ! エルフ! エロフ!」と叫び、
しまいには「姫騎士バンザイ!」と雄たけびを上げる。
すこしだけ紳士的な対応をしていてもやはり変態か!
「ふむ、どうやら何か勘違いをしているようだね。私は別に子供をどうこう考えているわけではない。まずはこれを見てもらおう」
そう言うと超太郎は噴水広場で遊ぶ子供たちに変なポーズをとる。
「前から聞こうと思っていたのだがその四角いポーズは何なんだ?」
「これは二条城超太郎が《鑑定》をしていると周囲にわかりやすく意思表示するためのポーズだ。私の世界ではこれをシャッターポーズという」
「そうか。もう疲れたからツッコまないぞ」
超太郎はシャッターポーズをして、《鑑定》のスキルを使用した。
「いまだ。ダブル《鑑定》!」
そして二人の子供のステータスが浮かび上がる。
――――――――――――――――――――――――
名前:カイト
性別:男
職業:子供
年齢:5
レベル:1
体力:7
魔力:4
持久力:8
筋力:5
脚力:5
頑強力:4
知力:2
運力:12
称号:アリシアちゃん大好き
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
名前:アリシア
性別:女
職業:子供
年齢:5
レベル:1
体力:4
魔力:15
持久力:3
筋力:2
脚力:2
頑強力:2
知力:4
運力:24
称号:カイトくん大好き
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あ、初恋称号がついてる。
これ子供の頃はいいんだけど、10歳を迎えるあたりで恥ずかしすぎて称号を外すの教会にお願いするんだよね。
たま~に、大人になっても残し続ける猛者がいて、そのままゴールインすると永遠に幸せになれるっていう、最強のバカップル称号「神々の祝福・幼馴染とゴールイン」が付く。
ああ、甘々マシマシ青春の称号。
「見たまえ、この2人のレベルと各ステイタス値を、この二条城超太郎よりもはるかに高い」
「そうね。ちなみに大人の平均値は100前後よ」
「それは素晴らしい情報をありがとう」
「どういたしまして、けど子供なのだから値が低いのは当たり前よ」
「ならば次はあの老人だ。あの老人にしよう。彼のステイタスを《鑑定》で暴いてみよう」
「別に本人に聞けば教えてくれると思うのだけど……」
そう言いきる前に《鑑定》を発動させた。
――――――――――――――――――――――――
名前:ヴァン
性別:男
職業:老人
年齢:98
レベル:99
体力:3
魔力:556
持久力:4
筋力:3
脚力:2
頑強力:1
知力:3
運力:60
称号:痴呆、徘徊
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あちゃ~ヴァンおじいちゃんついに痴呆と徘徊になっちゃったか。
「ううう……今日はダンジョンへ探索に出て……夕飯の食材を手に入れるのだったかの?」
ヴァンおじいちゃんは70年ほど前に魔法剣士として活躍していた。
富と名声を得ていたが、パーティーが解散した40年ほど前からこの町でひっそりと暮らしている。
最近は物忘れがひどく、たまに冒険者だった時を思い出して勝手に冒険に出ようとする困った人でもある。
後でリアナさんの所に送ってあげよう。
リアナさんはかつての仲間の一人であるエルフの女性だ。
今はこのヴァン老人の介護をしている。
たしか1017歳で、この前会ったら介護疲れで少しやつれていた。
それでも二十代の若々しい女性という見た目だった。エルフ恐るべし。
「見たまえレベル99なのに子供よりもひ弱なステイタス!」
「老人だから当然でしょ!」
「それでも魔力がかなり高い!」
「魔法剣士だからそんなものよ!」
「運力がこの前《鑑定》したときより上がっているな!」
「今日いいことがあったんでしょうね!」
「つまりステイタスの数値はレベルとは関係なく、別の要因によって上下することを示唆しているのだよ。クリスマ~~ス!」
なるほど何となく彼が疑問に思っていることがわかってきた。
「つまりステータスの値がいつ変わるのか成長期の子供を《鑑定》して調べていたのね」
「そういうことだ。まあ、単にむさいおっさんより子供を眺めている方が好きということもあるがね」
「やっぱりただの変態じゃないか!!」
「変態とは失礼な。この二条城超太郎は普通の紳士だ。やましい気持ちなどない」
「……はぁはぁ……もう疲れてきた……」
「どうやらツッコミのし過ぎで息切れをしているようだし、ここのカフェで何か飲み物を頼むといい。アップルティー!」
そう叫ぶと同時に店員がやってくる。
「失礼します。ご注文のコーヒーになります」
「ああ、ありがとう。アップルティー君もどうだい?」
「はぁはぁ……誰のせいで疲れてると思ってるの。私もコーヒーでお願いします。ちょっとヴァンさん連れて来るから待ってて」
とりあえずヴァンおじいちゃんをイスに座らせた。
「うぅ……むにゃむにゃ」
すぐに寝てしまった。
超太郎はというと、コーヒーのグラスをハンカチで拭いている。
そのあとすぐにスプーン、角砂糖のつまむアレ、そしてストローとハンカチで拭く。
「すまないな私はどうもこういう誰かが出した物というのは拭かないと気分が落ち着かないのだ。それから外のイスなんかもハンカチを敷いてその上じゃないと座れないのだよ。この二条城超太郎とはつまりほんの少しだけ潔癖症なんだ」
いや、十分に重度の潔癖症だよ!
「それからモノの配置も気になってね。こうキレイに等間隔に置かないと気になってしょうがない」
そう言ってコップ、角砂糖の奴、伝票などをきれいに置いていく。
まあいい、超太郎がこういう性格だというのは初めて会った時に知っている。
たしかゴブリンに追われて、助けて、スライムに死ぬほど絶叫していたからよく覚えている。
彼がコーヒーを飲み終わるのは少し時間がかかりそうだ。
その間に、どうやって彼をここから移動させるか。
つまり彼がここに居座っているのはステータスがらみだ。
そこさえ納得すれば子供たちに《鑑定》をしなくなるだろう。
つまりステータスについて答えを教えれば帰ってくれるということになる。
「……それなら、ステータス教の教会に行けば神父様がその疑問に答えてくださる」
「ステータス教? なんだその面白そうな宗教は、メリークリスマス」
「とりあえずヴァンおじいちゃんを家に送り届けたら連れて行ってあげる。それから――」
「それから?」
「さっきから私の名前で遊ぶなこのバカ者!」
そう先ほどからこの劇画調の男、二条城超太郎にシャッターポーズで《鑑定》をされ、彼の奇妙な言動に突っ込み続ける。
私の名はメリークリスマス・アップルティー。
街の治安を守る女騎士だ。
◇
「とりあえず《鑑定》!」
――――――――――――――――――――――――
名前:メリークリスマス・アップルティー
性別:女
職業:騎士
年齢:秘密
レベル:25
体力:300
魔力:120
持久力:322
筋力:320
脚力:180
頑強力:1655
知力:45
運力:8
称号:《警備隊所属》、《地獄耳》
――――――――――――――――――――――――
ヴァン老人を家まで送り届けてから、教会へと向かう途中。
道すがら超太郎は《鑑定》をしてきた。
「む? 年齢が秘密だと……」
「乙女の年齢を聞くのは野暮よ」
ステータス・オープンで表示される内容と《鑑定》で表示する内容は大体同じになる。
そして表示されて困る内容は見せないことができる。
特に騎士団に所属するとスキルや魔法に関しては見えないようにできる。
誰だってとっておきの奥の手は隠すものだ。
それをこれ見よがしに表示する人がいたら、ただのバカだろう。
「ふむ、どっからどう見ても18ぐらいにしか見えんがな」
「!?」
なぜバレた!
「なぜという顔をしているが普段の会話の流れでこの前自分で申告していたぞ」
マジか……まあ騎士団の新米とかいろいろ茶化されてるからすぐに察せるか。
この手の秘密は年齢が気になる年ごろに使うものになる。
私は何となく使って見たくなる年頃だ。
「ごほん……いい、ステータス・オープンは出入国なんかの検問所などで必ず表示しなければいけないの。例えば隣国のスパイや罪人が侵入したって噂が流れたら抜き打ちで住民全員を検査する場合もある」
こういう時にステータス・オープンは便利だ。
もっとも壁の外に魔物がいるおかげで隣国とは基本的に友好関係を築くことができている。
スパイや罪人が流れて来るのは珍しい。
この魔物の量と質そして被害が絶妙で、侵略戦争をすると国を維持できずに損をして、貿易ならばギリギリ利益が得られる。
高名な学者がいろいろ調べた結果、そんな感じの結論になった。
「つまり《鑑定》で見られて困る人はいないという前提で社会が回っているのだな」
「そういうことだ。他にはギルド登録時にダンジョン入場申請、他には成人の儀にお見合いの儀、入学式に卒業式、人によっては宴会芸で見せびらかす人もいたりする」
「ほう、宴会芸……なるほど……腹芸のようなものか……」
この男が変態の可能性があるから言わないが、さらには夜間に真っ裸になり、局部だけをステータス・オープンで隠す。
――という高レベル変態不審者もいたな。
いかん、変態について考えを巡らせてしまった。
「ごほん……それでも人によっては不快に思う人もいるから、《鑑定》は知人ぐらいに留めておくべきだ」
「なるほど覚えておこう。この二条城超太郎もステータスについて分かれば積極的に《鑑定》を使う理由はない」
胸を張りながらそう言いきる。
「それにしても、なぜかこの街では不審者扱いで、いい加減ウンザリしているところだ。この二条城超太郎は平穏な日常とスローライフを信条とするただの一般人だというのに」
そう言いきって、やれやれというポーズをする。
「お前は日常とは正反対の人間にしか見えんぞ」
まあ、この男の場合は顔の圧が凄すぎるのが不信感の原因なんだが――。
まあ、顔が濃ゆい以外はそう悪い人じゃなさそうだし、今のところは信用しておこう。
◇
丘の上の教会。
古代に預言者が神々に祈りを捧げる祭壇が始まりとされる。
そこから時代と共に祭壇が神殿になり、世界中に信仰されるようになると伝説にあやかって丘の上に教会を作っていった。
街の権力者たちが教会に多額の寄付をして建てるのが一般的なので、その教会の豪華さで権力者の財力を見ることができる。
この教会は先々代領主様が建てたものになる。
特にステータス神を象った女神像がこの街の人々に長らく愛されている。
「ほう、なんという美しい女神像だ。これは大理石彫刻か……まるで今にも動き出しそうなリアリティのある、魂が宿ったかのような素晴らしい芸術だ」
「この街のシンボルだからな」
この街に住む人はこの女神像を自分のことのように誇る。
そして訪れた人が褒めるとまるで自分のことのように嬉しくなる。
「だから即刻あの女神像を破壊するべきだ!!」
…………え!?
「まあまあ、落ち着いてください」
教会の奥から怒鳴り声が聞こえる。
超太郎と二人で向かうと、神父様ともう一人は確かマキシム派の信徒だったか。
ステータス教はいくつかの宗派に分かれているのだけれど、この街の主要な派閥は二つになる。
一つは預言者の言葉を人々に広める福音派、もう一つはステータス値や称号を大量に得るために活動するマキシム派。
目指す方向性がまるで違う二つになる。
論争は巻き起こるが暴力沙汰にならないのは壁という逃げ場のない世界に私たちはいるからだ。
だからできるだけ協調して生きていくことにしている。
それでも争いが全くない訳ではなく、このような口論はしょっちゅう起こっている。
「我らの考えではステータス神は男神である。ならば女神像は即刻破壊して、この筋肉隆々のステータスみなぎる石像に変えるべきだ!」
そう言ってマキシム派の男が等身大のマッチョ像を指さした。
このマッチョをどうやって持って来たんだ?
実は細マッチョなのだろうか?
それを見て神父も苦笑いをしている。
「ってなんでこんなマッチョ像を女神像の代わりに崇めなければならないのだ!」
しまった。騎士団は宗教に関して中立の立場なのだが、ついツッコんでしまった。
「むむ、騎士団か。ふん、邪魔が入ったので今日の所は帰るとしよう」
そう言ってそそくさとマキシム派が帰っていった。
「おお、こちらの筋肉像も荒々しいが見事なサイドチェスト。しかし女神像の神々しさと柔肌と見間違う質感と比べると……ぶつぶつ」
超太郎はなぜか彫刻ソムリエになっている。
だが女神像の方がいいというのは賛同しよう。
「これはこれはメリークリスマスさんに噂の異世界人ですね。はじめましてこの教会で神父をしていますシファーと言います」
神父様は先ほどの口論を誤魔化すように挨拶する。
「こちらこそ本日はお会いできて光栄です」
な、超太郎がまともだ!??
「わたくしは――こういう……こうい、う……」
そこで超太郎の動きが止まった。
そう言えば出会った時に名刺を切らしていると嘆いていたな。
たぶんギルドカードと似たような物で、それが――。
「…………ステイタス☆オープン」
――――――――――――――――――――――――
名前:二条城超太郎
性別:男
職業:二条城超太郎
年齢:33
レベル:1
体力:1
魔力:1
持久力:1
筋力:1
脚力:1
頑強力:1
知力:1
運力:1
スキル:《劇画調》、《鑑定》
称号:《転移者》、《ステータス・オープンを名刺にする者》
魔法:《生活魔法:D》
――――――――――――――――――――――――
「――こういう者でして、名は超太郎。二条城超太郎と言います」
さっそくステータス・オープンを名刺代わりにしたよ!!
「これはこれは……ステータス・オープン」
――――――――――――――――――――――――
名前:シファー・ルルランド
性別:男
職業:神父
年齢:45
レベル:15
体力:100
魔力:100
持久力:100
筋力:100
脚力:100
頑強力:100
知力:100
運力:100
称号:《ステータス・オープンを名刺にする者》
――――――――――――――――――――――――
負けじとステータス・オープンを提示する神父様。
「――ってなんで神父様もステータスを出してるんですか!!」
「ほほほ、私は神父の傍ら古文書学をたしなんでいますので――かつて読んだ古文書によりますとはるか昔、人々はステータスを見せ合うことで信頼を得て壁を建てたといいます。それは現在にも通じる事です」
そんなこと初めて聞いたわ!
そもそも壁の中で生活していたら右も左も知人しかいない。
ステータスを見せ合うとかカイト君とアリシアちゃんみたいに――初恋称号を晒すことになって普通に恥ずかしい!
そう、みんな子供の時に初恋称号晒して恥ずかしい思いをしてステータス・オープンを恥ずかしがるんだ。
だからどうしても壁の外を移動し続ける商人とか、冒険者になりたがらないのよね。
「本日は、このステイタス・オープンについて知りたくこちらにお伺いした訳です。もしよろしければご教授いただければ幸いです」
「ええ、いいでしょう。迷えるゴブリンを教え導くのも我ら教会の役目、喜んで教えましょう」
迷えるゴブリンというのは外の世界に徘徊している魔物のことだ。
人はちゃんと教育しないとゴブリンになると昔から信じられている。
そのせいで騎士になるための鍛錬中にしばしば兄にヘッドロックされて教会で――勉強させられた。
いけない、昔の嫌なことを思い出した。
それでも神父様に色々教わったので、いい思い出だ。
その神父様がステータス教とステータスについて語りだした。
◇
ステータス教、はるか太古の時代に神々が一人の預言者にお告げをした。
『汝、ステータスを見て己を悔い改めよ』
その時から人々はステータスを見ることができ、自らの内面と向き合うすべを学んだ。
さらに預言者はこう述べた。
『汝、己を見つめ自身のあるべき姿を魂に刻み込め。さすればステータスに反映されるだろう』
その日から名前、性別、年齢、職業がステータスに反映されるようになる。
そして――。
「ちょっと待った。つまり職業が変なのは私自身が、二条城超太郎を天職と考えているから、ということか」
そう言って神父の説教を中断した。
たしかに今の話からするとそう言うことになる。
たまーに職業欄に変な人がいるのはそのためか。なっとく。
「そうなります。ただし罪人などは私どもの方で職業を固定させることもできます」
「なるほど、ならば――ふんっ」
なぜか超太郎が力むと、ステータスの表示が変化した。
――――――――――――――――――――――
名前:二条城 超太郎
性別:漢
職業:紳士
――――――――――――――――――――――
「ってなんで性別が漢になってるの!」
「ふむ、どうやらマッチョ像の影響で漢に変化したようだ。この二条城超太郎は実のところ周りの影響を受けやすいミーハーな男でもあるのだよ」
そう言ってフッと笑う。
「いやいや普通そんなことでステータスを変化させられるわけないでしょ。いい加減にして!!」
「迷えるゴブリンたちの中に流されやすい人は確かにいます。しかし自らの心を偽る行為は神への偽証にあたります。くれぐれも自分を偽らないように注意してください」
「普通なら魔教審問官の尋問受けるような内容だ!」
「それは困るな。この二条城超太郎は平穏な生活を何よりも求める一般人だ。その私にとって嘘偽りの人生を歩むことは苦痛でしかない。これからは平和なスローライフのためにも善処しよう」
そう言いきるとステータスの漢が男に変化した。
それにしても魂に刻まれた情報が変化するって、この男は天性の詐欺師か何かか?
やはり異世界人は要注意だ。
「こほん、それでは次に移ります――」
神父はそう言って次の説教へと移る。
『我らが父のために魔の物を狩れ、さすれば主はそれをいつも見てくださるだろう』
そう預言者がいった時から、魔物を倒した質と量がレベルという数値で表されるようになりました。
弱い魔物を大量に倒せばレベルが上がり続けますが、そのうち頭打ちになります。
そこからはより強い魔物を倒さないと上がらなくなります。
「――例えばメリークリスマスさんのレベル25辺りが街の周辺の魔物を倒して上がる上限になりますね」
「うむ、神父様の言うとおり、これ以降はより強大な敵を倒さないと上がらない」
「ほう、そう考えるとヴァン老人のレベル99は流石は冒険者といったところか」
「ええ、ヴァンさんは昔は腕利きの冒険者でしたからなぁ」
神父が遠い昔のことを思い出すかのように懐かしむ。
もっともこの討伐のレベルに上限はないらしいので、一般人にとってのスゴイと魔物狩りの専門家にとってのスゴイは全然違うらしい。
私は街の中が主な任務地だからレベルがこれ以上あがることはない。
「おやおや、そうなるとレベルとステイタス値には何ら関係が無いということになるが、この辺はどうなっているのかね?」
「昔は関係があると言われてきましたが、特に関係ないことが立証されております」
「そんなの関係ある訳ないだろ。そうでなければ筋力500の老人がうっかり転倒しただけで大惨事になってしまう」
この辺も異世界人対策マニュアルに書かれている。
異世界人はなぜかレベルが上がれば肉体の成長するという非常識を持っている。
レベルとステータスが連動するとかあり得ないだろ、常識的に考えて。
「それではステータス値について話を進めましょう――」
『汝、父母そして愛する者のために活発に活動せよ。さすれば魂に刻まれるだろう』
また――。
『月の女神の満ち欠けによる刻が巡った時、汝の魂は浄化される』
こうして日々の運動量がステータス値に反映され、それは月の満ち欠けが一回りする一ヵ月分の平均を指します。
「なるほど、つまりこのステータスというのは万歩計みたいなもので、一ヵ月分を克明に記録するから仕事サボんなということだな」
「万歩計って何よ!?」
「万歩計とはこのスマホのアプリにあって、歩いた分だけ歩数を記録するものだ」
そう言って例の分厚いスマホカードを取り出して万歩計を表示する。
歩くたびに数値が増えていることが何となくわかる。
ああ、たしかにそんな感じだな。
神父様も同じように思ったらしく、終始頷いていた。
「ええ、ええ、万歩計と同じですね」
「そうだ超太郎。マキシム派みたいにいきなり街中で筋トレされても困るので先に言っておくが、毎日腹筋、腕立て伏せ、スクワットを各30回とランニング5kmを毎日続ければ、一カ月後には平均100にだいたいなる」
「なるほど、それはいいことを教えてもらった」
ここから原義の”活動せよ”を「ちゃんと仕事しろ」と解釈した福音派、と「ステータスだけを上げ続けようぜ」マキシム派に分かれる。
そしてマキシム派が筋肉マッチョが多いのも筋トレ以外しないからに他ならない。
とてもどうでもいい話だ。
「ただし頑強力だけは別枠でして、別名『くっ殺指数』と呼ばれています。粘り強さ、相手に屈しない力、女騎士の採用基準として使われています」
「ってシファー殿何言ってるんですか!!」
「なるほどそうなるとドM指数でもあると」
「ええ、そうなります。ですのでこの数値の高い人を見かけたらそっとしてあげてください」
「そう言えば頑強が1655の人物を一人……」
そう言って二人が私の方を見た。
「ちょちょ、待ってください。私はそんな話初耳なのですが」
「それは貴女がいつも訓練に明け暮れて、説教の時はほとんど寝ているからでしょうね」
ドM……私がドM、そんなことはない。
そんなこと断じてあり得ない。
「つまり先ほど道中で鑑定したときにステータスを見た周囲の人々は、彼女がドMだと周知してしまったのか……申しわけない」
「はぁうぅぅっ」
な、なんだこの心の奥底から発せられる熱い物は……はぁはぁ。
これはなんかヤバイ。熱い。
……なんかヤバすぎりゅ。
「ちょ、ちょっと顔を洗ってくりゅ……」
心だ。心に大ダメージを受けた気がする。
とにかく頭を冷やそう。
教会の井戸から水をくみ上げ、その水で顔を洗う。
目をつぶり、過去を思い出す。
うん、寝てたな。ずっと寝てたよ。
その度に兄に小言を言われ続けてきたよ。
はぁ~~、もう少し真面目に聞いとけばよかった。
「あら、可愛らしい一本毛が萎れてメリーちゃんどうかしたの?」
「これはシスター・ミカ。新しく来た異世界人を教会に案内していたのです」
「そう、あのウワサの人ね。人相がちょっと怖いような濃ゆいような……」
「ええ、そうです。そしてステータスを聞いていたら、いろいろ無知な自分を知ってしまいました……」
「あらあら、たしかにメリーちゃんはよく、おねんねする子だったものね」
「うう、申し訳ない」
「ふふ、そうやって足りないことに気がつくのはいいことよ」
そう言ってシスターは私のことを慰めてくれた。
ついでに生活魔法で髪を乾かしてくれる。
彼女はエルフとまではいかなくても長命人で、子供のころから目をかけてもらっている。
そして魔物や流行病で親を亡くした孤児たちのお母さんのような人だ。
「そうですね。いろいろ知れたので明日から鍛錬に打ち込んで、自分の弱い心を鍛え直します」
「あら、トレードマークのかわいい一本毛が元気になるのは嬉しいけど、鍛錬じゃなくて勉強をしましょうね」
それが苦手だから、鍛錬をする――少しだけ勉強を頑張ろう。
「そろそろ説教も終わるでしょうから、神父様の所へ行ってきます」
「ええ、頑張るのよメリーちゃん」
シスター・ミカと分かれて、教会内に戻るとどうやら説教は最後の方に差し掛かっていた。
「――ということで運力は一定期間の運の良さでしかなく、小銭を拾うとかすると上がり、イヌのフンなどを踏むと下がります」
運力まで進んだようだな。
この運力はギャンブルで不正をしても値が上がらないので、別名「嘘つきチェッカー」と呼ばれている。
なんとも面白い数値だが、日々の生活ではそうそう上がらないともいえる。
ちなみにマキシム派は運力の最大化を目論んで大抵破産するらしい。
「本日はステイタスをご教示いただきありがとうございます。またわからないことがあれば教えていただけますでしょうか」
「ええ、いいでしょう。いつでも来てください。教会と神々は常にあなたを迎え入れるでしょう」
「私の方も何かありましたらご連絡ください。いつでもお助けいたします」
超太郎が敬語を使っているとなんか違和感あるな。
TPOとは違和感の略なのだろうか?
「ああ、それでしたら一つお願いがあります」
「なにか?」
「この街に慣れるまで、休みの日にでもメリークリスマス君と一緒に行動してもらえますか」
「ぴゅっ!?」
突然のことに変な声が出た!
「ななな、なにを言ってるのですか。なぜ私がこの男と行動を共にしないといけないのですか!」
「それはですね。些細なことにも気がつき、知ろうとする超太郎殿と一緒にいれば貴女の見識も増えるだろうという。ちょっとしたおせっかいですよ」
「いやいやいや、そうじゃなくて――」
私は街の治安を守るのが任務であって、治安を乱す者と一緒にいること――それはむしろ治安のためにいいんじゃないか?
「こほん……実は副団長のお兄さんに相談を受けていたのです。このままでは妹がアホの子のまま嫁入り、むしろ婚約すらできないと……」
「お兄様ーー!!」
その日、教会でエムッ気があると認められ、さらに皆がそのことを知っていて、兄にアホの子認定されているという、真実を知ってしまった。
私の名はメリークリスマス・アップルティー。
知り合いにはよく「アホ毛がトレードマークで可愛いね」って言われる、この街を守る女騎士だ。
そしてこれから、顔の濃ゆい超太郎としばらく行動を共にすることになる。
どうしてこうなった?
◇
昨日は散々だったが、今日は休日なので早朝から超太郎の住まいへと向かう。
本当は鍛錬をしたかったのだが、兄に小言を言われそうなので逃げ出してきた。
まあ、仕方がない。
超太郎はここにきて間もなく、ひょんなことから大金を手にして街のある場所に部屋を買っていた。
ある場所と言っても人々が行き交う噴水広場の裏道にある酒場の二階だ。
一年前は一階がごろつきの酒場、二階が――つまり娼婦たちの仕事場だったところだ。
今の領主様がそういった場所を改革して、普通の酒場と住宅に変えた。
超太郎はその住人第一号になる。
――コン、コン。
「超太郎、入るぞ」
そう言ってドアを開けて部屋に入る。
部屋の中は殺風景を通り越して家具がほとんどない。
物置小屋からモノを取り除いたような状態だ。
「これはメリークリスマス。こんな早朝からどうしたのだね?」
超太郎はいつものようにスーツを着て、窓から外を眺めていた。
「お前が変なことをしていないか見に来た」
本当は兄から逃げてきた。
早朝ということもあり、ぶっきらぼうな返答になってしまった。
「ふむ、変なことか。それは朝から井戸で水くみをする子供たちに、《鑑定》していることも含まれるだろうか?」
そう言いながらシャッターポーズをとって《鑑定》をする。
「そう言うのを変態不審者って言うんだ!」
朝から何をしているんだコイツは!?
やっぱりヘンタイだ。異世界のヘンタイだ。
「誤解だ。昨日の頑強力――」
「うっ」
「あれはドM指数――」
「はぅ」
「以外にも子供たちの虐待指数にもなるらしい。それはそうだろう。子供というのは親に虐待されようと愛情に飢え、寄り添おうとする。ならばどれほど虐げられようと耐え続け、頑強力は上がるものだ」
「しょ、しょれはつまり――」
「ああ、シファー神父にお願いされたのだよ。《鑑定》で子供たちを見て、頑強力が異常に高い子供がいたら連絡してほしいとな」
「こほん……なるほど、つまり本当の意味で子供を見守っていたのだな」
「当たり前だろう。この二条城超太郎は紳士なのだから、弱きものに手を差し伸べるのは当然のことだ」
そう言いっても顔が濃ゆいのでどうも信用ができない。
コワいのだよ。コワいの。
「後ついでにステイタス☆オープンの新しい可能性を調べていた」
「なんだ、その新しい可能性というのは?」
また変な事じゃないだろうな?
「うむ、平たく言えばステイタスは身分。オープンは公開。とするなら《身分☆公開》で発動しないか試していた」
相変わらず細かいことが気になって変な方向性で調べる男だな。
だが、きのう神父様に見識を広めよと言われている。
この程度なら少しぐらい手伝ってもいいだろう。
身分公開、つまり言語を変えたのだろう。
むこうの言葉か……神々が世界にかけた祝福、《言語翻訳》でその辺のニュアンスがたまにこんがらがるのよね。
……あ!
「そこは単語が違うんじゃないか?」
「単語か……ならば《性別☆開業》、《性格☆開店》」
などと変な単語の組み合わせをしていく。
どうも違うようだ。
――ん? 単語の組み合わせ。
「待て、そう言えば超太郎は名前と氏名が逆だよな。順番を変えてみたらどうだ」
「なるほど、ならば……次で成功させる」
そう言うと超太郎は精神を集中させるために目をつぶる。
そして両の手を合わせて、祈りのポーズをする。
そこから今度は手の形をハート型にする。
なぜにハート型!?
そして言う。
「開け☆性癖」
「なんでそうなるっ!!」
――――――――――――――――――――――――
名前:二条城 超太郎
性別:男
職業:紳士
――――――――――――――――――――――――
▽ 性癖
――――――――――――――――――――――――
ゴブリン
女騎士
スライム
広告
スローライフ
子供
――――――――――――――――――――――――
あ、なんか出た。
◇
私はメリーちゃん。
いま彼から逃げているの。
「ヤバイ、超太郎ヤバイ」
何がヤバいって、ステータス・オープンの要領で性癖開いて、しかもその中に女騎士と子供が入ってるなんて……。
ヤバいしかない!!
とにかく街を縦横無尽に走り回って、あの男を撒く。
そして悟られないように教会へ行く。
そうだとも神父様に彼がステータスを貶めたと告発して、異端審問官を呼ぶのだ。
そうすれば超太郎で悩む必要がなくなる。
「ふふふ、そうだとも。これは街の平和を守るために必要なことだ」
多少遠回りしつつ、教会に着いた。
「はぁはぁ……し、神父さ――」
「今日という今日こそはこの男神に変えてもらいましょう!」
今度はマッチョ軍団を連れてマキシム派の信徒が神父に詰め寄る。
相変わらずマッチョ像に取り替えたいようだ。
「そう言われましても、私の一存で決められることではありません」
「シファー神父!」
「おお、これはこれはメリーさん。お見苦しい所を見せてしまいましたね」
「ふん、騎士団を連れてきても無駄だぞ。我々も熱心な信者を連れてきているのだからな」
「ふんぬー!」
「ぬんぬん!」
私を見るなり睨みつけて、威嚇なのか筋肉を動かす。
これだからマキシム派は――ってそれどころじゃない。
「そんな事より神父様! 超太郎が超太郎がっ!」
「彼ならあなたの後ろに居ますよね。どうかしたのですか?」
「なにっ!?」
真後ろには涼んだ顔の超太郎がいた。
「なぜだ……全力で、しかも行き先が分からないように十分に遠回りしたはずなのに、なぜお前は汗一つかかずに私の後ろにいる!」
「おやおや、なぜと言われれば私は君を追いかけたのではなく、ただ教会を目指してまっすぐ歩いていただけだからだよ。そもそも飛んだり跳ねたり走ったりするのはスーツを着たことのない子供のすることだ。この二条城超太郎はスーツを着る大人なのだから、君を追いかけるためにわざわざ走ったりしない」
それはそれでなんかムカつく。
だが今はそれどころじゃない。
「神父様、とにかくこの超太郎を何とかしてください! コイツはヤバイ奴です!!」
「あの、いきなり何とかといわれましても」
神父はとても困惑している。
なぜ信じてくれない。
――ポン。
超太郎が私の肩を叩いて、前に出る。
そして――。
「《フェティシズム☆ステイタス》!」
と叫ぶのだった。
――――――――――――――――――――――――
名前:二条城 超太郎
性別:男
職業:紳士
――――――――――――――――――――――――
▽ 性癖
――――――――――――――――――――――――
ゴブリン
女騎士
スライム
広告
スローライフ
子供
筋肉マッチョ
――――――――――――――――――――――――
その異様すぎるステータスが空中に表示されてその場が凍りつく。
その元凶はそのまま何食わぬ顔でシファー神父に語りかける。
「このようにステイタスを調べていたら新しい項目がでたのでご教授願いたい」
「……いや、あの……これはこれは……」
神父も喉がつまる。
「まあ議論のためにも私の考えを述べましょう。まずここに書かれている項目はすべて間違いです。私にこのような性癖はない、と断言できる」
「いや……えっと……私には何が何やら……」
神父は混乱している。
当たり前だ。私ですら混乱しているのだから。
「表示を信じないとは、なんというステータスへの冒涜。ここは神の鉄槌を我らが筋肉で為すべし!」
マキシムが相変わらず頭マキシムなことを言っているが、ステータスを信じない超太郎も悪いといえば悪い。
「だが事実だ。この項目に表示されているのはそこのメリークリスマス女史と会ってから今までに起きた出来事の羅列にすぎない」
そう言われて見れば、たしかに最初にゴブリンに襲われている超太郎を助け、次にスライムに出くわして…………。
……って皆が私の方を見ている。
ここでしらを切ってもしょうがないな。
「ああ、たしかにこの項目は前に起きた出来事になるな」
街の治安を守る者としてウソはつけない。
「ありがとう。つまり突然性癖のステータスを出せとオーダーされて困った神々がその場しのぎで表示させた内容の可能性が高い」
「そんな馬鹿な!?」
「嘘だろ……」
皆が絶句する。そして騒然となる。
私も突然すぎて話についていけない。
「付け加えるなら何を表示すればいいのか分からない。つまり神とは処女あるいは童貞ということになる」
なんだその謎の断言は――。
――ピコーン。
何とも言えない音がいきなり鳴った。
――――――――――――――――――――――――
名前:二条城 超太郎
性別:男
職業:紳士
――――――――――――――――――――――――
▽ 性癖
――――――――――――――――――――――――
ど、ど、ど、童貞ちゃうわっ!
――――――――――――――――――――――――
「!!?」
「な、な、なんか変わったーーーー!!」
「な、なんだってーー!!」
「な、なんだってーー!!」
うそ、そんなまさか女神さま、女神……え、つまりステータス神は……。
「ハッ!? 皆の者見るがいい。これこそ動かぬ証拠!」
――!!
「我らが主張の通り、ステータス神は男神であり童貞ではないのだ!!」
「うおおおお!!」
「女神像ハカイするべし。筋肉称えるべし」
「女神像ハカイするべし。筋肉称えるべし」
「女神像ハカイするべし。筋肉称えるべし」
「どうしてそうなる!」
もはやマキシム教たちが頭マキシムなマキシム狂へと変貌した。
これはヤバイ!
「皆さん。教会の中へ逃げましょう!」
「は、はい!」
暴徒と化したマキシムたちを逃れるため、神父と共に教会の中へと逃げこんだ。
◇
「ふむ、まさかこのようなことになるとは思ってもみなかった」
と、元凶が言っている。
「なんでお前も教会内に避難しているのだ!」
「この二条城超太郎は争いを好まない男だ。それに彼らの目、あの目は狂気を孕んでいた。一歩間違えば異端として火炙りとかもあり得るだろう。さすがに落ち着くまで彼らに近づきたくないな」
「とにかく落ち着きましょう。彼らとて事を大きくするつもりはないはず」
シファー神父の言うとおり、一時的に興奮しているだけで、時間が経てば大人しくなるだろう。
なぜならあまり派手に動くとステータスに《異端》、《殺人鬼》、《大悪党》などの物騒な称号がつく。
それがあるから頭マキシムたちも普段はおとなしい。
『女神像ハカイするべし。筋肉称えるべし』
『女神像ハカイするべし。筋肉称えるべし』
「どうやら皆さんお困りのようですね」
シスター・ミカが教会の奥からやってきた。
「おおシスター・ミカ。どうやら私の力不足で、彼らを止められそうにありません」
そうシファー神父がいう。
たしかこの二人は姉弟だったはず。
「そうですか。ならば原因である女神像をこの際、どこかに隠しましょう」
あっけらかんとした感じでミカがいう。
「確かに女神像の代わりにマッチョ像を置けば彼らもおとなしくなるでしょう」
「よろしいのですか。そのような事をして!」
ついマッチョ像が置かれる教会を思い浮かべて叫んでしまった。
「あまり良くありません。しかし本当に破壊されたらあとあとコワーい人たちがいっぱい来て、騎士団含めてみんな連れていかれますよ」
とシスター・ミカがいう。
うぐ、たしかに彼らの暴走を止められずに女神像が壊されたら、治安を守る騎士団そして兄も責任問題になりそうだ。
「わかりました。一時的に女神像を避難させるのはいいとして、一体どこに運ぶのですか?」
「さすがに中立の騎士団には置けませんし、私の家は教会のすぐ隣なのでダメでしょうね」
皆がうーむと悩んでいると、超太郎が前にでてきた。
「ふむ、ならば私の部屋に置けばいいだろう。言っては何だがあの部屋にはまだ何もない。等身大の女神像ぐらい置けるだろう。むしろこの争いが激化した原因はほとんど私の軽率な行動によるもの。ここは私を信じて女神像を保護させてくれないだろうか」
超太郎が濃ゆい顔でそう提案してきた。
たしかにあそこなら大丈夫だろう。
シファー神父が少しだけ考えてからゆっくり答える。
「……いいでしょう。しかし超太郎さんはそれで本当にいいのですか?」
「ふっ問題ありません。それよりあの美しい女神像を独占できるなんて役得もいい所。この二条城超太郎がほとぼりが冷めるまで預かりましょう」
「どうやら話はまとまったようね。それでは私がマキシムの注意をそらしますので、その間に運んでください」
そういい、シスター・ミカが外へ出ようとする。
「さすがにミカさんを危険な目に合わせては騎士の名折れというものです」
「うふふ、メリーちゃんに心配されるのは嬉しいですけど、私は大丈夫ですよ」
そう言って彼女は教会の外へ出た。
「むむ、シスターがでてきたぞ!」
「シスター・ミカ。今日こそは女神像を破壊させてもらいます。なぜなら、ついにステータスを介して神と交信する新しい預言者が誕生――」
「そこのあなた!」
シスター・ミカが叫ぶ。
「え!? お、おれですか?」
「アナタは10年前に孤児院を出ていったサイラスね」
「いえ……人違いです……」
「風のウワサでカジノですっからかんになってそのまま音信不通、どれだけ心配したと思ってるのですか!」
「いや、その……」
「それからそっちはスレイド、アナタはソーマですね!」
「う……」「いや……」
「まったく、何年も連絡もよこさずに、いつの間にマキシム派になったのですか。挙句の果てに我が家を襲うとは――そんなふうに育てた覚えはありません!」
「………………」
「返事をしなさい!」
「「「ゴメンナサイ、ミカママァ……」」」
「ええい、何をやっておる。すぐに中に入って女神像をマッチョ像に変えるのだ!」
「アナタね、子供たちを筋肉の世界に引きずり込んだのは!」
「……いや別にそう言うことではなく……」
「いいから、全員座りなさい。今から説教8時間コースです!」
「「「そ、そんな~~~~!!」」」
外ではシスター・ミカが暴徒たちにお説教を始めた。
うん、知ってた。あの人は孤児院出身者たちのお母さんであり、ついでに子育て経験の少ない若お母さんたちの先生でもある。
つまりこの壁の中で生まれ育った人で彼女に頭が上がる人はほとんどいない。
いるとしたら外から流れてきたマキシム派ぐらいだろう。
「さあ、今のうちに女神像を運び出しましょう」
シファー神父に言われて女神像の移動を手伝う。
その後、何とか彫刻を荷車に移して、コッソリと教会から抜け出す。
マキシム派はシスターの説教をちゃんと聞いているようだ。
こうして女神像は超太郎の部屋へと運ばれるのだった。
その後も大変だった。
まず騎士団で始末書を提出したら、兄にこっぴどく怒られた。
次に女神像が無事か常に確かめるため私が特別護衛として超太郎の警護につくことになった。
そう騎士団の仕事として正式に超太郎と一緒にいることになったのだ。
どうしてこうなった?
◇
「女神像を取り戻せ! マキシム派を追放せよ!」
「女神像を取り戻せ! マキシム派を追放せよ!」
あれからマキシム派との抗争は聖都から派遣されてきた異端審問官のひと睨みで沈静化した。
マッチョ像を置かれたらこれ以上争う理由は無いというのもある。
しかし住民の抗議の声はすごく、今度はマキシム派の声が小さくなっている。
それにシスター・ミカの説教で改宗者も続出しているのも影響している。
そのうち女神像に戻されるだろう。
私はその女神像が置いてある超太郎の部屋へと向かっている。
ちょっと落ち着いたのでここ数日の出来事を思い出す。
思えばあの超太郎はスキル《劇画調》のせいで顔が濃ゆいだけであって、言動は常識人のそれだった。
少々潔癖というかこだわりが強く、小さなことが気になる性格というだけだ。
そう言う人は魔法都市の研究者によくいる。
それに対して私はなんだ?
訓練に明け暮れるアホの子の世間知らず。
そして頑強力が高くてエムッ気の素質のある子だ。
散々疑いの目を向けといて、私の方がヘンタイじゃないか。
まず彼にあったら謝ろう。
今までの非礼を詫びて、彼のように紳士的に接するべきだ。
そうだ街の人たちも濃ゆいというだけで避けている。
だったら両者の間に入って取り持ってあげよう。
そうやって勘違いされやすい彼をこのファースの街の住人として受けいてあげよう。
「超太郎いるか。私だメリーだ。入るぞ」
そう言って彼の部屋のドアを開ける。
「ペロペロぺろぺろペロペロぺろぺろ……あ」
超太郎が、あの超太郎がステータスの女神像の太ももを舐めていた。
「ぴゅっ!」変な声出た。
「ああ、すまない。ずっと我慢していたのだが、もうどうにも止まらなくて――実は私は、その”プロセルピナの略奪”って知っているかい?」
知らんわ!
声が出ないので頭をフルフルさせる。
「バロック調のイタリア芸術で、子供の頃に見識を広めるために親に連れられて見たことがあるのだ。そのときに……ふふ、あの硬いはずなのに軟らかい太ももを見た衝撃はスゴくて……鼻血が出るほど興奮してしまった」
はわわわわ……はわわわわわ…………。
「それからというもの好きなんだよ。太ももが、それも彫刻の太ももが……フェティシズム・ステイタスにこれが記載されてなかったから違和感に気がついたくらいだ」
やばいやばいやばいやばい。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
「まあ私自身認めるがこの嗜好は少々特殊でね。そのせいもあってこの歳で未だに童貞なのだよ。ふっ本当に我ながら困った性癖だ」
「へ……」
「おっと少々自分語りをしてしまった。けれど安心したまえ、私は平穏なスローライフを望む紳士だ。この街で困ったことがあれば手助けを――」
「ヘンタイだーーーー!!!!」
大声で叫んでから私は駆けだした。とにかく逃げだした。
私の名はメリークリスマス・アップルティー。
本物のヘンタイに比べれば、エムッ気なんて悩む必要のないノーマルだと気がついた。
頑強力が高くて、アホ毛がトレードマークの普通の女騎士。
そしてこれから二条城超太郎というヘンタイと行動を共にしなければいけない。
それが私だ。
「そんなのイヤアァァァァッーー!!」
おわり
最後まで読了ありがとうございます。
この作品で腹筋が鍛えられたら嬉しいです。
それから星の数で評価してもらえると、作者が評価数分だけ腹筋します。たぶん。