09 元仲間 救えるのか?女神の魅惑に抗うアイリ
異世界から召喚された俺は女神からゴブリン野郎の烙印を押され、あっさりと追放された。
一緒に召喚された5人の仲間は王宮で過ごしていた。
大賢者ハルト、聖騎士リューイチ、大聖女アイリ、大魔術師ミサキ、テイマーイチカの5人、全員それなりに卓越した力を持っている。
この世界の人達と比べたらかなり高いステータスのようだけど、5人は多かれ少なかれ女神の魅惑の影響を受けていたので、理不尽な扱いにも逆らえず最悪の状況へとどんどん流されていった。
ところが、大聖女アイリは元々持っていた状態異常耐性が強力な魅惑に晒されることで特別な反応をした。しばらく時間がかかったものの耐性を得ることができたのだ。
新規で魅惑耐性のスキルを得るに到った。
「えっ ? これって !? イタタタッ !!」
魅惑の耐性を得るとハッと我に帰った。
頭がモヤッとしてガンガンと痛み、過ぎた時間の記憶を整理すると、召喚されてから今までのことを思い出した。
自分の経験したことだというのに、なにかYチューブか映画でも見ていたような感じだ。
その中でもケンタローが追放された事が悔やまれた。
仲間を助けられなかった事を悔しく思った。しかし、自分達が正常だったとしても助けられたかどうかは解らないとも思った。あの場は完全に支配されていたからだ。
同室のイチカとミサキは魅了されたままだ。それを解く方法は大聖女の能力をもってしても解らなかった。できることは隙をついて少しずつ話し掛けることぐらいだった。ただ、女神から距離を置くと魅惑は少し和らいだように感じた。
魅惑されたフリをし続けるのも、いつまでバレずにいられるか分からない。
とても厳しい状況でケンタローには悪いけれど、仲良しのイチカとミサキ、そして顔見知りの男子二人が身近に居るのは心強かった。
翌日
常にそばにいるメイドというよりも世話係が随分早くに起こしに来た。
「起床の時間です目を覚まして下さい !」
雑に起こされて、ササッと顔を洗わされ、歯を磨かされ、すぐに腹に入れられる物を食べさせられて、急いで研修する部屋へ連れられた。
毎朝、時間にゆとりを持って、朝食後のティータイムと読書の30分を楽しんでいたアイリには苦悩でしかなかった。
それとは逆に、毎朝、ギリギリまで寝て、30分で身仕度して朝ご飯を掻き込んで、コーヒーまですすって目を醒ましてから出掛けるイチカには苦悩は全然無かった。むしろ、ありがたかった !
午前中は女神様も同席で、この国のあらましと一般教養、質疑応答も受け付けた。女神がハルトとリューイチを侍らせる姿にアイリは眉をひそめた。
午後からは武術の指導を受けることになった。
ステータスやスキルの面で優秀なハルトとリューイチはかなり良い線を行っていたんだ。一般の衛兵では模擬戦の相手にならない程だった。
戦闘の経験など全く無い、普通の学生だった二人なのにスゴい動きを見せるのでアイリはとても驚いた。それに比べると女子はそれほどでも無かったんだ。アイリとイチカはそれなりに対応できたものの、ミサキは壊滅的だった。
その後、魔術の指導を受けた。
魔術の出来はハルトとアイリが抜群でリューイチとミサキはボチボチ、イチカはイマイチだった。
ミサキは大魔道師だというのに、レベルの低さが足を引っ張ってそんなに良いところは見られなかった。それだけに印象はかなり悪かった。初日の出来を見て既に女神はハルトとリューイチとアイリは優秀。ミサキは使えないという評価をしていたのだった。
アイリ以外の四人は魅惑に支配されていて、順調に黙々と研修は進められた。
傀儡のように従わされる4人の姿はヒドく気味が悪かった。
そしてその翌日には城から出て、町の様子を見ることができた。美しい町だった。そのまま町の外へ出て戦闘訓練が行われた。
当然女神も同行したんだ。当然のようにハルトとリューイチを左右に侍らせていた。ロックオン状態なのだ。
二人はずっと女神の近くにいるので魅惑がしっかり効き、かなり彼女に気持ちが傾いているように見えた。まるで恋人のように見える。
「ハルトには負けないからな !」
「勝ち負けよりも、安全重視だろ ? 慣れるまで、慢心は禁物だよ !」
二人が競うように魔物を倒していくので、女子が活躍する場はほとんど無かった。
初日は弱い敵ばかりでレベルはあがらず、二日目に少し強い敵を倒し、ハルトとリューイチはひとつずつレベルが上がった。
5人ともそれなりに、レベルが高くって上がりにくいようだ。
一番レベルが高いのはハルトが62、次がリューイチの55。
このクラスだと簡単にはレベルが上がらないモノなんだ。ゴブリンだと1万匹倒しても上がるかどうか判らないからね。
女神の魅了から脱したアイリは強い自我を見せず静かにして、掛かった振りをしていた。賢明な判断だといえるだろう。女神と目が合うとヒヤッとしたけど今のところばれていないようだった。
どうにかして仲間の魅了を解きたいけれど、今のところアイリに手段は無い。
イチカとミサキが女神と接する時に「わたくしの方が女神様を崇拝しています」等と言って、自分が矢面に立つことで彼女達を少しでも遠ざけたのだ。
女神の魅惑に抗うのは凄くキツくて、頭痛や倦怠感に襲われて吐き気がするほどだったけど、友人を救う為にできることは何でもしたかった。
ハルト達には悪いけど、女神が男子に掛かり切りなのは都合が良かった。
心のなかで謝りながらも、女神に鼻の下を伸ばしてデレデレしている男子の姿を見るとちょっとだけイラッとして、自業自得じゃない ? と思ってしまう、思春期の女子だった。
ところがその日の夜
「あれっ ? わたし…… ? 痛タタタッ !!」
アイリの必死な対応が功を奏してイチカが魅了から離脱して、頭痛を訴えたのだ。
「ああ、良かったね !」
アイリは泣き叫びたい程に嬉しかったけど、周りを見渡し監視の目を確認したので、軽く包容して耳元で囁いた。
「ずっと女神に魅了されていたのよ ! 監視の目があるから普通にしててね♡」
「うっ、うん、分かった ! アイリ、面倒掛けてゴメンね !」
「ううん、イチカが目覚めて泣きそうなくらい嬉しいよ ! 取り乱したりしちゃダメだから、冷静に、落ち着いて、バレないようにするから…… 」
そして、アイリとイチカの二人で語り続けると、翌日になってミサキも脱することができた。二人とも、喜びを押し殺して冷静にミサキに説明した。三人は夜になって、女子の部屋に入ってから、やっと静けさの中で密かに女子全員の回復を祝った。
魅了から脱し、立ち直った彼女達はそれを悟られることなく上手く相談して協力し合った。元々はそんなに仲良しでも無かったけれど、そんな困難を乗り越えることで三人の絆は強くなっていった。




